とんでもなくみっともない初恋をした。
 今まで二人と付き合ってきたけども、よりにもよって顔も見たことのない人を初めて好きになってしまった。

 相手はイラストを描くのを生業としている方だ。
 僕が初めてあの人の絵を見たときは一目惚れだったと思う。
 新しいコンテンツにハマって、また二次創作をやってみようってときにそれはもう夢中になってイラストを漁りに漁っていた時期があった。
 その中でもあの人の絵はなんか好きだった。あの時の気持ちを言語化することはできないけども、一目惚れってそんなものだと思う。
 ただ、僕のような物書きなんてのは絵描きにはなかなか手が届かない人だってのはよく身に染みていた。今となってはプロの漫画家とかとも一緒に同人誌を出したりとかしているが、以前の僕にはそんな自信なんてなかったし、今だってどうしてこんなにいろんな人と書けているのか不思議に思うくらいだ。
 だけどまあ、僕は変なことに好きだと思ったイラストにはコメントしたくなる性分なもので、あの人がイラストを上げる度にとにかく感想を伝えていた。あの頃から今に至るまで、ずっと好きな気持ちは変わっていない。
 コンテンツの中でも結構マイナー寄りというか、忌避されがちなカプを描かれていたのだけど、僕は好きなイラストであることに加えてあの人の熱に絆されていつしか僕もそのカプのことが好きになっていた。だから、あの人の影響でそのカプの小説も書くようになった。
 それを続けていたらいつの間にか向こうからこちらを見てくれるようになった。自分としては好きなものを書いて反応もらえたらそれで十分だったけど、好きなイラストを描く人と繋がれたことは単純に物書きとして認められたみたいで嬉しかったんだと思う。

 そこからはいろいろ仲良くやらせてもらっていた。
 とあるグループに入れさせてもらって一緒にゲームをやったり、イラスト描いてもらって同人誌を出したり、それがだいたい2-3年くらい続いていた。
 ただ、困ったことに僕は会話が苦手な方だ。それは相手も同じだったみたいで、二人きりで話をするとなるとどうしても間が持たないことが多々あった。それでも自分はよかった。自分は結構作業をしながら通話に入ることが多く、相手も絵を描きながら通話に入ることもあったから同じ考えだと思っていたからだ。特に作業していてしょっちゅう声をかける、なんてことはしないし、間が持たないからといって気まずいとは考えていなかった。
 通話とは別で、Twitterではそれなりに会話はしていた。といっても、表立って話をしていたわけでもなく、非公開のアカウント同士での会話だ。ここでもやはり僕は会話が苦手だったのも祟って、空中リプライが主ではあったのだけど、そのやり方なら性に合っていたのか、割といろいろ話はできていたように思う。
 非公開のアカウントともなると、僕的には結構プライベートなことを話しがちだ。仕事が忙しかったりとか、人間関係が上手くいかなかったりとか、そういう自分の弱さをよく話してしまうきらいがある。これを見てあの人は相談に乗ってくれたり乗ってくれなかったりしたわけで、いつしか自分にとって心の拠り所になっていた。
 それに、結構いろんなコンテンツ勧められて始めたのもあった。半分くらいハマって、半分くらいは今も続けている。今の自分があの人が何割かで占めているくらいになっていると思う。
 あとは辛いことがあって気分が沈んでいたときだったり、原稿が切羽詰まっていてあまり余裕がないときには愚痴を零していたのだけど、そんなときに慰めて(実際そうだったかはわからないが)くれるかのように「イラスト上げたよ」なんて報告してくれたときも結構あった。大好きなイラストで、毎回刺さるものを描いてたから当然気分は落ち着いたし、なんならわざわざ報告してくれることが嬉しかった。思えば、こんなことしてくれる人に対して顔を見たことがなかろうが好きにならないわけがなかった。
 
 そんなこんなしていたら、いつの間にか好きになってしまっていた。
 恋心に気づいたときは本当に悩んでしまったものだ。顔も見たこともないのに好きになるとか自分がチョロいのではないかとか、よりにもよって初恋がこんな歪なものでいいのかとかいろいろ悩みに悩んでいた。
 でも、好きになってしまったものは好きになってしまったのである。とはいえ、会ったこともないし告白したとてフラれるのはわかりきっている。ゆえにこの感情を打ち明けるのはせめて会った後にしようと心に決めてしばらくは抱えていこうと思っていた。
 
