棺の館 | 人生好転させ屋

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毒親育って、愛されて来ていない。手間暇、お金をかけてもらっていない。その経験から「どうせ愛されない・どうせ豊かになんかなれない」という疑いや信念を持ち、夢や希望を持てない、途中であきらめてしまう。そうした負の人生を好転させるブログ




棺の館
【人生好転】の秘訣
そこは苦しい人生を終えたいと決意した者が訪れる棺の館。
ここには全ての人の棺が保管されているという。

そこへ、今日も1人の来客が・・・
重たいドアを押し開けると、中は真っ暗
すると闇の奥から、ドアを開ける音を聞きつけたのか、
かすかな光が徐々に近づいてくる。

ロウソクの明かりを頼りに、来客に近づいてきた男。
この男はこの館の案内人、暗くて顔は良く見えない。
しかし、今はそんなことはどうでもいい、
自分の棺が置かれているという所に案内してもらう。

案内されて入った部屋にはたくさんの棺が・・・
そしてなにやら人の気配を感じるので、薄明かりの中そちらの方を見てみると、
黒いマントを頭からすっぽりとかぶり目だけを不気味に光らせた背の高い男が

一瞬、背筋がぞっとした・・・
が、きっとこいつが死神なのだろう、そう悟ると恐怖はどこかへ消えた。

死神は「棺桶を開ける勇気がお前にはあるか」と質問してきた。
私は何のことだか良く解らなかったが
「死ぬ覚悟はあるのか」と聞いているのだろうと解釈し
「ああっ、もちろん」と答えた。
すると死神は「そこに何が入っていると思う」と質問してきた。
・・・・私がこれからここに入るんじゃないのか、と疑問に思い
「私がこれからここに入るのでは」と聞きなおした。
すると・・・

「すでに死んでいるお前が入っているんだ」と言ってきた。
「・・・・・」
私は、棺の中の死んでいる自分を想像すると、なんだか急に怖くなってきた。
するとまた、死神が低く不気味な声で
「その棺の中には、すでに死んでいるお前が入っているんだよ」
そういい終わると、私に棺を開けるよう仕向けてきた、
逆らおうとしたが、それを許される気配はそこにはなかった。
私は死神に促されるがまま、棺を開けた。

するとそこには見慣れた小さな枕が・・・
それは私がまだ幼かった頃、使っていた枕だった。
死神は「それを手に取れ」そう言ってきた。
私は逆らえず、言われるがままにその枕を手に取った。
次に死神は「目を閉じろ」そう言ってきた。
私は抵抗があったが、また言われるがままにそうした。

すると頭のなかに父と母がなじりあう大きな声が響いてきた
そして、「パパー、止めて、ママをぶたないでー」
と必死でパパに懇願している小さな時の自分の声が聞こえてきた。
「パパ止めてー」だけどパパは小さな僕のことは聞いてくれず
僕を押し倒し、ママの事をまた殴り始めた。
僕はどうしていいか分からなくなり、そこからのことは覚えていない。

それからというもの、二人がなじりあい始めると
僕は自分のベッドに隠れ、この枕に顔をうずめて声を殺して泣いていた。
なぜなら父は弱々しい男が大嫌いで、いつも「泣くな!」と私を叱っていたからだ。
そんな父ではあったが、私は父親から褒められたい愛されたいとも望んでいた。
でも…、父が私を愛することはなかった
私はそんな情けない自分が嫌いで、ある時そんな自分に決別をした。
それからというもの、泣き言を言った事も、泣いたこともない。

それなのに・・・
私の心にまるでシミが広がるかのように悲しみがひろがり始めている。
私はそれが許せなくなって、枕を棺に投げ返した。
「私はこんな自分とは決別したんだ!」

