ショート・ショート「帰郷」 | 私もよくよく運の無い男だ・・・

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クワトロ・バジーナ、百式、出る!

僕は久しぶりに実家に帰ろうとしている。



買ったばかりのバイクに乗って、気ままに観光しながらゆっくりと帰っている。



いつの間にか、かなり遠くに離れて住んでるもんだと実感した。
丸3日かけてようやく実家のある県内に入る。



あと少しだ。



やはりお尻が痛くなった。途中で高速道路に乗ろうか迷った時に乗っとけば良かった。
そう思いながら、バイクをふかす。



そうだ、あそこに寄ってみるか。。。
僕はふと思いついた。



大学生の頃、バイトしていたレストラン。
今もまだやってるのかな?あれから10年以上経っている。



少しばかり遠回りになるが今さらだと言い聞かせ、僕はバイクを走らせた。



そこのマスターは、ちょび髭を生やしてて、フレディー・マーキュリーとエディ・マーフィーを足して2で割った感じ(笑)の顔をしている。
無類のバイク好きで、ドカティを2台とオフロードタイプ1台とあと1台カワサキを所有していた。

一度オフロードの奴を乗った事があるが、あんなに車高が高くて足が届かないバイクに良く乗れるもんだと感心したもんだ。タイヤもオフロード用のでこぼこに替えてたのでアスファルトの上だと、がたがたしてスムーズに走れなかった覚えがある。

さすがにドカは乗せてくれなかったけどね。


あとママさんとはかなり仲が悪かったなぁ(笑)いつも喧嘩していた。。。ママさんも元気かな?



そんな事を考えながらそのレストランまでバイクを走らせた。
10年前と全く変わらない風景。
田舎だからしょうがないか。。。



あっここにあった本屋さんがなくなっている。



少しは変わった事もあるようだ(笑)



そして、それはまだそこにあった。



変わらないレストラン。
レストランの横にあるバイクが入れてある白い小屋。KEYコーヒーの回ってる青い看板。
隣の床屋さんの色あせた赤い屋根。



昔と同じだ。



僕はわざとバイクをふかしてエンジンを切る。
これでライダーが来たと厨房でも分かるはずだ。



顔見せたら僕が来たって分かるかな。
どんな顔するのかな。
ドキドキしながら店に入る。



カランコロン・・・


ドアにつけられた大きな鈴が昔と変わらす鳴ってお客さんを知らせる。



入ったらすぐ横に置いてある本棚。
9割はバイク雑誌で残り1割が女性誌だ。



「こんにちは」



僕はまずカウンターの中に居たママさんに挨拶する。案の定、厨房からマスターが顔を出していた。
バイクの音がするといつもそうだ。



僕は笑いながら「マスターお久しぶりです」と頭を下げた。



一瞬怪訝そうな顔をするママさんとマスター。
マスターの方が早く気付いたようだ。
「おうっ、お前久しぶりじゃないか・・・」
「カズだよカズゥ」マスターはすぐにママさんにも教える。
「あらまぁカズ君?あらまぁ・・・」



僕から見ればママさんもマスターも老けはしたけど全然変わっていなかった。
ちょび髭のマスターとちょっとぽっちゃりのママさん。

僕はそれなりに変わったのかな。



「おうっ、座れ座れ」



マスターがいつもの席に座らせる。
カウンターと厨房に一番近い席にはあまりお客さんは座らない。
皆窓側に座るからだ。
僕はいつもそこに座る。
隣にはいつものようにヘルメットを置いた。



幸い、他にお客さんも居なかったので、いつもは厨房から出てこないマスターが出てきた。



「元気かぁ」と言いながらコックのかぶる四角くて縦長の帽子を取ると、マスターの頭には髪の毛が極端に少なくなっていた。
僕は笑って「見ての通りですよ」と返した。



「マスターは頭以外は変わりませんねぇ」



「そりゃお前、俺ももう60前やぞ」
マスターはがははと以前と変わらない笑い方で笑いながら答えた。



ママさんがコップに水を入れておしぼりと一緒に持ってくる。
「カズ君は変わらんねぇ」



「あっどうも、ママさんも変わらずおきれいですよ」僕はいつものようにお世辞を言った。
ママさんは以前から太る体質だったのだが、今も変わらないようだ。



マスターはバイクが気になるようだ。
「お前、今も乗ってんのか?」



「はい、少し前までは車に乗ってましたけど、最近またバイクに変えたんですよ」
そう言いながら、マスターと外に出る。



バイクを前にマスターと話が盛り上がる。



「お前、まだ一人か?」
唐突にマスターが聞いてきた。



「そうですね。縁が無くて・・・」



「嘘言えっ、前連れてきてた彼女はどうした」



「マスターそれってもう10年も前の話ですよ(笑)」



「そうかぁ、あの娘と結婚するとばかり思ってたけどな」



「はははっ、そういう話にもなりましたけどね。」



そんなたわいの無い話をしながら、店の中に入る。


「カズ、なんか食べて行くんやろ?」



「そうですねぇ、お腹ペコペコですから」



「俺がおごってやるから好きなもの頼め」



「マジですかぁ、じゃあお言葉に甘えます」



僕は何を頼もうか既に決めていた。



「じゃあハンバーグをお願いします」



「お前そんなもん頼まんでも、もっといい奴あるだろうが」
マスターは呆れ顔でそう言った。



確かにハンバーグ以外にもっと高いメニューはたくさんある。



実はここの料理は全部がかなり旨い。
地元のテレビが取材に来るのを断っているくらいだ。実際、ここでハンバーグを食べてからは10年来、外でハンバーグを食べた記憶が無い。
それだけここのハンバーグが旨すぎて他所では食べれなくなってしまったんだ。

