日本女子サッカーの未来について、考察してみる。


▲写真:WEリーグ 24/25シーズンキックオフカンファレンスより



▲図1:WEリーグ 2026/27向け移籍の人数感(7/19時点)

今夏の移籍市場について
・WEリーグから海外への移籍:少なくとも10〜11人規模
・海外からWEへの移籍:少なくとも4〜5人(帰還組+加入)
・WE内のクラブ間移動:20人超
・なでしこ→WE:少なくとも8人(完全7+期限1)。長野4・神戸3・ベレーザ1が中心
・WE→なでしこ等:出場機会を求めた下方移動も複数



▲図4:2026/27オフの女子サッカー移籍構造(イメージ)

数字だけ見れば「入れ替え」です。
でも、なでしこと育成の現場にいると、「構造の問題」にも見えます。


以前、取材でこう答えました。
「WEリーグは、目指してもいい場所になっているか」
INAC神戸前社長インタビュー、女子サッカーへの提言「WEリーグは目指してもいい場所になっているか」

この夏の移籍を見て、同じ問いが、より具体的になりました。

■ 海外へ——地方からも、強豪からも


▲図2:海外OUTの行き先(WE→海外・確定中心)


▲図5:出ていく/入ってくる——人数の非対称


◆海外チャレンジを表明した選手たち
・石坂咲樹(仙台→パリFC)
・佐々木里緒(仙台→フェイエノールト)
・島田芽依(浦和→ブレーメン)
・大場朱羽(ベレーザ→レンジャーズ)
・坂部幸菜(ベレーザ→HB KØGE)
・松原優菜(神戸→トゥルビネ・ポツダム)
・三谷和華奈(神戸→RIGA FC Women)
・中村楓(広島→台湾)
・松本奈己(C大阪→豪州)
・大熊茜(神戸・海外挑戦/移籍先は7/19時点で公式未発表)

フランス、オランダ、ドイツ、スコットランド、デンマーク、ラトビア、台湾、オーストラリア。

「トップクラブの主力だけが欧州へ」ではない。
出場分が限定的でも、挑戦の意思を示して海を渡る選手がいる。正GK級が、移籍先未定のまま海外挑戦を宣言するケースもある。(但し、大熊選手の場合は代理人が条件交渉などをしていると考えられますので、発表は時間の問題でしょう)

日本の選手の技術と献身性は、世界に「ばれてしまった」。
円安もある。WEで結果を出せば、1年、2年でオファーが来るかも知れない時代です。上昇志向の選手にとっては、明らかに前進です。


■ なでしこに関わるいま、見えること


▲図3:なでしこ → WE(直接ステップアップ ≥8人)


なでしこリーグは、チーム数も選手数も多い。
仕事をしながらプレーする選手がたくさんいる。
パラレルキャリア——セカンドキャリアではなく、いま同時に社会人としても選手としても立つ生き方——が、現実として機能しているクラブがある。

一方で、WEで輝けば海外が近い。
なでしこからWEへ上がる選手も、今夏だけで少なくとも8人です。

長野が4人。神戸が3人。ベレーザが1人。
静岡SSU、岡山湯郷、オルカ鴨川、ラブリッジ名古屋、伊賀、南葛——なでしこ側の名前が、WEのINリストに並ぶ。

その一方で、小峠明日香(神戸→岡山湯郷)、吉田琉衣(C大阪→岡山湯郷)のように、出場機会を求めてなでしこへ戻る選手もいる。なでしこは「人材プール」であり、「受け皿」でもある。

以前も言いましたが、WEとなでしこを分けている理由は、薄くなっているように感じます。
リーグが別々のため、昇降格がない。要するに最下位でも翌年もWEリーグで戦える。加えて降格を気にしなくて良いため、INACや浦和、ベレーザなど上位にはガチンコ勝負でジャイアントキリングのような戦いを挑んでくる。そこに苦戦を強いられてしまう上位チームもいけないのですが、プロ契約選手を何人以上、スタジアム要件も規定され、クラブ経営が圧迫されるようなWEリーグは果たして現状やそもそもの市場規模に合っているのか。

