思いつき企画第5弾です。
ラストデュエダンモチーフです。
設定として、今から一寸未来です。
令和の次...かな。
楽しんで頂けたら幸いです。
「あんたの彼ってさー、一寸見た目怖いよね」
友達のつかさがいきなりそう言い出した。
「あー、分かるー。なんかさー、お口乱暴だし(笑)」
相槌を打ったのは、これまた友達のあおいだ。
「そんな事ないよ」
私は反論する。
私の彼は、職人さんだし、バリバリの下町言葉だし、彼女達の彼に比べたらそりゃ、ガタイがいい分見た目一寸怖いわよ(笑)
でも、口数は少ない(私にはそんな事ないけど)かもだけど、優しいし、女の子に気を使える人だ。見た目が迫力なんで...喧嘩は強いらしいけど。
「てかさ、あんたたち、結婚式目前の私にそれ言う?」
「いやいや、だからよ。今のうちにこき下ろしておこうと思って。ねぇ。」
「うんうん、ポワポワしてるあんたにはもったいない、いい男じゃん?...あ、褒めちゃった(笑)」
「待って、私褒められてない」
「お前じゃねーよ(笑)」
彼女たちと集まるといつもこんな感じだ。
2人に言われなくても、私は自分がポワポワしている事は自覚している。
なんせ彼との出会いの原因が正しくそれなんだから。
私は、一昨年、久しぶりに開催された花火大会に彼女たちと繰り出した。
30年くらい前に、世界を震撼させた例の病気の新型(!)せいで、イベント事は尽く自粛を強いられた(おじいちゃんが「また自粛か」って嘆いてた)。
何度か規制が強化され、緩和されを繰り返して...やっと落ち着いての大きなイベントに、地元だけでなく近隣の街も浮きたっていた。
...多分、嫌いな人はいないと思うけど、私は花火がとても好きだ。
ぱっと咲いてぱっと散る。
その潔さがたまらない。
余韻が残るのも、粋でいいなって思う。
あ、私、ポワポワしてるけど、生粋の江戸っ子なんです(笑)
なので。
会場でずっと空を見上げてて、彼女たちとはぐれた事に気付かなかった。
上を見すぎてよろめいた私は、通りすがりのおじさんにぶつかってしまった。
「ちょー...ねぇちゃん...どこに目ぇ付けとんねん!」
なんで関西弁?!
分かりやすく怖いおじさんに、びっくりして固まっていると、後ろから肩をそっと叩かれた。
「おう、待たせたな。」
誰?!振り向いて顔を見たけど、全然知らない人だった。...一寸...や、すんごいかっこいい。
「お、兄さん、俺の連れが済まなかったな。怪我ぁねえか?」
上背のある、がっしりした体格は、絶対「何とか道」的なのをやってる感ありありで、普通に迫力イケメンだった。強面のおじさんも一寸怯んでいた。
「にーちゃんの連れかいな、よぉ見たってや。」
一体何を見るの?と突っ込む間もなく、おじさんは人混みに消えて行った。
「ありがとうございます。助けて頂いて...。」ホッと安心した私は、そのイケメンさんに頭を下げた。
「いや...さっきからずっと空ぁ見上げてるアンタがあすこから見えてたんだよ。そんなに花火が好きなんだって...。すまねぇ、変な気ぃで見てた訳じゃねぇんだぜ。許してくんな。」
え?え?ヤダ、花火に夢中で大口開けたあほ面、こんなイケメンさんに見られてたの?ハズッ!赤面ものだわ...。
「花火...好きかい?」
「はい。大好きです。」
「そうか、そりゃよかった。」
そう言って、彼がものすごく嬉しそうな顔で微笑むものだから、つられて笑った。
「じゃ、気ぃつけて帰んな」
つかさたちがこちらに気付いて近付いて来るのを見て、一瞬何か言いた気だった彼は「あすこ」と言っていた建物に帰って行った。
「もぉ、びっくりしたわよー。後ろ振り返ったらいないんだもん。」
「え?ちょ、どうしたの?ぼーっとして...熱中症?」
「え?大丈夫だよ。ごめんね、花火が綺麗すぎて...ずっと上見てた」
「そんな事ったろうと思ったけど...とりあえず、スポドリ飲みな。」
渡されたドリンクに口を付けた所で、あおいが突然言った。
「で、あの遠目にも分かる迫力イケメンは何者?」
盛大にむせながら、知らない人だけど助けてもらったと、事の顛末を話した。
