ペースメーカーを入れている姉を診察に連れていく日、8時30分ぐらいに車で迎えに行くと、玄関のチャイムを鳴らす私に、近所の男性が声をかけてきた。

 

 さっき若い人に連れられて行きましたよと。え、そんなはずでは、今日はペースメーカーの検診の予約をしてあったのに...

 

 認知症が進んできた姉は一事が万事そんな風になっていた。5分前の話は忘れている。たとえ迎えに行く時間を10分前に電話で知らせても、他の人が来たら一緒に行ってしまう。

 

 90歳を超えても足腰はしっかりしていた。結構早く歩くことができた。出かけることも大好きだから行ってしまう。

 

 つれに来た若い夫婦は団子女の娘と婿。団子女は娘夫婦と同居していた。親のやっていることは知っていただろう。

 

 ただ、団子女は自分のやっていることを、正しいことと説明していたかも知れないその時はどこに連れて行ったかは分からなかったが後で知ることになる。

 

 私が姉にも後見人をつけなければと申請を弁護士に依頼した。弁護士に頼んだ料金が30万程、裁判所が決めた専門の認知症検査をする医師に支払う料金が5万円。

 

 老人医療専門の医師が派遣され、いろいろ検査質問をされたのだが、「なんでそんなことばかり聞くの」と怒り出したりもする。

 

 とてもプライドの高い人で 、自分は頭がいいと言っていた。今でも算盤1級だから銀行員と競争しても私のほうが早い、機械のほうが間違えるしと言う。電卓は機械と言う。そんなこと競争するはずもないし、妄想の世界に入り込んだりしていた。

 

 タクシーが来ないので、警視総監に電話したら高級車ですぐ迎えに来てくれた。警視総監の話は毎日のようにでる。

 

 馬鹿馬鹿しい話をフンフンと聴いてあげるのも、だんだん嫌になってくる。こんな風になりたくないな、自分のことが心配になってくるのであった。

 

 若い夫婦の連れ去り先が分かったのは、団子女が任意後見を開始するのに認知症になった事を証明する為に病院に連れ出したのだった。

 

 この時病院の待合室で動画を撮ったものを裁判所に提出した。「〇〇さんは何も面倒見てくれないんでしょ?」誘導尋問を繰り返し養女の私を悪者にする動画だった。

 

 先に専門家の医師の診断書に、出来るのはあいさつ程度で他の理解は出来ていない。会話で誘導されれば容易に欲しい回答が得られる。

 

 何でも聞きたいことはハイハイと答えるだけだからである。同じ話でも嫌なんでしょ、と聞けばハイと答え、いいでしょと聞いてもハイと答える。

 

 この動画は一審で任意後見人として相応しくない、との審判に対し不服で控訴したときに出された。

 

 団子女の勝てるはずのない控訴は、二審で棄却されたのであった。さすがに次の控訴はなかったので、私の申請を相当の理由として判決した。

 

 裁判所は団子女に盗まれた高額なお金を盗り返すためには、弁護士が相応しいと全く知らない女性弁護士が後見人に決まった。  

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