版画家・君島龍輝 オフィシャルブログ☆たっちゃんの今日は何食べる?☆ -101ページ目

版画家・君島龍輝 オフィシャルブログ☆たっちゃんの今日は何食べる?☆

私が各地で出会った美味しくて不思議な一品をご紹介。さーて今日は何を食べようかな。

                トラ河豚の白子ポン酢

版画家・君島龍輝 オフィシャルブログ☆たっちゃんの今日は何食べる?☆-ふぐの白子


~愛と感動のサスペンス~山の温泉、殺人?事件!


「 ドンパッチ」という菓子が流行りだした昭和50年代頃の話である。


フグの白子どころかフグさえ食べた事など無い我が家に戦慄が走った。


「オイ!大変だ!」・・・「大変だ!大変だ!」


ドン、ドン、ドン、ドン、階段を駆け上る足音、最後にドーン。そしてシーン。



「あ、こけたな」私は自分の部屋でそれを聞いていた。しかし、あまりにシーンが長いのでドアを開けて様子を伺うと、まぎれもなく親父が倒れていた。


「大丈夫?」と、お義理に声を掛けるお袋に、「あ、そうだ!転んでいる暇はねェーてんだ」と、飛び起き、話し始まった。

「やっちまったんだよ羽柴の奴が」顔が引きつっている。


「羽柴って、山原屋旅館の板さんかい?」

「あったりメーだ、羽柴て言ったら豊臣秀吉のわけねェーだろ、こんちきしょうめ」


口が悪いなーと思いつつ、続きを聞くことにした。山原屋旅館とは、親父が戦後間もなくお世話になった老舗旅館である。羽柴さんはそこの板前なのだ。


「ところで何をやっちまったんだい?」廊下の真ん中で胡坐をかき、腕を組み、唸っている親父にお袋が聞いている。私も早く聞きたいではないか。


「いいかよく聞け、一度しか言わねェーからな、本当に一度しか言わねェーぞ、一度だけだぞ」一度しかって三度言ってるじゃないか、早く言ってくれ頼むから。・・・ドア越しに私も聞いている。


「警察に事情聴取されてんだよ、しかも殺人の容疑で、調理場は大騒ぎになってんだョ」

「殺人って、羽柴さん逮捕されたのかい?」


「いや、まだ調理場にいるそうだ。早く行ってやんねーと」


殺人の容疑者が調理場にまだいるって?交通事故じゃ有るまいし、それともコロンボ刑事か?


ジャンバーを取りに来た親父は片袖を通すや否や、長靴を履くと雪の中に消えって行った。


面白そうなので?私も行くことにした。


山原屋旅館前・・・人だかりである。パトカーと救急車の回転灯は白銀に反射して繁華街を思わせる。


「東京みてーだな」と野次馬の中に同級生の剛次朗の声が聞こえる。


「剛次朗さんは上野帰りだからーわかるのよーねー」美子が周りに聞こえるように声を上げる。


剛次郎は消防団の袢纏を着ている。火事と間違ったのに違いないと、私は呆れた顔で見ていた。


「東京はすげーなー」ウットリした顔で腕を組む二人・・・知らないことは幸せである―パスカル?―


親父が駐在と話している。「・・・ ・・・」


親戚だと言って、中に入れてもらう。選挙運動中だけは、親戚では有るが・・・


 ― 調理場 ―


「あ、ことぶき屋の旦那、、、。」涙目の羽柴さんが座っている。しかも浴衣の帯で縛られている。


「どうしたってんだ?いってェーよ」親父は掛けより、前に座り帯を解いた。


「フグだよ、中っちまったんだよ、客が」泣きだす。とても話す状態じゃない。



「羽柴じゃ話になんねェー、誰か説明しろい」


親父の声に「わだしが説明すっぺ」と、女中頭の松子が出てきた。



要約すると、山原屋の旦那さんに刺身にして欲しいと、常連の客が「フグ」を持ってきたのが始まりだった。旦那は調理場に行き、お願いしたが、羽柴さんはフグの免許が無いので断ったそうだ。そのことを客に話したら、怒って、じゃあ自分でやるからと、勝手に調理場に乗り込んだそうだ。そして皆の止めも聞かずに、調理して部屋に持って帰ったそうだ。そして中毒したとの事だった。


