空へのあこがれ

 

フライトトレーニング グランドスクール③

 

3.内燃機関(エンジン)

 

主に小型の飛行機で使われているピストンエンジン(レシプロエンジン)は、自動車やバイクのエンジンと殆ど変わりがない。

 

ドイツのBMWやメルセデスは、第二次大戦当時はエンジンメーカーだった.

メルセデスの三角星マークや、BMWの青白のマークは、飛行機のプロペラをモチーフにしているということは有名な話.

 

日本のスバル(富士重工)は、第二次対戦中の中島航空機という会社で元々は飛行機メーカー.

富士重工業は、戦後の昭和時代もFA−200(エアロスバル)という大ヒットした小型機(そのままアクロバット飛行ができるほど強度があった.この飛行機のテストバイロットは、零戦パイロットだった坂井三郎氏.少し前までは、航空大学の最初に訓練に使われていた飛行機でもあった)やFA−300(後のコマンダー500として米国でも販売された、与圧がついた双発機)などの飛行機を設計・生産していた。

現在でも、自衛隊向けの練習機などを生産している.

 

 

航空機エンジンと自動車用のエンジンと違う点を強いて言えば、飛行機で使われているピストンエンジンは、昨今の自動車用エンジンのようなOHCやDOHCのような「カムシャフトがシリンダーヘッドに着いた形式」ではない点だろう.

 

航空機のエンジンは、バイクや車のエンジンで言うと1960年頃まで標準であったOHV(オーバーヘッドバルブ)という形式で動作している。

(現在でも、ハーレーダビッドソンなどの大型エンジンはOHV.また、船舶の大型エンジンも、ほとんどがOHV.これらは、大排気量の低速回転型のエンジン)

 

OHCやDOHCは、エンジンを6,000〜20,000回転など、高速で回すために発達した技術.

OHCやDOHCは、カムシャフトをエンジンヘッド側に取り付け、高回転であっても、バルブタイミングが正確に開閉できるようにした結果の技術.

車やバイクでは、最高出力を出す回転数が 6,500〜16,000rpmと高回転域がほとんどだが、飛行機用レシプロエンジンは、(多くのエンジンで)2700rpm辺りで最大出力を出すように設計されている。

つまり、飛行機用エンジンは、自動車などに比べて、低回転で使われることを前提として作られている.

 

それ故、高回転で出力を出すための工夫であるOHCやDOHCなどにする必要がない.

 

 

一般的に、飛行機のエンジンでは、排気量が4,000cc位200馬力程度の出力しか取り出していない.

(自動車やバイクだと、高性能エンジンでは、リッター100馬力、つまり1000ccで100馬力ほどの出力を出すのが普通)

 

その最大出力を2,700rpm付近という低回転域で取り出すように作られている.

 

つまり、飛行機用のエンジンは、

大きめのエンジンをかなりの余裕を持って低回転で運転

するように設計にしてある.

これにより、エンジンの信頼性を確保している.

 

また、多くの航空機用エンジンは空冷である

 

水冷の方がエンジンの冷却効率や、多くのシリンダーを均等に冷やす事ができるメリットがある一方、その分、構造が複雑になるし、冷却水のメンテも必要.重量が増え、故障する可能性がある部分が多くなる(冷却水ポンプ、冷却配管、ラジエター等々).

 

昔は、空冷のエンジンを積んだ自動車は結構あった.

スバルN360や、鈴木フロンテなどの、軽自動車のエンジンは空冷だった.

フォルクスワーゲンのビートルや、ポルシェ911の1996年(タイプ993)までは、エンジンが空冷だった.

また、二輪車の多くのエンジンは空冷.

 

空冷にすることで、部品点数を減らし、構造を簡単にし、エンジンの重量を減らすこともでき、故障や整備の手間がかからないように工夫がされている.

 

 

航空機エンジンが、「大きめのエンジンをかなり余裕を持って運転」しなければならない理由は、

 

飛行機用エンジンは、

最大出力(100%)で数分間以上(離陸時や、急速な上昇をする時)

75%出力状態(ハイスピードでの巡行中など)で何時間にもわたって

エンジンを回し続けるような使い方をするからだ.

 

自動車やバイクのエンジンは、レースででもない限り、上のような条件で使ったりしない.

自動車やバイクでは、エンジンの運転時間の殆どは、最大性能の15〜30%位の出力でしか使わない.

 

例えば、私が使っているシボレーアストロ(4,300cc)だと、高速道路を100km /hで走っている時の回転数は、1700rpmほどだし、

1986年製ポルシェ911は、120km /hで丁度、3000rpmとなる(トップギアだと).

これらは、エンジンの最大出力の35〜40%位の出力範囲である.

 

それに比べ、飛行機のエンジンは長時間に渡り、50〜80%程度の出力を出し続けなければならない.

 

 

レシプロ航空機エンジンのもう一つの特徴は、

1シリンダー当たり2つの点火プラグが取付けられている

(点火プラグだけではなく、点火システムが、独立して2系統ついている)

というこという点である(デュアル点火システム).

 

自動車でも、(例え)ばポルシェの964型など、デュアル点火のエンジンを積んだものが、たまにはある.

しかし、これは非常に珍しい例であり、一般的にはシリンダーヘッドに場所が取れない事もあり、ほとんどの自動車・二輪のエンジンはシングルプラグである(昔、排ガス規制をクリアするため、薄い混合気にしていた時代があり、その時、ツインプラグのエンジンが流行った時もあった).

 

しかし、航空機エンジンには独立した2系統の点火回路が取り付けられている.

プラグの点火タイミングを作るマグネトーも2つ.点火コイルも2つと、全てが独立して二重に作られている.

万が一、どちらかの点火系が故障しても、エンジンは回り続けるような構造になっている.

 

また、飛行機の点火システムは、外部の電気を使わない、マグネトー方式が採用されていることが多い.

マグネトー方式とは、点火に必要な点火タイミングと電力をエンジンの回転によってエンジン自身で作り出す電気で工藤する方式の点火システムを指す.つまり、外部からの電源が不要.

 

これによって、飛行機の電気システムすべてがダウンしたとしても、エンジンは、それらに関係なく、勝手に回り続ける事ができる.

 

エンジンは動力機にとっての生命線なので、飛行機では、それが止まらないように、安全に対しての二重三重の対策がしてある.

 

これらの安全の考え方に基づいて作られている飛行機のエンジンシステムは、一旦、エンジンが回り出したら、

「燃料がなくならない限り、エンジンが止まることがない」

ように設計されている.

 

 

航空機用のエンジンは、200時間毎に点検整備を行い、2000時間毎にオーバーホール

(エンジンを降ろし、分解して全ての部品のチェック)が義務付けられている.

 

 

 

中央赤いレバーが、ガソリン・空気の混合比を調整するミクスチャーレバー。

その左側の横長の大きめのノブが、エンジン回転数を調整するスラストレバー。

その左側の計器が、エンジン回転計、その上にある丸い計器が排気温度計、

その左下が、左右翼の燃料計.

ミクスチャーの右にあるレバーが、キャブレターヒートレバー.

 

Piper Archer IIIのコックピット(N415CA)