 そんなある日、仕事の都合であの人の家の近くまで出張に行く予定ができた。
 まだ告白することはないにしても、せっかくだから直接会って今までのことのお礼だったりしたいと思ってお茶に誘ってみた。返事としては要約するとこんな感じだ。
 
「外食は気分が悪くなってしまって迷惑かけちゃうので遠慮します」
 
 裏でそのようなことを話していたのは僕も覚えていた。覚えていたのだけど、せっかくの直接話をするチャンスが潰れて残念には思っていたし、迷惑かけられても僕的には問題なかった。
 なんなら行こうと思っていた店は教えてもらった場所だったし、それなりに外食しているのは聞いていたので何かと違和感はあった。だからなんとなく察してしまったのだ。会いたくはなくてフラれたんだな、と。
 仕方ないとは思っていた。自分にそこまでの魅力があるとは思ってないし、今までだって会話が弾んでいたわけでもない。会いたいと思ってくれなかった時点でこの恋は散る運命にあるんだってこのときにはもうわかっていた。だからずっと心の内に秘めたまま、そのうち違う誰かを好きになれるならそれが一番幸せなのだろうなと考えていた。

 だけど、あの人への想いは募るばかりだった。日々上げられるイラストはすごくかわいいし、シンプルに好みに刺さっている。正直、どんなに上手い人のイラストより輝いて見えて仕方がなかった。通話していて声も好きになってしまっていたし、普段呟いている趣味もかわいいとしか思えないくらいにもう夢中になってしまった。
 恋は盲目なんて言うけども、まさにその通りだったと思う。一時、あの人のことしか考えられないときがきて、気持ちを秘めておくには苦しいときすら来てしまった。
 
 そして、いつしか仕事も手が付かない状態になってしまっていた。
 仕事は朝から働いて深夜に帰るなど、元々忙しかったのもあるが、それに加えて空き時間を見つけて原稿をするというスケジュールをこなしていた。後から聞いた医者曰く「そんなんで壊れない方がおかしい」と言われた次第である。
 途中、うつ病と診断されて休職となったが、自分はメンタルの回復だけは早かったのもあって割と早く復帰した。
 しかし、それがよくなかったのだろうか。復帰しても仕事は増える一方で、また深夜までの作業だったり、原稿の進みは悪かったり、先への不安は募る一方で、現実逃避として好きな人のことを考えるようにもなってしまった。
 それがさらにやるべきことに手をつけられない状態へと陥ってしまった。おまけに顔も知らない人への恋をしていることに対する自己嫌悪だったり、人知れず苦しんでいることに対する自分の無力さを呪ったりもしていた。
 今の苦しみをどうにか止められる方法はないかと考えていたときには僕はスマホを手に取っていた。
 ただシンプルに伝えたのだ。「あなたが好きです」と。
 その返事がこれだ。
 ※自分と相手のためにも名前は伏せていきます。




 とまあ、こっぴどく長ったらしい文章でフラれてしまったのである。
 喫茶店の件があったために元々叶うとは思っていなかったけど、心のどこかでいい返事を期待していただけにそれなりにショックは受けていた。
 でも、それと同時に肩の荷が下りた気がした。伝えたかった気持ちを伝えることはできたし、これで潔く諦めることができる。
 思えば仮に付き合えたとしてもこちらが迷惑をかけてしまうことを考えるとむしろフラれてよかったのかもしれない。
 いろいろ理由をつけたけども、まあ悲しいものは悲しいものでその日は何を思いながら寝たのかは覚えていない。
 けど、向こうも僕の想いに対して誠心誠意を持って答えてくれたのだ。好意に対して気持ち悪いと言われなかっただけマシだと思っていたし、何よりこれからも友達でいようって言ってくれた。僕は最悪縁を切られるとすら思っていたので彼女がそうしてくれたのは一番よかったとすら思っていた。むしろ、こんなにちゃんと答えてくれたことに感謝すらしていた。
 とはいえ、これから気まずくなるのだけは自分としても嫌なので、返事に対する返信をした。



