思いつき企画第二弾(笑)⁡
⁡明治に転生した二人のエピソードを妄想してみました。
場面の下敷きになってる作品(「江戸の舞踏会」「舞踏会」)とはもちろん別物です(未読)💦



私が、丁度女学校を卒業し、花嫁修業に入る頃、外国の方をお招きする迎賓館...鹿鳴館が完成致しました。

おじ様...山口伯爵がこの度、鹿鳴館でフランスの方々をお招きした舞踏会を主催されるとかで、父と相談なさって私の社交界デビューをその日にお決めになりました。

父と共に参ったその洋館で、その日、私は...魂が求めていたと申しますか...浅からぬ縁を感じる殿方と巡り会ってしまったのでございます。

その方は、舞踏会の主賓でいらっしゃるフランス大使の護衛をされている将校でらっしゃいました。
護衛と申しましても、側近...ご友人の様なお立場の様で、正装に身を包み、舞踏室でご婦人方の注目を集めていらっしゃいました。
私は、その様子を横目で見ながら浮き立つ気持ちを抑えられずにおりました。
この非日常の華やかさにすっかり舞い上がってしまったのでございます。

子供の様に揺れるドレスの裾の感触を楽しんでおりますと、件の将校が私に声をおかけになったのでございます。
浮き足立っていました私は、差し出された手を躊躇いなく取ってしまったのでございます。

その方は、慣れない私を巧みにリードして下さって、招かれている西洋の方々の輪に入ってワルツを踊って下さいました。⁡
⁡⁡
⁡ええ...それはもう。楽しゅうございました。夢見心地とはかくやあらんと思いましたわ。

お夜食の時間になると、「バルコニーに出ませんか?」とお誘いを受けました。
さわさわと舞踏室から出て行く皆様の美しさにため息を付きましたら、にっこりと「美しいですよ」と私の事も褒めて下さいました。
父やおじ以外の男性からそんな言葉を初めて言って頂けて、私は頬が熱くなるのを感じずにはいられませんでした。

バルコニーでは他愛もないお話を致しました。
あの方の故郷フランスの舞踏会に出てみたいだとかそういう...ほんとに他愛もない...。
ただ、その時、夜空を仰ぐあの方の瞳が、なにか懐かしいものを見る様な...幸せと悲しみと切なさが混じったかの様な色味を湛えていらして、思わず「お懐かしいのですか?」とお伺いしてしまいました。
「いえ...この空が...」と、また空を見上げるあの方につられて私も空を見上げますと、いつも見ている東京の空ですのに、何時もより美しく、懐かしい...忘れてはいけない何かをどうしても思い出せないもどかしさの様な気持ちが押し寄せてまいりました。⁡
突然、私はこの方と並んでこの空を見た覚えがあると感じました。そんなことはございませんのに...。
難しゅうございますが、例えるなら、後ろから体当たりした何かが私の中で弾けた...そんな衝撃でございました。⁡
この方はどう感じていらっしゃるのか...お尋ねしようとした時、夜空に大輪の菊が咲いたのでございます。
私たち日本人も、華やぐ心持ちが致しますから、西洋のあの方は大層なお喜び様でした。
ただ、あの方も、なにか記憶の奥底を探る様な目をして、私と夜空をご覧になってらっしゃいました。⁡
「この方と、2人並んで夜空を染める花火を見る」⁡
その事がとても尊い...果たさなくてはならない事だった様に...長い間夢に見ていた事だった様に感じたのでございます。⁡
花火を見終えますと、あまり言葉も交わさぬまま...ええ、幸せな気持ちで胸がいっぱいになってしまいましたの...あの方も名残惜しげではありましたが、御開きになってしまいました。

どうしてそう言う感情になったのか分からぬまま、時は過ぎ、あの方がフランスに帰られると聞いた時は、今生ではもう会うことがないと、身を切られる程の悲しみを覚えました。
私が...というより、私の中の何か...弾けたあれ...が、それを悲しんでいる。
そんな辛さでございました。

その後の事は分かりません。
私も、かねてからお話のあった方に嫁し、懸命に明治から大正のここまで生きてまいりましたから。
ただ、菊花を目にしますと、あの方の青い眼に映りこんだ美しい菊花火を思い出さずにはいられなかったのです。
今でも、あの方とは魂が呼びあっている...そんな気持ちがあるのでございます...だからといってどうしようもない事ではございますが...きっと次の世でまたお会い出来ると、信じておりますの...。⁡
ええ、ですから...お声がけしてしまいました。
突然失礼致しました。
驚かれた事でしょう。

お名前は...ジュリアン・ヴィオとおっしゃいました。
いいえ...そんな高名な方ではございませんわ。

あの方はジュリアン...私に一夜の夢と...一生抱き続ける想いと...きっと前世から約束された邂逅を...儚いものでしたが...を与えてくださった方。
私だけの、思い出のあの方なのです。

...あら、着きましたわよ。ここで降りられるのでは?
はい。どうぞお気を付けて。
花束のお嬢さんを大切に...。
ええ、ありがとう。では、ごきげんよう。⁡
⁡⁡
⁡⁡
⁡お粗末さまでございます💦⁡