稲城市民オペラのブログ

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東京・多摩地区にある稲城市に生まれた市民オペラ団体です。合唱メンバーはオペラが初めてという方がほとんどですが、皆さんオペラの魅力に虜となり、楽しんで稽古に励んでいます。

合唱団長の高橋です。

 

本公演稽古とともにオペラ文化祭の稽古も、いよいよ佳境に入ってきました。


現在は、オペラ文化祭の目玉でもある創作音楽劇の立ち稽古と併せて、

「台本を読み込む」という非常に重要な訓練をしてます。

 

今回は、この「台本の読み込み」について取り上げたいと思います。

 


(昨日の、オペラ文化祭立ち稽古の様子)

 

オペラにおいても、必ず台本が存在します。
通常の音楽稽古では、ヴォーカルスコア(各声部とピアノのみが書かれた楽譜)が基本となります。もちろん歌詞は原語で書かれているため、各自で日本語訳を書き込みます。

歌詞の意味も理解した、発音も身につけた。あとはスコアに記された強弱記号や表現記号を意識して歌えば完成――

 

…ではないんです。

 

合唱曲でも同様ですが、演じる以上は台本を深く読み込む必要があります。
特にオペラは上演時間が2〜3時間に及ぶものも多く、

全体を把握するのは簡単ではありません。

しかも外国語となれば、そのハードルはさらに高くなります。
それでも、やるしかありません。
もしかすると、多くの市民オペラ合唱団は踏み込みきれていないのかもしれません。

 

では「読み込む」とは、どういうことなのでしょうか。
これは先日の稽古でも重点的に取り組んだテーマです。

 

台本には、論理的な矛盾が数多く存在します。

・この台詞は文脈に合わない

・キャラクターにそぐわない台詞だ

・なぜここに台詞がないのか

・その接続詞は論理的にあり得ない 等々
それは制約の多い芸術における必然であり、

意図的に仕掛けられたものでもあります。
言い換えれば、それは「作者が意図的に生み出した論理の隙間」です。

 

この“隙間”がいいんです。


そして、その隙間を埋めるのは役者の役割です。
だからこそ、同じ作品でも演者によって異なる多様な表現が生まれ、

私たちはそれを何度でも楽しむことができます。
もし台本がその隙間をすべて言葉で説明してしまったとしたら、

きっと味気ないものになってしまうでしょう。

 

では、その隙間を埋めるための手がかりはどこにあるのでしょうか。


それは台本にある全ての情報(時代背景なども含みます)の中にあります。
部分だけを読んでいては見えてこないことが多いのです。

論理の隙間が意図されたものであれば、なおさら徹底的に読み込みます。
仮に意図されていなかったとしても、それすら意図であるかのように捉え、

同様に深く読み込んでいきます。

 

さらに、オペラには大きなヒントがあります。

それが音楽です。
音楽そのものが、論理の隙間を補う役割を果たしていることも少なくありません。

昨年上演した『子供と呪文』では、ラヴェルが音楽の中に数多くの“答え”を忍ばせていました。

 


オペラにおいては、音楽もまた読み込むべき台本の一部なのです。

 

演者がセリフ(歌詞)の一つひとつに徹底的に向き合い、

悩み抜き、苦しみ抜くことで、表現は確実に豊かになっていきます。
そしてそのエネルギーは、必ず観客に伝わります。
(逆に言えば、その過程がなければ伝わるものは何もないかもしれません。)

 

『フィガロの結婚』が初演されてから、今年で240年になります。
この長い年月の中で、何十万、あるいは何百万人もの人々がこの作品に関わり、

悩み、苦しみながらそれぞれの答えを見出し、この作品の歴史を紡いできたのだと思います。

 

現代の私たちは、その数え切れないほどの英知の積み重ねの上に立っています。
いわば、240年という歳月を経て結実した圧倒的な知の集積が、

今、目の前にある『フィガロの結婚』なのです。

昨日今日の作品では到底敵いません。

私たちが今取り組んでいる作品は、まさにモンスター級の作品と言えるでしょう。

 

この“モンスター”とも言うべき作品を、皆様に存分に体験していただけるよう、

私たち自身もまた悩み、苦しみながら向き合っていきたいと思います。

 

オペラ文化祭は、私たちにとって“悩むための場”でもあります。
そして、お客様にもぜひその時間を共有し、ともに悩んでいただけたなら、

皆様それぞれに『フィガロ』像が形づくられていくのではないかと思います。

 

オペラ文化祭、そして本公演を、どうぞお楽しみに!

 

 

■オペラ文化祭「スザンナの結婚」

 ~フィガロは結婚、我らは結魂

 2026年5月10日(日)14時開演(13:30開場)/入場無料

 

■オペラ『フィガロの結婚』全幕 

 (助成 公益財団法人朝日新聞文化財団)

 2026年6月21日(日)13時開演(12:30開場)

 前売4,200円、ペア券8,000円、小中学生2,500円

 問い合わせ:稲城市民オペラ事務局  inaghiopera@gmail.com

 

いずれも稲城市中央文化センターホール