 実際、想いを伝えたかったのは確か。伝えたくて初恋にケリをつけたかったのはあった。あとはフったからといってあまり重く捉えないでほしいと気を遣いたかったのもあった。そして、これからも友達として普通に話がしたかったから、何気ない話題であっても今まで通り話しかけたい一心でこんな言い方をしたつもりであった。
 だけど、これに対しての返事は来なかった。
 後から思えば、このとき自分のした発言とこの違和感に早いこと気づけなかったのが良くなかった。

 告白をしたその月に仕事をやめる決心をした。
 給料はそれなりにあったけども、仕事量は多いし趣味も続けられないんじゃやっていけないと思ったからだ。正直、心身ともに疲弊していたのもあった。おかげでうつ病も再発し、一人暮らしもままならない中、何とか脳みそを絞りきって年末にはまた一冊同人誌を出したりもした。
 次の本はしばらく休憩してから出そうかとか考えてたりしたその矢先だ。
「人付き合い向いてない」
 僕が告白してから2ヶ月経って、彼女が急にこんなことを言い出して僕から距離を取り出した。
 具体的にどう察知したのかはこの場では省くが、あるものを見つけた瞬間、僕は取り乱してしまった。
 明らかに僕だけを避けている。今まで普通に仲良くできていたと思っていた。告白してからも友達でいようって言ってくれていた。それなのにも関わらず、彼女がこんなことをしている理由が謎でしかなかった。
 でも、心当たりがないわけじゃなかった。友達としていようとフってくれたのはいいものの、やはり顔も見たことのない奴に告白されることの気持ち悪さは拭いきれない。おまけに僕は自分に自信がない。きっと、彼女からしてみればやはり僕とは友達でいたくはないのだろうと思ってしまった。
 だから、僕は直接話をした。
 
「今までありがとうございました」
 元々告白をした時点である程度こうなることは覚悟していた。それが少し遅れてやってきただけなのだ。
 そう、わかってはいたのだけど、こんなこと言わなきゃいけない悲しさは当然あったし、なんで今になってそんなことするんだとも思っていた。
 彼女の返事はこれだ。



 この文章を見た瞬間、後頭部を殴られたような衝撃があった。
 何を言っているのか、全く理解ができなかったのだ。
 何せ彼女は僕をフったのだ。これ以上好意を伝えたところで彼女にとっては嫌に思われるかもしれないと思ってあえて言ってこなかった。このときだって未だに異性として好きではいたけども、友達としていることに対して少しづつ受け入れようとしていた。
 彼女は僕にこれまで通り好意を伝えてほしかったのか? 好きなら好きだと貫き通してほしかったのか?
 僕が見返りを求めてないって? そんなの当たり前じゃん。人を好きになるってそういうことじゃないのか。そんな理屈で説明できるようなことならこんなに苦しんでないんだ。
 この一瞬で何もかもわからない中、僕は必死に頭を回転させて文字を打った。この時既に手が震えていたと思う。そんな中で彼女が僕に対する嫌悪感を感じ取ってしまって彼女が望む通り、離れた方がいいのだろうと思ってしまった。
 嫌なら嫌だと言って欲しかった。心の拠り所から急に梯子を外されて混乱していたけども、なんとか言葉を組み立てていった。



 返事ごと出したが、今思えばこの返事が一番の分岐点だったように思える。
 僕は素直にこのまま友達でいたいと言いたかった。
 言いたかったのだけど、この時の僕はこの返事を素直に受け止めることができなかった。多分、今受け取っても同じだ。
 まず僕に対する嫌悪感がなければこんなことはしてないだろうし、僕は既に彼女のいるグループに一緒にいるくらいには侵食している。そんな中で揉めたなんて知られたくないのだろうとか邪推してしまっていた。
 要するに疑心暗鬼になってしまっていたのだ。好きな人からこんなことを言われ、言葉通りに受け止めることもできず、その言葉の裏を考えてしまって勝手に不安にさせられていた。
 でもなんとか関係は保ちたい。けど、彼女の真意は知りたい。
 彼女は彼女なりに気持ちを言ってくれてはいるけど、全部否定形でしか言ってくれていない。
 僕はただ、言って欲しかった。否定形ではない言葉での本当の気持ちを。
 彼女は本当に僕を嫌になったわけではないのか、こんなことになったけどもこれまで通り話しかけてもいいのか、混乱した頭でも自分なりに言葉を紡いだ。



