日本で現在公開中の『モアナと伝説の海(Moana)』。アメリカでは2016年の11月に公開された作品です。マスカー&クレメンツ監督による作品ということでも話題になりました。

 

 

最近のディズニーはどこか吹っ切れたように、活力漲る作品が続いています。今作のモアナもそうでした。またズートピアの微妙に過激に感じるノリを受け継いだ作品でもあります(ディズニー比で)。マウイが落ち込んで「大丈夫、大丈夫、どうせすぐ死ねるんだから(It's ok It's ok, we’re dead soon)」と連呼したり、モアナが”Son of a...(bitch)"と言いかけたり。

 

ディズニーのCGアニメでは初の褐色の肌の女の子が主人公。手書きアニメを含めれば、プリンセスと魔法のキス以来、ハワイはリロ&スティッチ以来でしょうか。非白人を描くと毎回のように、描写が適当、リサーチ不足、差別的だと批判されるディズニー作品ですが、今回も例外ではなかったようです。ただその辺は作品を重ねていく事に改善されてきているように感じますし、当事者ではない人からは、もうほとんどわからない程度までには来ているように感じます。勿論そういった非難が出ないに越したことはないけれど。

 

また今作はロマンティックなシーンがない分アクションに力が入っています。音楽や歌唱については少し物足りないかなと思いました。一番残念だったのは何気ない会話のやり取りに余り魅力を感じなかったこと。それに関してはマスカー&クレメンツの前作、プリンセスと魔法のキス。その他のプリンセス物では塔の上ラプンツェルとアナと雪の女王。そして前作のズートピアと素晴らしい作品が多かっただけに期待しすぎた面があったのかも知れません。

 

※以下ネタばれ含みます。

 

何度も劇中で繰り返される、「あなたのいる場所(where you are)」と「あなた(又は私)は何者か(who you are, who I am)」。生まれた時から村の中で、総長である父親の役目を継ぐ者として期待されてきたモアナ。村の人はその村こそが彼女のいるべき場所だと思っているけれど、彼女は海こそが自分のいるべき場所だと思っている。次第に村は闇に蝕まれモアナは村を救うため「海に選ばれた者(chosen by the Ocean)」として旅に出ます。

 

海に飛び出した時は不安を感じながらも、これから起こることに期待を抱くモアナ。彼女はなぜ自分が選ばれたのか、その答えが知りたくてたまらない。けれど、次第に自分の力の弱さに気づいて、「海に選ばれた者」であったはずの自分が何でもないものにみえてくる。彼女は必死に自分が何者かであるはずだと、自分が選ばれた理由が何かあるはずだと、特別な何かを見出そうとするけれど、何も見つらない。

 

てを諦めて、「海に選ばれた者」である証を、海に返そうとした時、唯一の理解者だったおばあさんが彼女の心に語りかけます。帰ってもいいんだよ、と。まるで全てを受け入れるかのように。重要なのはあなたがどうしたいのか。おばあさんとの対話を通じて、それまで呪縛のように彼女を取り囲んでいたもの、彼女を抑え付けていたものが消えてゆく。そして全てから解き放たれた彼女は言うのです。「私はモアナ(I am Moana)」と。ああ、だからこのタイトルなんだ。そんな風に感じた瞬間でした。シンプルな原題の方が作品をよく表しているように感じます。

 

アイデンティティを探し求める旅、という意味では「現代のオズの魔法使い」にも取れるように感じます(作中の時代的にはモアナの方がずっと前だけど)。虹の向こうに行くことを夢見るドロシー。突然街の英雄にされ、旅へと駆り出され…。カカシにブリキの木こりにライオン。自分の望むものは自分のいる場所にはないと思い込んでいる。けれど、旅をすることで自分の内側にそれを見い出していく。モアナもマウイも。それっていつの時代にも通じるお話だと思うのです。

 

と思って調べたら、インタビューにてマスカー&クレメンツのコンビがモアナのインタビューでオズの魔法使いについて触れていました。 
Moana Directors Talk The Films Influences and Fun References

 

Are you drawn to leaving home stories?
故郷(Home)から旅立つストーリーが好きなんですか?

 

Musker: We both left home. He’s from Iowa, and I’m from Chicago.
マスカー: 僕たちは二人とも故郷から出てきたからね。彼はアイオワ出身で僕はシカゴ出身。

 

Clements: We’re both from the Midwest. Maybe so. I’ve never really thought about that, but yeah, it’s true.
クレメンツ: 二人とも中西部の出身なんだ。たぶんそうだね。そのことについて考えたことはなかったけど、そう、その通りだ。

 

Musker: We’ve been going to The Wizard of Oz, which we both saw as kids. It was on TV every year. That really had an impact on me, the whole idea of leaving home, or in that case trying to return home. Yeah, there’s something about it. It’s growing up basically.
マスカー: 僕たちはオズの魔法使いを見に行ったんだ。二人とも子どもの頃に見ていた作品で、毎年テレビで放送していた。とても衝撃的だった。話のアイディア全体が故郷を離れること、または故郷に帰ろうとするものなんだ。そうだね、そこに惹かれるものがあったんだ。それに成長の物語だ。

 

Clements: There’s an archetypal kind of aspect. Joseph Campbell writes about that. Particularly at a certain age when you’re at that age when you’re trying to figure out just who you are, that there is that breaking away to discover who you are.
クレメンツ: そこには元型のようなものがある。ジョセフ・キャンベルがそのことについて書いていたよ。自分が何者なのか知りたいと思うような年頃には、それを見出すために、旅立ちが必要だと。

 

※Archetypal
元型の、アーキタイプ

※Joseph Campbell ジョセフ・キャンベルは神話学者。Hero and The Monomyth(英雄の輪廻)、Hero’s Journey(英雄の旅)で知られる。全ての英雄の物語は、

 

(1)主人公は別の非日常世界への旅に出、(2)イニシエーション(通過儀礼)を経て、(3)元の世界に帰還する、という共通の構造を持っている。

 

というもの。(Wikipediaより)

こちらのページでは「元型」について、またそれがオズの魔法使いではどのように表現されているか、ということについて、とても分かりやすく説明されています。
誰もが持つ4つのアーキタイプ|「オズの魔法使い」に見るHero's Journey

 

けれどもモアナの物語には、オズの魔法使いの悪い魔女のような、悪らしい悪は存在しません。過激な奴らはいるけれど。元から悪として存在するのではなくて、悲しみや怒り、喪失感によって、世界が闇に包まれていく。それこそがこの作品の重要なところで、今までのディズニー作品とは少し違う魅力を感じるところでもありました。