「・・・今の話で、何で羽柴が逮捕されるんだ?」親父が聞いた。全く私も同感である。


「いや、まだ続きがあんだよ」松子は続きを話した・・・


話は終わり、私は旅館の外に出ると、剛次郎と美子が私の出てくるのを待っていた。


「おー、どうだったい」剛次郎の声に、黙って首を横に振った。


「あーダメだったか」と、言うと一目散に何処かに消えた。多分、山の温泉始まって以来の大事件と言いふらしに行ったのだろう。長年、同級生をやっていると、大体察しは付くものだ。


しかし松子の話は悲惨だった。


熱燗を持って客間に行くと、中からうめき声が聞こえたので、急いで襖をあけると「苦しー、死ぬ―、助けてくれー」と、客が、もがいていた。「大変だー」と声を上げ、旦那さんに言って救急車を呼んでもらった。そして部屋に帰ると、死体?が無かった。事件である。警察を呼ぶことにした。駆けつけた警察はそこで犯人を見つけ、取り押さえる事となる。それが羽柴さんだった。


十数分前


羽柴さんは、騒ぎを聞きつけ、即座にフグ中毒と察した。調理場を出ると、そこへフラフラになった客が客部屋から出てきたのだ。客はフグ中毒だから穴を掘って埋めてくれと言う、羽柴さんは、何かの本で読んだことが有る、確かにフグ中毒は穴に埋めよだったな。そしてスコップを持ちだした。


雪で凍りついた地面では掘る事は出来ないと、土間の漬物小屋に客を連れていった。そして掘り始めたのだ。そこが発見を遅らせた原因だった。


土も柔らかく、穴も容易に掘れた。そこで客に入って貰い。土を掛け始めた時に、扉が開き、「警察だ動くな!殺人未遂及び死体遺棄の現行犯で逮捕する!」そして捕まったそうだ。


私の中で謎が二つ?あった。何故にガイ者一人に未遂で死体遺棄なのか?もう一つは羽柴さんは誰に浴衣の帯で縛られたのか?


とりあえず事件は解決した。


数日後・・・


「お父ちゃん、商工会の共済から手紙きてるよ」夕食と一緒にコタツの上に置いてある。


「おー、大事な書類だ、濡れたら大変だって言ってっぺ」そうい言うと書類をコタツと台の間に差しこんだ。


私は、そんな一連の動作より気になることが有る。それは割山椒の器に入った黄色い小さな卵である。シシャモか、鱈か、「何だろう?」とても気になる。漆の和風スプーンまで付いている。多分高級品なのだろう。しかし私は、先日のフグ騒動の後だけに慎重になっている。


親父が一口食べた。


「うっ、」と言って吐き出した。


「ワー!汚ネー、て、大丈夫か親父!」慌てて母を呼ぶ。「お袋、大変だー」


「な、何だこれは!」苦しそうに聞く親父に「フグのタマゴよ」と笑って答える母親。


「なにー!これが目的かー」コタツの台を上げ、共済の手紙を握りしめる親父!


私の脳裏には、共済=保険、フグ=毒、笑う母親、これが噂に聞く保険金殺人事件?の目撃者か!


ジャン、ジャン、ジャーン!何処となく聞こえる音楽。


さらに笑うお袋が、見せてくれたのは「ドンパッチ」という、菓子袋だった。


「へー面白いね、これ」私は残りを貰い食べた。初めての感触に感動した。


親父はと言うと「穴を掘れー、誰か穴を掘れー」と駆けずりまわっている。


私はこんな環境で育って行く自分に一抹の不安を感じた。龍



PS 羽柴さんを縛ったのは、日ごろのうっぷんで松子だったそうだ。


絵・文 君島龍輝