 なのに、なんでこんな言い方をしたのだろう。
 素直に言えればよかったのに。否定形じゃない言葉が欲しいって言えればよかったのに。
 当時の僕は自分の気持ちをしっかり言語化できていなかった節がある。それに、多分怖かったのだろうと思う。これ以上わがままを通してさらに嫌だと思われたくない。僕からしても彼女のことをこれ以上嫌いになりたくない。

 もしくは、こんなことを言って去ろうとした自分を止めてほしかったのかもしれない。
 そんなことを考えて、保身に至ったんだと思う。
 これに対する返事はなかった。


 次の日、僕は理由もわからず謝った。
 多分、この時既に限界が来ていたのだと思う。鬱はまだ完治していなかったし、別のことでも疑心暗鬼に陥っていて、何もかも信じられなくなっていた。
 謝って済む話でもないし、何に対して謝っていたのかは自分でもわからない。もしかしたら素直に言えなかったことに対して謝ったのかもしれないが、それにしてももっと言い方はあったようにも思える。だけど、そのくらい僕は疲弊していたんだろう。もう少し冷静に考えられるようになるまで休めばよかったのに、僕は急いで関係を元に戻そうと焦っていたのかもしれない。

 

 まあもちろん、そんなことは彼女からしてみれば知ったことではないわけだが。
 でもこの時正直言ってやりたかった。あんたの方こそちゃんと向き合ってくれてるのか? って。否定形じゃなくてそのままどうしたいのか最初から言って欲しいって、言いたかった。
 なのにこんな言い方されちゃ言い出せないだろうがよ。

 


 ほんと何自分が被害者かのような言い方してんの。
 そもそもあんたが始めたんでしょうが。あんたが勝手に距離を取らずに本心を話してくれりゃよかったのに、僕が言及しなかったらどうするつもりだったんだよ。
 そっちが距離を取らなきゃ今まで通り接することだってできたのに。こっちだってそっちが嫌な気分にならないように腹の内探りながらどうしたいのかちゃんと言ってる。
 向き合ってるなんて言ってるけど、こっちからは一線見えちゃってるんだよ。これのどこが向き合ってるんだ。
 あんたの本心はどこにあるんだ。
 これに向き合えって言われても向き合えるわけがないだろ。
 いい加減にしてくれよ。
 こっちだって疑心暗鬼になりながら必死にあんたを信じたい気持ちで頑張って対話しようとしてるのに、そんな態度じゃどうしたらいいのかわからない。
 
 言葉じゃなんにもわからない。
 僕はもう藁にもすがる思いで「どうすればよかったんですか」と言った。

 



 この言葉を聞いて当時はその通りだと思ってはいたけど、今となっては「ハア!?」としか思えない。
 こんな時じゃないと本音で話せない? これが本当に関係続けたいと思ってる奴の言い方か?
 友達だったらいつでも本音で言って欲しかった。もちろん気遣って言えないこともあるだろうけど、ときにはあえて言わないのも友達としての優しさだ。少なくとも本音だからと好き放題言うにしてもタイミングがある。
 この時の彼女はその感覚がバグっていたんじゃないかと今は思っている。それこそ、僕がそうさせたと言えばその通りかもしれない。けど、相手を気遣うことなく言いたいことだけ言うのは違うでしょ。
 なんて、相手のことを気遣うことなく告白した自分が言えたタチではないか。

 



 だからそれを先に距離を取ったお前の方が言うか!?
 僕だって今まで通り関われる気がしなくなってなんとか信頼を取り戻そうと必死になってるんだ。そんな言い方されちゃそっちの方が僕との関係を切りたいように思えてしまう。
 どっちなんだよ。あんたの本当の気持ちは。頼むから教えてくれよ。

