空へのあこがれ
5.航空気象
ヨットで海に出ることに憧れていたので、小学校の頃から、NHK第二で放送されている「気象通報」を聞いて天気図を描いていた.
中学・高校では、天文・気象部だったので、日中は、雲の観測をしたり、やはり、16時からの気象通報で天気図を描いていた.
なので、気象に関してそれなりの知識があったため、航空に関する気象では、新たに勉強しなければならない事は、それほど多くはなかった.
米国では、単位系が違うのでその換算や、雲などの名称を英語で覚えなければならないとか、露点、アイシング、雷など、具体的な危険性に関する知識、昨今の天気情報(天気図、衛星写真、赤外線衛星写真)の理解についての勉強を付け足した。また、米国(特に東海岸沿岸)は、日本のような高い山がないので、山岳波や乱流などに実際に会うこともなく、ほとんど触れられなかった.逆に、西海岸沿いでは、ロッキー山脈などがあり、高い山を越える事があるので、それなりの勉強・経験・訓練が必要ではある.
カナダでは、山岳地方を飛ぶためには、その教育を受けた証明が必要となっている.
露点とは、空気に含まれる水分が露となって析出する(空気中にとどまれなくなる)気温の事。
つまり、湿度100%になる時の気温.
空気がこの気温以下になると、空気中の水分(水蒸気)が水(或いは氷)の粒となり、空気中を浮遊するようになる。
これが雲となって観察される.
また、露点が氷点下だったりすると、これが氷の粒となり、この雲に入ってしまうと、翼やプロペラに氷がつくアイシング(着氷)が始まる.
アイシング(着氷)が、主翼やプロペラに生じ始めると、主翼の揚力が急激に減少、プロペラの効率が減少し、飛んでいられなくなる.
なので、湿度が100%(露点以下)の所を飛ばないように気をつけるのは、飛行機を安全に飛ばすための基本中の基本.
これを避けるのは、"雲の中を飛ばない" ければ良いことになる.
何故なら、湿度100%で雲ができるのだから.
最悪なのは、雲の中で、気温が氷点下の場合.
こういう状況だと、みるみる間に、主翼の前縁に着氷が始まる.一般には、前縁に1インチの着氷ができると飛行機は浮いていられなくなる(主翼が揚力を作り出せない)と言われている.
デアイス(防氷装置)が付いていれば良いが、無ければ、すぐにでも雲から抜け出る必要がある.
プロペラも同じ.
プロペラは、プロペラの中央(ハブ)部分あから、高級アルコール(ジエチレングリコール)を吹き出して、着氷を防止する装置が付いている飛行機もある.
気温は、高度が高くなるに従って下がってゆく(高度5km位までの逆転層まで).
下がり率は、おおよそ、100m(3,30ft)当たり−1℃ 位.
これは、湿度によっても変わるので、ザクっとした数字.
長距離旅客機が飛ぶような高度33,000ft(FL330)では、大概 −40〜60℃位になっている.
なので、第二次世界大戦時の戦略爆撃機などは、高高度を飛ぶため、周りの気温がー30〜ー50℃となるため、防寒着として厚手の羊皮のジャケットを着ていた。これが、今、売られているボンバージャケットの由来.
今は、暖房があるのと、動きやすくするため、フライトジャケットは薄手になり、戦闘機用などのA 1ジャケットタイプは、不時着時、捜索隊に目立つように、オレンジの裏地になっている.
ターボチャージされている小型機の上昇限度が、約18,000ft(パイパーターボアローの場合)なので、乾燥した空気であれば、地表が18℃であっても、空は0℃を下回る.
寒気がきていれば、もっと下がることになるので、簡単に氷点下になってしまう.
以前、北海道までのフライトの途中、寒冷前線を飛び越える時、16,000ftで少しだけ雲の上をかすめたら、瞬く間に、翼のリーディングエッジに氷が張り付き始めて驚きと恐怖を感じた事がある.すぐに、そこを抜けたので、乾燥した空気中だと、アイシングは瞬く間に消えてゆく.
雷(サンダーストーム、ライトニング)は、遭遇しないに越したことはない。
金属の機体の表面を通って空中に放電してしまうので被害がない場合が多いが、部分的に凹んだり、時には電流で溶けて穴が空いてしまったりする場合もあるので、極力避ける。
風の強さ、風向の変化
などにも注意が必要.
