「殺人未遂ですよ!?なのに何故!?」

深夜の署に怒りの声がこだまする。

警察が民事不介入であることは言うに及ばずとはいえ、どうにも憤りを抑えきれなかった。

「チェーンぶった切って住居侵入してるんですよ!? 刑法261条および130条!203条!!」

「ええ、はい…状況はわかりますけど現時点では動けないんですよ。あなたも包丁握ってましたしね…」

「正当防衛ですわ!!」

恋愛のもつれが引き起こす傷害沙汰は刑事事件として扱う線引きが難しい、の一点張りで埒が明かない。確固たる証拠に欠けると言いたいわけだ。面倒くさいだけだろ。

深く抉られた心の傷は、ストーカー規制法なんて生ぬるい処罰では どうしても納得がいかなかった。



「ならば…」

二人の顔を交互に見据え、低く呟く。

「私の死体が挙がらなければ動けないということですね」

「…そういうことにもなりますかね」

所詮は他人事か。こいつらも国の犬っコロに過ぎないんだ。



無言で背を向けると声が追いかけてきた。

「自宅まで送りますよ」

事務的な口調が苛立ちを増幅させる。

「いらねーよ!!」

振り向きざまに相手の目をまっすぐ捉え、捨て台詞を吐いた。

「死んだら迎えに来い。身内もない無縁仏だから」



この日以来、警察というものへの信頼は跡形もなく消え失せた。


悔しかった。どこまでも孤独で、ただ遣る瀬なかった。




※シリーズ 一部抜粋しています。