 



 ここでもやっぱり否定形でしか答えてくれていない。
 彼女の言う通り、僕はあのときどうしても言わなきゃ苦しかったから言った。これに関しては別に悪いことではなかったのだと今となっては思う。
 けど、本当だったらすっぱりと縁を切りたかったのかもな。
 でもさ、僕はあのとき告白してからこの時に至るまで一度でも好きだと言ったことはなかった。それでいて今さらになってこんなことを言ってくるなんてどういう了見なんだろうって思っていた。
 それに、軽々しく言ったつもりは一切ない。人の気持ちを推し量って勝手にそんなことを言うのもやめてほしかった。
 とはいえ、好き勝手好意を伝えるだけ伝えて負担を与えるよりは言わない方が今後のためなんだろうなってのは心の底ではわかっていたことではあった。わかっていたから告白してからこのときまで言ってこなかったのだ。好きでもない人から伝えられる好意をどう受け止めたらいいのかなんて、僕にもわかっていたことだから。
 あと、普段していた通話に関してこんな言及もあった。



 これに関しては通話に対するスタンスの違いが顕著に出てたなというのを感じた。
 僕は作業しながらだから集中するとどうしても黙ってしまうし、無言の時間があったからといって特に気にしていない。かといって彼女は作業をしながらではあったけども普通に話したい人と話すために通話に入る。ゆえに無言の時間が出てきたら気まずい。その認識のズレで負担に感じさせていたのかもしれない。
 でも、彼女は話題があるときにはしっかり話をしてくれていたし、決して話せないというわけではなかった。彼女の方から話題を提供してくれていたこともあった。だからこのくらい言われたところで今さら何とも思っていなかったところはある。
 このときはまだ、の話だが。

 まあ、そんなこんなで自分の中で少しモヤモヤしているところはありつつも、ちゃんと話をしていつも通りに戻ろうというところに落ち着いた。
 と、思ったのだが、モヤモヤが残る中で自分はやはり納得がいっていないことがあったのだ。
 これまであった信用を失ってしまったことに対する釈明をできていない。結局のところ否定形じゃない本音を聞けていない。
 とはいえせっかく元に戻りかけているところに今さらそんなことを蒸し返すようなことを直接言うのは憚られた。
 だからいろいろと聞いた。
 これまで通り、勧めてもらったゲームのことについて話しに来てもいいか。描いてもらった絵を使用させてもらってもいいか。
 もちろん大丈夫だと言ってくれた。
 だが、最後の質問が問題だった。
「またあなたが一人でいたときも通話に入ってもいいですか」
 話題がなくて話せないなんて言われた手前ではあるが、どうしても確認したかった。
 これまで書いてはいなかったが、告白してからこのときに至るまで、何度か二人きりで話したことがあったのだが、話しかけても素っ気ない対応をされていたのが気がかりでならなかったのだ。
 こうなる前は「絵、描いたけど見る?」とか「あのキャラが~」だとかあっちからも話題を作ってくれたりして、ちゃんと話ができていたのだから、またこれまで通り話してもいいのか確かめたかった。

 



 だから、この返事には酷く失望してしまったものだ。
 多分だとか話題振るのが苦手だとかいろいろともったいつけて言ってはいるけども、問題はそこじゃない。
 何も話せないと言われてしまったのだ。
 そんなことはないだろ、って言いたかった。
 いくら僕が話せる相手じゃないからといって、何もはないだろって言いたかった。
 言いたかったけども、このときの僕にはもう言及する気力すらも奪われてしまった。
 頑張って関係を戻そうとした手前ではあるけども、こうして何も話す気がないと言われてしまって、僕は今度こそ限界が来てしまった。
 だってそうだろう。元々非公開アカウント同士で空中リプライを飛ばしてお互いを知ってきた。通話ではあまり話せなかったけども、文面でなら話せるのなら僕はそれでいいと思っていた。
 だが、その文面でも話す機会を失った状態だ。それでいて話す気もないともなると、僕はどうやって彼女からの信頼を取り戻せばいいのか本気でわからなくなった。いや、彼女からしたらこの先僕に対して一切信頼する気がないんだって、思ってしまったのだ。