飛行機は、空気中を飛ぶので、吹いている風(空気の流れ)の影響を大きく受ける.
特に、横方向からの風を受けると、目的地の方向に向けて飛んでいても、結果、風下側に流されてしまい、目的地からズレた場所に向かって飛んでしまう.
なので、(昔は)飛行中、近くの空港の気象状況を聞いて、風の影響を考慮し、風に対する補正計算をして、その分、ヘディング(機首方向)を風上側に振る作業をしていた.
最近は、GPSがあるので、予定のコースから、ずれるとすぐに分かるので、予定のコースからずれないように、数度風上に機首を向けて飛行するようにする.
風の偏流量を計算するために、E6Bフライトコンピュータ(計算板)を使うと便利.これによって、三角関数を使わなくても、作図だけで補正量が計算できる.
E6Bの偏流補正計算盤の例(写真)
これは、日本の航空大学の学生が使っている日本製の計算盤.
同じメモリ、同じ仕組みで、アルミで出来たものが、米国では安く売られている(2,000円位からある).
自機の速度や方位をセットし、風の方位や速度をプロットすると、補正値(合力の計算)から合成速度などがわかる.
この計算版の裏は、計算尺になっている
航空気象でもう一つ大きな特徴は、
"飛行機は、離陸した後、目的地まで飛行し、着陸するので、その着陸地のその時の気象が、着陸可能な範囲であるかの判断が必要" なことだ。
つまり、航空気象に求められるもう一つ重要な事は、
数時間後の気象状態を正確に予測し、それによってフライトの可否を決めるという事だ。
小型機は、基本的にはVFR(有視界飛行)で飛ぶ事が多いが、雲や雨などで、視界が良くない、或いは、雲の上を飛んでいて地面が見えないときはIFR(計器飛行)で飛ぶことになる。
エンルート(目的地までの巡航中の飛行)は、それで良いが、最後の着陸は、滑走路の手前3〜5kmほどまでは、計器やレダー誘導でアプローチできるが、着陸時に滑走路が見えなければ着陸はできない.
飛行機の着陸は最終的には "目視"で行う.
つまり、視界ゼロでは着陸することができない.
計器飛行では、アプローチ(のミニマム)までは計器誘導で降下できるが、最後は目視で着陸させる.
そのため、滑走路が見えない状況では、どうやっても着陸することはできない.
着陸時の視界によって、条件による着陸できるレベルが異なっている。
(巡行中は、別の規定が適用される)
・有視界条件:
アプローチを含め、完全に有視界での着陸をする際は、少なくとも、視程が5kmは必要.
(進入する時点で、5km以上先の滑走路が見えなければ、進入アプローチができないので、最低5km先が見える必要がある)
・計器飛行条件:
IFRでの着陸には、視程が3km以上必要.
(滑走路のかなり近くまで、計器により進入できるので、3kmの距離で滑走路が見えれば着陸可能)
・計器着陸条件(カテゴリーII、カテゴリーIII)
アプローチから、着陸までのかなりの部分を計器誘導により行う.特に、カテゴリーIII(3)の設備があると地表近くまで、計器により自動で降下できるので、視程がかなり悪くても着陸できる.
このCAT3での着陸は、CAT3の設備がある空港(日本では6箇所ほどしかない)において、CAT 3着陸の技能証明を持ったパイロットでしか実施できない.
(成田、羽田、釧路、熊本、青森、千年、中部、広島など)
・スペシャルVFRでは、 3km以下の視程の場合での特別な例
(コントロールされた空域で、他の飛行機が飛んでいない条件で、最低限の視界での視程.雲に入っていないという条件付き)
なので、
飛行場に設置されている航空灯火は、その明るさが、明るい、普通、薄暗いの3段階に調節できるものが多い.
視程が悪い時は、明るい方が、遠距離まで見えるが、空気が澄んでいれば、明る過ぎる着陸灯は、眩し過ぎて、他の対象物を見逃す可能性があるので、その気象状況に応じて、明るさを変えることができるようになっている.
米国の無人の(夜間などで、タワーがクローズの空港も同じ)空港では、滑走路灯やアプローチライトなどを、飛行機からの無線操作によって点灯させることができるようになっている.
空港の場所を示す「飛行場航空灯台」は、夜間(日没〜日の出)は常時運用されて(民間空港:白→緑→白→緑の繰り返し、軍用の空港は:白→白→緑→白→白→緑の繰り返し)いて、空港の位置を教えてくれる.