今まで、多くの乳がん患者さんと接してきました。
乳がんの腹膜転移のため、食べられず、頻回の嘔吐に苦しんでいた患者さんを治療していた時のことです。腹水を抜き、抗がん剤治療を行っていましたが、しだいに治療効果がなくなって、私自身も何もしてあげられない苦しさを感じていました。
あるとき、診察に伺うと、覚悟されたように、静かに話されました。「私の乳がんは見つかったときは、手遅れと言われたの。早く見つかれば良かったのに。これからの人には、私みたいにならないように、乳がん検診を受けるように伝えたい」。
その方は、しばらくして、亡くなられました。40歳代でした。
私は、彼女の言葉が忘れられません。そして、この手遅れになった患者さんの遺志を受け継ごうと心に決めました.乳がんの早期発見のために診断技術を学び、研修しました。
乳がんが進行するにしたがって、生存率が下がります。早期乳がんは治るのです。また、治療も、早期がんと進行がんでは違ってきます。進行がんは、使用薬剤が多くなり、薬の副作用やがんの進展にともなう身体的苦痛が増し、費用負担も大きくなります。精神的には、不安や後悔によるストレスが強くなるでしょう。
後悔のないように、治る早期乳がんのうちに発見し、治療するのが、私たち乳腺外科医の使命だと考えます。
私は、適切な検診と治療を行うために、女性乳癌専門医として身近に相談できる拠点になるように、大学病院を離れて、診療を開始しました。