 だから、こんな言い方をして僕の方から切ってしまった。今思えば本当にダサいと思う。
 手を震わせながら、泣きながらこの文章を打ったのが今でも記憶に新しい。
 彼女は僕の人生において一番僕と創作してくれていたし、特定のカプ限定だったけども誰よりも心待ちにしてくれていた。僕も彼女の絵が誰よりも好きだった自信があるし、仕事の絵だって教えてくれた際には真っ先に見に行った。この関係が何よりも特別だと思っていたし、ずっと続けばいいと思っていた。そのくらい自分の人生の中で唯一無二の友人だと思えていたのだ。
 だけど、どうしてもこれ以上関係を続けるのはあまりにお互いのためではないのだろうと思ってしまった。僕は彼女を最後まで友人だと信じたかったけど、最後の拒否感を示されてどうしようもなかった。
 恋は既に諦めていたにしても、信頼は取り戻したいと必死になろうとした。けど、相手にそうする気が一切ないのでは僕は疲れてしまうだけだし、相手も同じことだ。
 彼女からしてみれば、きっと僕を切りたくて仕方なかったのかもしれない。「スッパリ縁切りして私のせいみたいになるのが嫌」とも言っていたことだ。やはり僕が同じ通話グループにいることで簡単に切っては周りから言及されるのだけは避けたかったのだろうという思いが強くなってしまったのだ。

 なんてありつつも、人は後悔するものである。
 切った後でも彼女が描いた絵は好きなままだし、信頼を取り戻せなかったことに対して無力だったことがずっと心残りだった。
 気づいた時には他のフォローしてくれていたアカウントは向こうから外されてしまった。
 最初は仕方がないと思っていた。切ったのはこっちの方だ。向こうも辟易して愛想をつかしたのだろう。
 なんて思っていたが、少ししてどうしても気がかりなことが出てきてしまった。
 最後の一言について、やはり確認するべきだったのではないかと。
 何も話せない、なんて言い方をしたとはいえ、何か自分は誤解していたのではないか。
 せめてその確認だけはしたい。その一心でまだフォローが外れていないblueskyでDMを飛ばしてみた。
「少しだけ話がしたい」
「あなたは私を切った。もうあなたに振り回されたくないんですよ」
 即ブロックである。
 こればかりは仕方ない。僕の方から切ったことは間違いないし、あのときちゃんと話せなかったのだ。向こうが話をする気がないのならやはり僕が切ったのは彼女も望んでいたことなのだろうって思いながら受け入れるしかなかった。

 だが、僕が次に見てしまったのはpixivだった。
 彼女は僕が書いた小説のブックマークを外した。それだけではない。彼女は彼女自身が描いた絵を軒並み消し始めたのだ。
 こればかりはスルーできなかった。
 仕事をしながらでも創作に命をかけてきた僕にとって、創作だけは別物として考えてほしかったし、何よりも自分自身が描いたものを消すのだけは違うだろうって言いたかった。だって、彼女にとっても好きで描いていたもののはずなんだから。
「もう本当に限界なんです。創作だけは消さないでください」
「あなたのことを思い出しすらしたくないんですよ」
 本当に悲しくて仕方なかった。
 これまで一緒に創作してきた関係はなんだったのか。こんな好きと一言言っただけで壊れてしまうものだったのか。
 切る前にちゃんと向き合えていればこんなことにはならなかったのだろうか。ちゃんと好きなら好きだと誠心誠意伝えていればこんなことにならなかったのか。
 何もかもわからなくなってしまった。

