叱られた。3階に住むおばはんに。
 ことの顛末はこうだ。先日コルトレーン研究家の藤岡靖洋氏から、彼の著書「コル
トレーン ジャズの殉教者」が贈呈された。その中の『至上の愛』の研究成果が素晴
らしくて、どうしても聴きたくなった。しかも、そこそこの音量で。
 で、会社をさぼった。昼間なら文句も出ないだろうと踏んだのだ。それがしろうと
の浅はかさ。
 爺は『至上の愛』のリマスター盤を探し出し、にんまりした顔で、そのCDをプレイ
ヤーのトレイに差し入れた。「おっと、やばい」。大音量でかけるんだから、ドアに
鍵をかけ、すべての窓を締め切った。用意周到というやつである。
 で、心置きなく聴ける。正味約50分の旅である。ゴー。
 で、終わった。そのとたん、ドアをノックする音が聴こえるではないか。
 「お、コルトレーン・ファンがこんなところにもいたのか。ゆっくり話し合おうぜ」
とドアを空けたとたん、叱られた。真下の階の住人だ。「しまった、真下には何の気
遣いもしてはいなかった」。
 一番やっかいなおばはんだった。
 「おたくでしょ音楽流したのは。もう、あんなに大きな音で。途中でもノックした
のよ。出てこないから、途中で倒れているのかと心配したのよ」
 よく見ると、そのおばはんの味方らしい人の影が見える。こりゃ勝てん。
 そしたら、おばさん言うに事欠いて、
 「ドラムの音が一番うるさかったわよ。シンバル・レガートはともかく、あのベー
ドラのキック・ペダルがたまんないのよ。4小節交換だって、ちょっと芸がないわね。
フィルインだっていまいちだし。あんなにテナーを煽んなくてもね。まあ、あのマレッ
トはうるさくなくていいけど。リムショットとコンピングは訓練のやり直しね」
 く、くわしい。別の意味で勝てんかった。某ジャズ雑誌で使ってあげればいい。爺
は引退必至。