「そうやって、殺したんだな」
「・・・」
「そこに死んでいるのは惨めなお前だ」死神はそういった。

「違う、そんな私は私じゃない」そう私は息巻いた。
「だから言っているだろう、そうやってお前の半分は、お前の手で、この棺の中に葬られているんだよ」
「でも見ろ、この棺の中で惨めったらしくこうしてまだ生き延びている」
死神は棺の中で怯えている小さな私を、さも汚いものでも見るかのように見下ろしている。

「そいつを殺せ、そうすればお前はこれまで以上に強くなれるんだろう、もっとみんなから愛してもらえるようになれるんだろう」
「そうだろう、そうなりたいんだろう」そう言うと死神は自分の鎌を私にけしかけた。

「この世に出てくる事を許されていない、人生を楽しませてももらえない、誰からも気づいてもらえない、当の自分自身からさえも愛されていない、そんなんじゃ生きていてもしかたないだろう」
「お前はそいつが邪魔でこの世から抹殺してしまったんだ、惨めで恥ずかしいと」
「なのにこいつは、誰かが助けてくれると信じて生きていたんだよ」
「お前のその苦しみ、それはこの棺の中のお前の苦しみなんだ」

「みっともない、かっこ悪い、恥ずかしい、ありのままではダメだなどと、嫌われ、憎まれ、虐げられ存在を否定されている、そいつの苦しみなんだよ」
「結局、棺の中のお前と、ここに居るお前は同じ人間なんだ」
「そいつがこれ以上、孤独に耐えられない、死にたい、そう望んでいるんだ」
「そうだろう、殺せ、さっさと殺してしまえ」
「・・・・・」


「結局お前はどんなに頑張ろうと惨めで、恥ずかしい、みっともない役立たずな奴なんだ」
そう言うと死神は棺の中から、小さな私を引きずり上げその鎌で・・・
「やめろー」
私はとっさに小さな私を死神から取り戻すと
胸に抱きかかえ うずくまり うめくようにして泣き始めた。

「私は・・・、私は、こんなに小さかったのに・・・、母を助けようと必死で父に立ち向かっていったじゃないか、それに、あんな大きな大人を相手に小さな子供に何が出来たって言うんだ・・・、確かに父や母の不仲のせいで惨めですさんだ家庭だった、でもそれは小さな私の責任や問題ではない、それなのに私は・・・・、自分の事を惨めで情けない人間だと思い込み、そんな自分を忌み嫌い消し去ってしまおうとしていた、小さな私には何の問題も落ち度もなかった、ただ大きな父の前で何も出来ず無力感を覚え、そんな惨めな気持ちが私を覆い包んでいただけだ・・・・それなのに・・・・」


「そいつは本当に憎まれ、殺されなきゃならない奴なのか」
「・・・・・」言葉にならない言葉で 「違う」 と私は答えた。

「お前は泣くな、怒るなと教えられ、苦しみや悲しみを払いのける力を奪われてしまっていたんだな」
そう言いうと死神の姿は消えた。

そこへ、館の案内人が戻って来た
私は小さな枕を抱きかかえたまま
次から、次へとあふれる涙に視界を奪われながらも案内人につれられて、
あの重たいドアのところまで戻ってきた。
そして館をでる前に、一言、あの死神の言ったことの意味を聞こうとしたが、
そこにはもう案内人の姿はなかった。

私が重たいドアを開けると、そこにはとても明るい世界が広がっていた。
結局、死んでしまったのは、自分の事を理解できずに嫌っていた私。
そして、今ここに居るのは、これまで嫌っていた自分を、理解でき愛せるようになっている私。
私は生まれ変わった、いや、正確には本来の姿に戻っただけだ。
それに・・・考えてみると、弱い自分を嫌い強い自分になって自分を守ろうとしていた自分も、自分の為に一生懸命だった憎めない奴だったんだと思えてきた。

世界がこれまでよりも美しく輝いて見えるのは、あまりにも長い間 闇の中に居たためだろうか。
新しい何かが始まる、そんな予感を感じながら私は新たな一歩を踏み出した。

THE END

Story by Michiko