 わからなくなってしまったけども、変わらず彼女のイラストは好きだった。こうなってしまったがゆえに彼女自身に対してもまた好きが募ってしまった。
 本当に呪いだと思う。好きなはずなのに、それを満足に向き合うこともできず、こんな別れ方をしてしまったのだ。
 元々鬱だったが、これを受けてPTSDにもなってしまった。毎日毎日、自分がやらかしたこと、彼女に言われたこと。全部思い出しながら目を覚ます。作業をしていてもしょっちゅうこのことを思い出す。
 恋煩いで苦しんでいたときの方がよっぽどましだった。
 毎日が苦しいし、生きている気力すらも失ってしまった。
 今の僕には明日を生きる理由がない。
 彼女のイラストを生きがいにしていたところもあって、喪失感は物凄かった。
 だから、せめてイラストだけは見ていたいと思ってTwitterにDMを飛ばした。
「一生のお願いです。イラストだけは見ていたいのでフォローだけはさせてください」
「お好きにどうぞ」
 酷く軽蔑するような物言いだったが、一歩進めたとは思った。
 ちゃんとDMを返してくれるのもあって、まだ取り戻せる。このときはそう信じていた。
「信頼を取り戻したいのでチャンスをください」
「あなたに切られたとき、解放されたと思ったんです。もうあなたが怖いんですよ。次連絡寄越して来たらブロックします」
 本当はもっと長いやり取りをしていたのだが、要約するとこんな感じだ。
 取り付く島もない感じで、チャンスすらくれない。ちゃんと話をしてちゃんと向き合いたかったのに、そうすることすらさせてくれない。
 怖いってなんだ? 僕は必死になって信頼を取り戻したいだけなのに。また創作ができる関係に戻りたいだけなのに。
 なんで怖いって思われなきゃいけないんだ。なんで解放されたって思うんだ。
 ずっと僕と関わるのが嫌だったのか? なんでそんなこと言うんだよ。そっちだって普通に話しかけてくれていたのに。
 でも、今思えば当然だ。僕はこっちの方から縁を切ったことで彼女の中にある一線を越えてしまったのだ。そんな中でいろんなツールを使って連絡している。後から客観的に見ればストーカーまがいのことをしていた。本当に救いようがない。

 それでも諦めたくなかった。もう無理なのかと思って必死にどう取り戻すかを考えた。
 まだフォローはさせてもらえている。だけど、次連絡をしたらブロックされる。
 ならば、次の連絡でなんとか一発でちゃんと話ができるように持っていくしかない。
 僕は予め言いたいことを文書にまとめておいた。アドリブで話をしようとすると考えが滅茶苦茶になって余計に不信感を与えてしまうことになるだろうと思ってそれなりに時間をかけたのだ。
 今でもあなたが好きだということを。イラストだって好きだということを。そっちにも非があるだろうということを。その上でちゃんと話をしたいのだと。僕のした間違いを許してほしいと。
 だいたい4000文字くらいだったと思う。我ながら重すぎるとは思っていたが、ちゃんと話をするならこのくらいは必要かもしれないと思って気には留めていなかった。
 この文章を用意した上でDMを送った。
「どうしてもしたい話があります。最終手段だけは使いたくないので聞いてください」
 返事もなくブロックされた。
 こうなる可能性はわかっていたが、一応僕としては保険をかけていたつもりだった。
 DMに送った最終手段は予め書いた文書を手紙として送ることだった。
 元々僕と彼女は同人誌のイラストをお願いする手前、お気持ち程度にグッズを買っては立て替えた上で送るということをしていた。要するに住所を教えてもらっていたのである。このお金は未だに建て替えたままではあるのだが、こうなった以上は取り戻そうなどと野暮なことは考えていなかった。考えてはいなかったが、これに免じて話をする義理くらいはあってほしいと願っていた。
 だが、こんなことをしては本当に何もかも取り戻せないような気も薄々感じていた。とはいえ、このまま何もしないのも同じなので、送らないわけにはいかなかった。いろんなツールを使って連絡は取ったが、これはそれだけ僕のことを信頼していたことの裏返しだと思っていた。僕のことを信頼してくれて住所も教えてくれていたのだからそれを使って何が悪いんだと半ば逆ギレしていた。
 最終手段は使いたくないと予め言ったのだ。これにちゃんと確認もせずブロックした向こうにも非はあるだろう。と言い訳しながらポストに投函した。
 もはや祈りのような行為だったと思う。
 本当に一か八かで言いたかったことを送って、それでもダメなら諦めるしかないと思っていた。

