「僕、へしこ食べたことないんですよ~。」と職場のグループの一番若いアサやんがいったので、ほんなら俺が実家帰ったときにこうてきちゃる、と先輩風を吹かせた。へしことは鯖のぬか漬けのことで実家の地域の伝統的な保存食である。
車で帰省している姪のひろこっぷにたのんだ。彼だけに買うのはよくないと思い、自分の分も含めて5つ買った。半身のへしこが真空パックされて、幅12cm、長さ20cm、厚み2cmの黒色ベースに深緑色があしらってある箱に、半身のへしこが真空パックされて、入っている。箱には”秘伝”とある。箱に高級感があるので、スーパーで真空パックのままおいてあるのとはちがって、もらった人も多少スペシャル感を
もってもらえるような気がした。1箱800円。
我が家では、はさみを使ってへしこを横に1センチ幅で切って、糠(ぬか)はそのままにして、丸い白い小皿にのせて、200Wで20秒加熱した。湯気をたてて丸まったへしこが出てきた。
へしこは、親父がよく食べていた。毎朝(のような気がする)皿にのった塩辛そうなへしこをちびちびと食べていた。食べ残した分は次へ。
親父の好物を思い出すと、へしこ、豚肉の味噌漬け(焼いて食べる)、インスタントラーメン・・・これぐらいしか記憶がない。アルコールもさほど飲まない。大瓶のビールを開けて、全部飲めないので、瓶の口にビニールをかぶせて、その上から、曲がらないように丁寧にはずしたキャップを瓶の口に戻して、手のひらでたたいて蓋をしていた。
住宅建築の現場で働いていた親父は、時々休憩時に施主からもらったおやつを食べずに持って帰ってきてくれた。基本的に甘いものがそれほど好きではなかったようだ。
ある日のおやつに親父がもらった菓子パン。今もあるが、食パンにバターと砂糖を混ぜたものをぬってあるもので、当時(昭和50年くらい)、発売されてから間(ま)がなかったと思う。親父からそれをもらった食い盛りのおれは、オカンから「(晩御飯の)後にせい。」といわれるのを避けるため、勝手口をでて暗くなった外で食べだした。口の中でジャリジャリする。砂か?と、いちいちそのじゃりじゃりするものをぺっぺっと口から出した。何口食べてもジャリジャリ感が続く。ひでえパンやなあ~と思いながら、結局全部食べたかどうかは記憶がない。
”ジャリジャリ”が砂糖だったと理解できたのはしばらく日がたってからだった。
何も言わず、へしこを娘(高三)の今年の体育祭の弁当にいれた。玄米3:白米1の薄茶色のご飯をつめた6㎝×12㎝の半透明のプラスティックのパックの真ん中に丸まったへしこを寝かせた。他のおかずは、同じ大きさの別のパックに詰めた卵焼きのみ。夕方、弁当の感想を聞いた。うまかったと娘。意外で少し驚いた。そういえば、寿司のわさびが気にならなくなったと、つい最近言っていた。”好物の大人化”が2次曲線的に急上昇しているようだ。こいつ、もしかして大酒のみになるではなか?と一抹の不安を感じた。
二十歳になったら焼鳥屋でビールをいっしょに飲もうと、晩御飯の際に度々会話している。焼き鳥でビールを飲んだときに、”好物の大人化”がほぼ完成するのだろうか。
親父の好物は塩っけ味の中心の保存食系のものではないかとの考えにいたった。大正15年(1926年)生まれ、自給自足の農家で育った親父にとって、”好物の大人化”がすすむほど色々なモノを食える環境になかったため、このような嗜好になったのだろうか。
しかし、そんな単純なことでもなさそうだ。昭和4年生まれのお袋は甘いもの大好きだ。俺も兄貴もお袋の嗜好にちかいような気がする。
今、となりで娘が抹茶アイスを食べている。
すくなくとも、先に書いた菓子パンに関しては、パン好きのオレの顔が、親父の頭の中によぎったはずだ。父ちゃんありがとう。。。
おわり