世界は平等じゃない。  
でも。  
本当に怖いのは、  
“見えない基準”で選別されていることだ。

◆

屋上。

冷たい風。  
灰色の空。

その向こうで、  
巨大な黒い輪がゆっくり回転していた。

ゴォォォ……。

低い反響音が、  
世界全体へ響いている。

「……選別?」

朝比奈悠が呟く。

白石ミナは、  
静かに空を見ていた。

「昔からいたらしいの」

「“気づく人”」

「気づく……?」

「世界の違和感に」

ミナの横顔は、  
どこか悲しそうだった。

「でも、  
 気づいた人は、  
 みんな普通に生きられなくなる」

悠の胸がざわつく。

まるで、  
自分の未来を言われているみたいだった。

◆

「学校に馴染めなくなったり」

「急に身体を壊したり」

「周りとズレたり」

「突然消えたり」

雪が降る。  
白い息。  
静かな屋上。

「……なんで?」

悠が震える声で聞く。

すると。

ミナがゆっくりこちらを見る。

「たぶん、  
 “向いてない”から」

「え?」

「今の世界に」

その瞬間。

ブゥゥゥゥン――。

強烈な振動音。

空の黒い輪が、  
一瞬だけ加速した。

ゴォォォォ……。

悠の視界が歪む。

◆

見える。

無数の人々。  
学校。  
会社。  
満員電車。  
SNS。

笑顔。

でも。  
みんな目が死んでいる。

『合わせろ』  
『空気を読め』  
『我慢しろ』  
『競争しろ』

巨大な声。  
世界全体を覆うノイズ。

その中で。

何人かだけ、  
違う色をしていた。

淡い金色。  
青白い光。

普通の人とは違う波紋。

でも。

その人たちは皆、  
苦しそうだった。

孤立。  
拒絶。  
適応不全。

『異常個体を確認』  
『監視対象へ移行』

機械みたいな声。

悠の背筋が凍る。

「……ッ!!」

視界が戻る。

屋上。  
雪。  
ミナ。

荒い呼吸。

「今、  
 見えた?」

ミナが小さく聞く。

悠はゆっくり頷いた。

「……なんか、  
 みんな苦しそうだった」

ミナは目を伏せる。

「多分ね」

「本当は、  
 みんな薄々気づいてるんだと思う」

「え?」

「この世界、  
 どこかおかしいって」

風が吹く。  
フェンスが揺れる。

「でも、  
 気づいたら生きづらくなる」

「だから、  
 みんな考えないようにするの」

悠は黙った。

確かにそうだった。

疑問を持つより、  
合わせた方が楽。

空気を読んで、  
笑って、  
流行を追っていれば、  
一応生きていける。

でも。

今の悠には、  
もうそれができなかった。

◆

その時。

屋上の扉が開く。

ガチャッ。

「……いた」

橘ひかりが、  
少し息を切らして立っていた。

「急にいなくなるから、  
 探したんだけど」

悠の胸がざわつく。

ひかりの周囲には、  
今日も淡いピンク色の波紋が広がっている。

でもその奥には。

不安。  
孤独。  
置いていかれる恐怖。

それが見えてしまう。

「……ごめん」

悠が小さく言う。

すると。

ひかりがミナを見る。

一瞬だけ。  
空気が変わった。

『この子、  
 誰?』

『なんでこんな落ち着いてるの?』

『朝比奈くんと、  
 どういう関係?』

嫉妬にも似た、  
小さなノイズ。

悠は息を呑む。

感情が見えすぎる。  
人といるだけで、  
胸が苦しくなる。

「……邪魔だった?」

ひかりが無理に笑う。

「ちがっ」

悠が慌てる。

でもその瞬間。

空の黒い輪が、  
ゆっくり脈動した。

ゴォン――。

すると。

ひかりの背後へ、  
黒い影が現れる。

顔のない存在。  
ニタリと笑っている。

『比較開始』  
『感情誘導、実行』

冷たい機械音。

悠の身体が凍る。

そして。

白い雪の中。

“白い少女”が、  
遠くからこちらを見ていた。

悲しそうな目で。