 まあ、当然ながら何も返事はなかったのだが。
 それからはもう毎日PTSDに悩まされながら過ごしている。

 ちなみにまだ話の続きがある。
 僕には仕事をやめた後、年始頃に友人と酒を飲んで仕事を紹介してくれる約束をしていた。
 僕はその友人と連絡を取らずにいた。こんな精神状態でまともに就職できるとは思っていなかったし、話をしようとしても逆効果になるだけだと思ったからだ。
 しかし、その友人は僕の様子がおかしいと察したのか「何かあった?」と聞いてきた。
 なんて察しがいいんだと思いつつ、僕は無視を続けた。教えたとて何にもならない。むしろ教えて彼女に突撃されたら迷惑をかけるだろうと思ったからだ。
 だが、意外なことに友人は知らないはずだった彼女との間に原因があったことを察して突撃してしまった。思えば簡単なことだったのかもしれない。僕はTwitterで散々彼女の絵についてたくさん好きだと言いまくっていたのだから。
 そうしたら友人は彼女に突撃してことのあらましを聞いたらしい。本当に何してくれたんだと思った。そんなこと頼んでいないのに、僕を思い出したくもないって言うのならそうさせてやるのがせめてもの優しさだと思って受け入れるしかないと暗示していたのに。変なところで干渉してきてはた迷惑もいいところだった。
 友人は僕に対して彼女はこう思っているようだとか言ってきた。気を遣って話をしてもらおうとか打診したみたいだが、そのやり取りを見て僕は余計に悲しさだけが込み上がってきた。友人は僕が悪くないと信じてくれていたけども、何も言えなくてこれ以上何もしないで欲しいと思い、僕から切った最後のスクリーンショットだけ見せた。
 そしたらこともあろうことか、友人は次の日も彼女と話をしたようだった。どういうことか、彼女と言い争いをしたようだが僕はその一連のやり取りはすべては見ていない。というか見ていられなかった。友人は僕を擁護しようと変な嘘までつくし、一方で彼女の方は「好きだと言うのをやめてほしかっただけなのに」とか言っていたのだ。
 どいつもこいつも勝手だ。話を聞いて友人とはもう縁を切ったからいいものの、彼女の方に対しては「なんでそのことを一番最初に言ってくれなかったんだ」と怒りがふつふつと湧いてきた。
 先ほども言ったが、僕は告白をしてから好意を表に出さないようにしていた。フラれてしまったのだからなるべく友人としていられるように受け入れようとしていた。その気遣いが彼女から信頼を失っていたものだと思っていたが、実態はその逆。好意を出してほしくなかったのだ。最初の信頼できなくなった、なんて文言と矛盾しているのである。
 彼女の言い分は滅茶苦茶だった。好きなら好きだとちゃんと言ってほしいみたいな言い方で信頼できなくなったと言っておきながらその本音は好きだと言ってほしくなかった? ほんとにいい加減にしてほしい。そんな滅茶苦茶な発言から本音を読み取れるほど僕には余裕はなかったし、疑心暗鬼になったし、察しも良くない。むしろ単純な嫌悪感で早く縁を切りたかったと言われていた方がまだ精神衛生上よかったかもしれない。
 僕は好意を許してくれるならいくらでもぶつけたかったし、ダメだと思ったら潔く諦めようと受け止めていた。なのに彼女は滅茶苦茶な理由をつけて僕から距離をとった。
 その言葉を言うために余計なこと言いすぎなんだよ。余計なことをやりすぎなんだよ。
 僕だって言ってくれればちゃんと理解して努力するのに、余計なことのせいで混乱させられて、縁も切らされて、何もかもが信じられなくなった。
 でも、それができなかったってことは根本的に僕のことを信じてくれていなかったからなんだろうな。僕だけが勝手に信じ込んで馬鹿みたいだ。

 今日は彼女が絵を上げるだろうから、それを見たら未練をなくそうと思う。

 本当だったらこのことを誰かに話せればまだ楽になったのかもしれないけど、正直共通の知り合いもいないし、簡単に理解してもらえるとは思えないのでこのような形で吐露した。
 名前も出していないから、見つかることもないだろうと思う。
 毎日魘されて苦しいので、僕はもう無理です。