尖った意見だとは自分でも思います。
でも、3種・2種の現場に立つと、余計にそう思う。


■ 娘たちの世代は、何を目指しているか
3種・2種に関わるようになって、保護者の温度差を感じます。

一方は、熱心で、目標が明確で——そしてその先が、高校での活躍を見据えるが、その先は見えない。そして、WEはまったくと言ってほど試合を見る機会が少なく、その先の目標は海外になっている。
もう一方は、「いつまでサッカーするの」と冷静です。

どちらも、正しい。

問題は、国内最高峰が「憧れて、残って、積み上げたい場所」として見えているかどうかです。

観客が少なくてもいい、とまで言ったことがあります。
質の話です。
実際にボールを蹴っている子どもたちに、WEの試合を見せること。
保護者も来る。指導現場では「小中学生はWEのプレーを見た方が参考になる」という声もある。

なのに、サッカーをしている子どもたちにトップの試合を見せる取り組みは、まだ少ない。
なぜ、私が夕方キックオフの試合にこだわかったのかはこれが理由なのです。

そんな想いとは裏腹に、選手たちが海外に出るのは加速する。
それは止められないし、止めるべきでもない。

だからこそ、残る側のリーグとクラブが、
「ここにいたい」
「ここに来たい」
と思わせる物語と環境を、持たなければならない。

ゴールパフォーマンスでもいい。私服でもいい。地域との距離でもいい。
次の世代のターゲットは、メディアの数字だけじゃない。
サッカーをしている女の子たちです。

■ 男子の夏とも、重なる
この夏のJリーグでも、海外OUTの約9割が日本人、INの約8割が外国人、という非対称がありました。
J2・J3からも海外へ出る。

女子は、もっと早くその道を歩いています。
海外OUTは日本人の挑戦が中心。海外INは帰還組と少数の外国人。
人数の主戦場は国内循環でも、インパクトの主戦場は国境を越えた移動です。

選手の勝利と、リーグの宿題。
同じ市場で、同時に起きている。

■ 育成の現場から、いま言えること
1. 選手の海外挑戦は応援する
2. なでしこは人材プールであり、受け皿であり、パラレルキャリアの現場でもある
3. WEがなでしこと分断されたまま「通過点」になると、3種・2種の目標が海外だけになる
4. 子どもたちに試合を見せることから、憧れは始まる
5. 「出ていく前提」の設計は、クラブだけの話ではなく、リーグ全体の産業設計の話でもある

この夏の移籍は、健全な新陳代謝にも見えるし、国内リーグの厳しさの象徴にも見える。その点では、オファーがあっただろうにチームに残った成宮唯選手や吉田莉胡選手には、新シーズンではファンサービスの一環として、女子サッカーをしている子どもたちに向けて、特に中学生の女子サッカー選手に指南をする機会を増やして欲しいと願います。私が神戸にいるからINAC神戸の選手の名前を挙げましたが、各地でWEリーグの選手にはそれに取り組んで欲しいと思います。

海を渡る選手、WEに上がる選手、なでしこで働きながら蹴る選手、出場機会を求めてカテゴリーをまたぐ選手、引退を選ぶ選手。2026年夏の風景です。

私はもうプロの選手たちに指示をする立場でも契約を締結する立場でもありませんが、選手が世界へ羽ばたく時代に、クラブとリーグは、何を残すのか。もっと考えてもらいたい。それは娘たちの未来のために。


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※意見は筆者個人の見解です。
※参考:各クラブ公式発表/まとブログ WE移籍まとめ/OPIROBLOG 2026-27まとめ
※関連する過去の発言:Yahoo!ニュース エキスパート「WEリーグは目指してもいい場所になっているか」(北川信行さん取材)