「なんだ、それだけか。」
「それだけってなによ。」
「いや...恋に落ちちゃった系かなって...」
「やめてー!昭和の少女マンガじゃあるまいし!」
そうは言ったものの、彼にもう一度会いたいという気持ちがむくむく湧いてくるのを抑えることが...出来なかった。
とは言え、私的に滅多に来ないエリアだし、どこの誰とも分からない人なので、次の花火大会まですっかり忘れてしまっていた。
今年はちゃんと奮発して、観覧席を取ってみた(笑)
もちろん2人も一緒だ。
観覧席に向けた放送や音楽を聴きながら鑑賞するのって、初めてだけど、なかなかいいな。
花火のタイトルとか、作者の思いとか解説してくれるので、より花火がドラマティックに感じられる。
「次の作品は、水戸株式会社、南條かなと『月の雫』3尺玉、...大輪の花火をお楽しみください...」
どん。という音がしたかと思うと光の矢が天空に向かって放たれる。
打ち上げ場所から近い証拠だ。
ぱん。といい音がして、大輪の花が咲く。ううん。正しく、「月」だった。細かい小さい火花が無数の「様々な黄色」となって咲いては散るを幾度となく繰り返す。
満月だ...。
そこから雫のようにいくつか下に落ちて来て、遠慮がちに花を咲かせる。
そして、スっと消えた。白煙と、最後の音だけ残して。
私はほんとにうっとりした。
こんなステキな花火、見た事ない。
その時初めて、製作者って...どんな人なの?と気になった。
「ええ?知らないよー。あ、でも何とかって会社名と南條何とかって名前言ってたみたいな気がするよ?」
そこまでは興味無いって風の2人にそう言われた。「だよねー💧」
最後のナイアガラまでしっかり堪能して、帰路に着く。
やっぱり花火はライブに限るわ。
向こうで業者の人達が片付けをしていた。
見るともなしに見ていると、見覚えのある後ろ姿が目に止まった。
担いでいた大砲みたいな筒を下ろして、ヘルメットを一寸上げて汗を拭った横顔は、1年すっかり忘れていた、あの人だった。
え?すごい、花火師さんだったんだ。そりゃガタイいいはずだわ。そして藍色の刺子半纏がめちゃくちゃ似合っててチョー男前(笑)
誰かの「南條ー!」って声が聞こえた。
彼は片手を上げて合図をしてから、下ろしてた筒をもう一度担ぎ直して、声のした方に歩いていく。
「...南條なんとかさんだったみたいねぇ...。」
あおいが一寸ニヤニヤして後ろから抱きついて来て、肩越しに囁いてくる。
「1年振りの再会ですな。」
反対の肩越しにつかさもニヤニヤしながら囁いた。
「な...なによあんた達っ!」
しつこく私に抱きついているあおいをそのままに、つかさがスマホで何か調べ始めた。
「ふん、水戸株式会社の南條かなとさんだね。花火師の。...うーん、SNS系はやってないか...いや、待って、あった。」
...文明の利器って怖い。個人情報ダダ漏れだわ。
「前に一緒に仕事したアーティストさんのSNSに、南條さん出てる。文脈から推定すると、お?意外に若い。27だってー。」
...誰よりもあんたのその行動が怖いわ(笑)
てか、私、彼の事まだなんとも思って...ない...んですけど...💦
「またまたぁ...」2人は口を揃えて言った。
とてもそうは見えないよって、小突かれてしまった。
「でも、だって...彼だって覚えてないわよ。」
わかんないけど、そうだろうなぁ...って、囃し立てた割にあっさり引く2人にガッカリしつつ、ま、それが現実よねぇってなった。
なんか...なんか...感じるんだけどなぁ...運命的なナニカを...。
翌日。
2人の言葉でその気になった訳でもないけど、何となく、同じ会場に来てしまった(ここは3日連続で花火が上がる大会なのだ)。
花火師さんなら、この時期めちゃくちゃ忙しいから、ここで走り回ってるか、別の花火大会に行ってるかどちらかだろうから、会えるとは思えないけど...開始前とかならチャンスあるんじゃないかなって甘い考えで来てしまった。
手持ち無沙汰に配布されてた団扇をクルクル回していると、「あれ?」と声がした。
「あ!」
待ち人来たる!神様ありがとう!