ナニが最高かってやっぱりかかっているデミグラスソースだ。
僕もデミグラスソースを作るのを手伝った事があるが、何日も煮込み続けたものを使う。
火を消さないで煮込み続けるのは大変な作業だ。
その代わりそのデミは最高にうまみが詰まったものが出来上がる。
他にもデミを使った小悪魔風グリルだとかたくさんおいしいメニューがある。


元々マスターはフレンチの有名なホテルに勤めていたようだ。
それが大きな所が嫌になって自分で地元に店を出したらしい。
見た目は胡散臭い(笑)が、腕は確かなのだ。



「いや、ハンバーグで良いです。マスターの作ったハンバーグが食いたいんですよ」
僕は笑いながら答えた。



マスターはそれ以上言わず、笑って厨房に入っていった。



ママさんも笑いながらスープとサラダを持ってきた。

「やっぱりハンバーグ食べるのね」
ママさんには何を頼むかばれてたみたいだ。



僕が大学に通っているとき、ランチにたまたま入ったこの店で初めて頼んだのがハンバーグだった。
そのうまさに感動して、バイトをたまたま募集していたこの店で働かせてもらう事になったのだ。

他のメニューももちろん全部食べた事があるが、ハンバーグが一番食べているだろうと思う。
やっぱりここのハンバーグは少し特別なんだ。



出来上がるまでの間、ママさんが相手してくれる。



「ほらあの娘とはどうなったの?」
とマスターと同じ事を聞いてくる。


「どの娘ですか?」
僕はわざと聞いてみた。


「どの娘ってあなた、ここには確か3人しか女の子連れてきてないでしょ」


「!!!」
なぜママさんはそんな事まで覚えているのか・・・
びっくりするわ。


「ええっ、確かにここには3人しか連れてきてないですよ。」
僕はあせりながらこたえた。
「一番最初に連れて来た彼女と、妹と次の彼女の3人です」


「そうそう、確か2番目の彼女連れてきたとき、私がその娘と妹さんを間違えて、新しく彼女が出来たって言ってたけどどうなったの?って聞いちゃったのよね」


よく覚えているものだ。。。
あの後、彼女に説明するのが大変だったから僕も覚えているけど(笑)
そういえば、彼女をこの店に連れてきた時にも、必ずハンバーグを食べていた気がするなぁ。



そうこうしているうちに、ハンバーグが出来上がった。
相変わらずデミのすごくうまそうな匂いがする。



「これが食いたかったんですよ」
僕はそう言ってナイフとフォークを手に取り、たっぷりとデミのかかったハンバーグをゆっくり味わいながら食べた。



僕は食べ終わった後、すごく幸せな気持ちになりながら、ママさんの出してくれたおいしいブルーマウンテンを飲んだ。


その頃にはお客さんも入って来てて結構込んできた。

今でも学生風のお客さんが多いようだ。



「マスターおいしかったです」



僕はおいしい余韻に浸りながら立ち上がった。
いつまでも居たかったが、マスターもママさんも忙しくなってきたようだ。
邪魔しちゃ悪い。



「おうっ、またいつでも食べに来いよ、もう帰るのか?」



マスターは厨房から顔を出してくれた。



「はい、忙しくなってきたから・・・今から実家に戻らなきゃいけないのでもう帰ります」
僕はそう言ってヘルメットを手に取った。



「そうか、なら気をつけて帰れよ。今から一時間くらいか?」



「そうですね、ゆっくり帰りますから」



結局、ママさんもマスターと共に外まで見送りに来てくれた。



「また来いよカズ」
マスターは最後にそう言ってくれた。



「今度は彼女と来なさいよ」
ママさんは相変わらずだ(笑)



「ごちそうさまでした。ではっ」
僕はそう言って、ヘルメットをかぶり、エンジンをかけた。



一度軽くふかして、手を上げてバイク乗り同士の挨拶をしてから、バイクを走らせた。


後ろではマスターとママさんが手を振ってくれていた。





僕はいい気分になりながら、風を切って走った。
ようやく、地元に帰って来たんだという実感が湧いてきた。



家に帰って久しぶりに友達のところにでも顔を出そう。
あいつ、何してるかな?
そういえば彼女は結婚したんだろうか?



ああっ、ようやく僕は帰ってきたんだ。。。

My hometownに・・・