お待たせしました。
お待たせしました。
何があっても、知りませんよ。
あれっ、あなたの後ろに・・・・。
それでは、始めましょうか。
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“ズズズズッズズズッ”
自分のいる部屋の中、誰かずっているって言うんです。
“ズズズズッズズズズ・・・“
(うわっ!)
て思ったそうです。
それが回り込んで来るらしいんです。
“ズズズズッズズズッズズズッ”
て。
そして、自分の回りをクルッと通り過ぎて行くそうです。
その瞬間、かすかにね、
「ヘェヘェーッ、フフフゥー、ハァー、ヘェヘェー」
って、苦しそうな声がしたって言うんですよ。
たぶん、頭の側を通り過ぎて行った時でしょう。
“ズズズッ、ズズズズズッ”
「ヘェー、フッフッ、ヘェー」
“ズズズッズズズズズッ・・・”
誰かいる!
誰かが自分の部屋の中を、自分の回りを回っている。
ずって回っている。
(うわっ!)
と思ったけど、どうしていいかわからなくて、
暗闇の中、ただ黙っていたと言うんです。
(うわーっ、助けてくれーっ、助けてくれーっ!)
“ズズズズッズズズズッ”
そのうちにね、
“ビリッビリッ、ベリッ、ビリリッ、ビシッ”
て、何か剥がれるような、破けるような音がしてきたと言うんです。
あっちこっちから。
(うわわーっ!)
と思ったそうですよ。
しばらくして、
“ピチッピチッ、クチッ、クチッ、トーン”
っていう音と同時に、
「ハァーッ、ハァハァ、ハァーッ」
と、息づかいが段々と近づいて来て、
「ハァァァ、ハァァァ、ハァァァ」
と来たので、
(うわっ!)
と思ったら、息づかいが止まってしまった。
(スーッ)と力が抜けた。
(あああ!)
と思ってね、あわてて起き上がって、
カチンと電気を点けた。
全然、変わったことがない、自分の普段の部屋。
誰もいない。
もちろん。
汗びっしょりかいている。
(へぇーっ、今のいったい何なんだ?)
って思って、見るとはなくお札の方へ目を向けたら、お札がない。
破けてる。
取られてる。
全部、破かれたり、取られたり、剥がされている。
お札、全部。
それがグシャッと丸まって、部屋の隅に転がっていたって言うんですよ。
誰かがやったんです。
(ううーっ)
と思って、怖くなって友人の所へ行ったんだそうです。
「悪いけどおまえ、しばらくここへ泊めてくれないか?
俺、あの部屋にいたくない。
あの部屋、解約するから、それまでいさせてくれ!」
って頼んだそうです。
すると友人が、
「何があったんだ?」
と聞くので、
「実はこういうわけで・・・」
って言うと、
「わかった」
って言ってくれたそうです。
解約しても、何日かは部屋は本人のものですよね。
荷物を置いてますから。
友人に、
「昼間、一緒に荷物取りに行ってくれないか?」
と頼んで、友人とふたりでアパートに行ったそうです。
でも、どーもやっぱり怖いんですね。
「じゃあ、昼だから昼メシ食って、元気つけて行こうか」
ってことになったそうです。
たまたま近くにラーメン屋があったので、そこに入ったんです。
入ったら、カウンターの隅の方で、
マスターと常連客らしい人が大声でしゃべっているんですって。
で、テーブルについて(何を頼もうかなァ?)と思って、
メニューを見ながら、聞くとはなしに聞いたと言うんですね。
カウンターの方で、
「ああ、そうらしいよ。
あそこは誰も住まないよ。
こないだの人も出て行ったらしいし」
って言ってるんですって。
「やっぱ、出るんだな」
「何人も見てるよ、あそこで女の姿を」
「へぇー、やっぱりな」
って。
友人が、
「すいません、それって、あのー、幽霊の話ですか?」
って聞いたそうです。
そうしたらマスターが注文を取りに来ながら、
「ええ、そこんとこ少し行くとね、
白い壁のさ、2階建てのアパートがあるんだよ。
屋根がチョコレート色のね」
って言うんですって。
彼、思いましたね。
(そこ、自分の所)
「角の2階なんだけどね」
(やっぱり自分の所)
[なぁ、なんかあのー、あれだろ。
恋人に刺されたかなんかだろ、若い女が」
と、常連客としゃべり始めたそうです。
「なんかそのー、恋のもつれかなんか知らないけど、
刺されたんだろ?」
「凄かったってなァ」
「凄かったってよー、あれ。
だって血だらけだったんだろ」
って言ってるんです。
マスターが、
「ありゃね、
今だってね、畳をはいだら、
床板、血で染まってますよ」
って。
それを聞いてふたりとも、ガタガタ震えたってことです。
その部屋に住んでるんですよ、女性が。
今でもきっとね。