「南條さん!」
「久しぶりだなぁ。なんか会える気がしてよ。てか、なんで俺の名前知ってんだ?」
おおう、友達と盛り上がってググッただなんて言えない...。
「あー、えーと...あ、昨日の花火!観覧席で見てたんです。」
「え、そうか。見てくれてたのかい。」
そうかい、へへ...って一寸嬉しそうに鼻を擦る仕草も、やだ、可愛い。
「...もうすぐ始まる時間ですけど、ここにいていいんですか?」お仕事あるんでは?って言外に聞くと、いや...と私の方を見て「今日はたまたま研修なんだよ。ま、平たく言っちまえば『他所の花火見て勉強しな』って話だ。」
あー、だから昨日の刺子半纏着てないのか。
「でー、あのー...。」
コホンと咳ばらしいた後、彼はこう言った。
「よかったら、一緒に見ねぇか?」
ねぇ、こういうのなんて言うの?「青天の霹靂」?「驚天動地」?や...「渡りに船」だわ(笑)
てか、これ「脈アリ」って思ってもいい感じ?どうしよう...心臓死にそう...。
見晴らしのいい河川敷に行くまでに、夜店が沢山出ている。
流石にこういうのではしゃぐ歳でもないんだけど、隣りに気になる人がいると、変なテンションになってしまって普段絶対買わない、いちご飴なんかを買って...貰った。
そして、アンティーク雑貨?みたいなののお店を見つけた。
真ん中奥の、一寸いい所にキレイな筒が置いていた。
「なんですか?これ?」
私が聞くと、店のおばあさんは、シワで細くなった目を一瞬見開いて、「万華鏡だよ」と言った。
懐かしいー。子供の頃買ってもらったことあるわ。
「覗いて見ても?」と聞くと、どうぞとばかりに鼻を鳴らして、南條さんを横目で見ながら別の客の相手を始めた。
「わぁ、キレイ~!」素直に声が出た。私が持っていたオイル式のではなく、昔ながらのドライ式の万華鏡だった。
「花火みたい」だと感じた。
へえ?見せてくれよと、手を出す彼に渡すと、「こりゃいい、偽の花火だな。」と楽しげに言った。
上手いこと言うもんだな(笑)
南條さんは気を良くして、それを買ってくれた。
「今日の記念にな。」
また...もう。
そんな事言わないで欲しいわ。期待しちゃうじゃんね。
少し歩いて、いい感じの場所を見つけて腰を下ろした。
今日打ち上げるのは、創造花火やスターマインばかりだそうで、逆に工夫が面白いとの事。やーん、私めっちゃラッキー。
1つ目が上がった。
パリパリといい音をさせた火花が舞い落ちる。
しばらく無言で見ていた私たち。
ふっと私を見た彼がギョッとした顔をした。
「な...どうした、どっか痛いのか?」
私、自覚ない間に涙流してた。
頬を伝う涙に自分でびっくりしつつ、ものすごく幸せを感じていた。
「わかんない。でも、今私、めちゃくちゃ幸せみたいです。」
みたい...って...他人事みたいに...と彼は静かに笑った。
でもそう言うしかない。心の奥で何かが...誰かが...そう、誰かが嬉しいと感じているのだから。
花火が打ち終わり、感動で...純粋に花火に感動したのか、彼と見られたのが嬉しかったのか...アレなんだけど...いずれにせよ、立ち上がれずにいると、彼も座ったまま、一寸真剣な顔で、考え事をしているのか、万華鏡を指先で転がしていた。
「南條さん、帰ります...?」そう聞きかけた時、彼が顔を上げた。おお、やっぱり男前(笑)
「...俺と付き合っちゃ貰えねぇか」
「へ?」
「突然すまねえ。まだ知り合ってすぐなんだ、びっくりするのはわかってる。俺もこんな気持ちになるだなんて思ってなかった。けど...」指先はまだ万華鏡に触れている。
「今度こそ、あんたを離しちゃいけねえって思ったんだ。」
今度こそ...?あぁ、去年からの今年って意味かな?
...どうだい?遠慮がちに見つめられて、もちろん答えはOK一択なんだけど、ドキドキして言葉が出てこない😱
心の奥の誰かがさわさわする。
え、受けていいんだよね?
