「若さゆえの過ち」は美徳にあらず。 其の壱 | 北奥のドライバー

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思いついた事をつらつらと書いて行こうと思います。

私が高校を卒業したての頃の話です。私は某県の温泉街の中にある比較的新参といえる旅館に人生初の就職を果たしていました。そこはとある田舎の砂利屋が公共事業や都市開発で大儲けし、その余勢を駆るようにして副業的に始めた旅館で、時はバブル景気真っ盛りの頃でした。

 

私は会社の上司や先輩達に挨拶を済ませた後、案内されるままに社員寮だと称されるアパートに案内され、自分が会社からあてがわれた部屋に入ると、何故かそこには私と同い年だという見知らぬ若い男性が部屋にいたのでした。

 

上司は面子が悪そうにして「思いのほか寮への入居者希望者が多くて部屋が一杯になってしまった。今新しい寮を建設中だから、それまで相部屋で辛抱してくれ」と私に言ったのです。正直、寝耳に水で驚きましたが、右も左も分からぬ若者であった私はこういった会社側の大雑把なものの考え方に仄かな不信感を覚えつつも、「はい」と言って従う以外にこれといった術も知りませんでした。

 

その同い年の青年、便宜上、名前を「田村」とでもいたしましょうか。彼は青森県は津軽方面の出身で農家の倅(せがれ)だったそうですが、どちらかといえば学力レベルがあまり高いと言えないような所謂「ヤンキー高校」の出身者でした。

 

パッと見た目は細身でしたが、実際は子供の頃から実家で重たい農作物を運ぶなどの力仕事を散々手伝ってきたからか、殆ど脂肪の付いていない実に隆々たる筋肉質の体の持ち主て、そこそこに力自慢、体力自慢な男でありました。津軽訛りの混じるモゴモゴとした粗野な喋り方で、洗練された会話とは無縁なタイプではありましたが、疲れ知らずで仕事の覚えは早く、また人懐こくジョークもよく口にする男だった為に、社内の人間関係に溶け込むのも早かった。

 

それに比べて色白で体力に恵まれているとは言えず、ヒョロヒョロの身体つきで引っ込み思案な性格、そして自分でも呆れるほどに仕事の飲み込みは遅くドンくさい青年であった私は、仕事だけではなく人間関係もスムーズに熟せているとは到底いえない青年で、田村やその取り巻きの女の子、そして仲居さん達から、よく揶揄われたり嫌味を飛ばされる役回りに甘んじる毎日を過ごしておりました。

 

また、見栄を張りたい若者の事、田村は折に触れては「お前はあれを経験していないだろう、これをした事が無いだろう」と不良学生時代の自慢話とも武勇伝ともつかない長話に突き合わせ、延々と私の世間知らずぶりを揶揄っては嗤う所がありました。彼自身には恐らく悪気はなかったのだと思います。まあ、不良にありがちな『遊びとしての軽いイジリ』といった風なものであったのだと思われます。

 

しかし当時の私は「仕事が終わった時くらい静かな環境で部屋で一人になりたい、プライバシーくらいは確保したい」と考えるタイプの人間でしたし、何かにつけてドスの効いた声であれやこれやと一方的に指図してきたり、延々と上から目線でイジって来られるのがどうにも鬱陶しく、彼との相部屋が正直苦痛で仕方がなかった。

 

そうそう、そして彼には故郷に残してきた彼女がいたのですが、彼はよく私に写真を見せては自慢していたものです。なるほど、色白で非常に整った目鼻立ち。まさに「大層な美少女」と呼ぶにふさわしい女の子でした。そして程無くこの女の子と田村の間に起こった「若さゆえの過ち」を知る事となってゆくのです。