心の奥の誰かの幸せな気持ちが私を包んだ気がした。
「はい。」
私は答えた。
それが去年の夏の話。
そして今日。
私と彼は結婚する。
私たちは、あの日買った万華鏡を婚約の証としていた。
何故だか分からないけど、2人してそれがいいとなった。
神前でつつましくも晴れやかなお式を執り行って頂き、披露宴には彼の仕事仲間の職人さんたち、そしてもちろん、あおいとつかさも出席してくれた。
最後に、彼が作った花火を打ち上げてみんなに見てもらう演出を、お願いした。
...というか、私もさっき聞いたばかり。
もぉ!プランナーさんとなんかコソコソしてるなとは思ったんだけど、そういう事だったのね。...ほんと...好き。
花火を上げるには少し早いかなと思いつつも、夕闇が少しづつ濃くなってきた。
並んで座って、打ち上がるのを待つ。
自分で点火の指示を出せないからか、少し落ち着かない彼(笑)
「美月...こんな話したら引くかもしれねぇけど、聞いてくれるか?」
何も無い空を見つめて話し出す彼。
話を促すと、彼は、ずっと以前から私を探してたらしい。「私」と言うと語弊があるな。誰だか分からないけど、今度こそ絶対離さないと決めた人がいたらしい。
「会ったことないのに『今度こそ』って、おかしいだろ?」って言いながら。
あの日私を...花火を見上げる私を見て、確信したらしい。こいつだって。
「でも、俺もこんなだからさ、あの後どうしていいか困ってたんだ。一寸話しただけの人探すなんてよ...。ただ、花火が好きだと言ってたのを頼みにさ、次の年に、もし見て貰えたらまた会えるって願掛けして花火を作ったんだよ。」
...そしたら、会えた。
囁くような優しい声。
私以上に私の中で誰かが喜びに震えている。
「俺の中の誰かに導かれて、俺はあんたに出会ったんだ。」
離したくないと思ったと。
...一寸待って。今私も「私の中の誰か」を感じてる。
え?どゆこと?
「俺のダチに、そういうの...なんてったっけ...スピリチュアル?だっけ?...とにかくそんなのに詳しい奴がいて...。どうやら俺は、江戸時代に花火師をしてた男の生まれ変わりなんだと。」
同じ職ってのが笑えるだろ?と彼。
や、びっくりしすぎて笑えない。
「で、そいつが...殺されたらしいんだけどよ。惚れた女と来世で一緒になろうと誓ったとかで...。」
その彼らは何度か転生を繰り返し、今回私たちに生まれ変わり、めでたく大願成就をなしたらしい...とそう、言われたらしい。
「おめでとう」って。
心の中の誰かに聞いてみる。
「この人は、あなたの大切な人?」
心が暖かく震えた。
「でもな。」
身体ごと私の方を向いて彼が言った。
「でも、だからといって、心の中の誰かの為にあんたを...ってなった訳じゃない。俺が、あんたに惚れたんだ。それは信じて欲しい。」
今度は私が震えた。
ありがとう...そう言おうとした時、タンッ!と音がした。
振り返ると大輪の...菊が咲いていた。
「...みつきってんだ。この花火。」
囁くように彼が言う。
「私も、私の中の誰かも、ものすごく喜んでる。...こんな幸せないわ。」
打ち上がる花火が消えると同時に、私の中の誰かが消えた。
彼の中の誰かも、同じく感じられなくなったらしい。
それは、厳密に言うといなくなった訳じゃなくて、私と彼女、南條さんと彼、それぞれにそれぞれが溶け込んだというか、同化したというか...そんな感じ。
そして...それを実感した時、あの万華鏡が二つに割れた。
結婚式にね、ホントはめちゃくちゃ縁起悪いことなんだけどね。
私たちは、わかった。
この万華鏡は、あの二人を見守って時を超えて来たんだって。
そして、役目を終えたんだって。
江戸時代の花火師さん、その恋人さん。
私たちきっと幸せになる。
輪廻の輪から外れるくらい幸せになるよ。
安心してね。
ラストに大きく打ち上がった「みつき」に、私たちは固く誓った。
長々と読んでくださってありがとうございました。
なんとかムラ楽に間に合いました💦