ウチューのトチュー ~  池田モノリス -429ページ目

(1032)電気ナイフの夜




 

ウチューのトチュー ~  池田モノリス-スカスカでおセンチな三日月
(1032)
電気ナイフの夜
 
ウチューのトチュー ~  池田モノリス-電気ナイフの夜-1

 
「ほら、ローズさん。あそこ。
駅前のビルの渡り廊下みたいなところ。
会社が終わった後は、誰も通らないんだ」

脇の階段から上がると

「わぁ、貸し切りの屋上みたい」

って、ローズさんが細長い手足をバタバタ。
ナンカ細長いキンギョみたいでヘン。
それから二人でコンクリートの台に腰掛けて
空にぼーっと心を放り出す。

「ねぇ、モノリス。今夜の東京タワーって
いつもよりキラキラとんがってない?」

「うん、電気ナイフみたいだ。
モスラの繭みたいな飛行船をスパッ!
で、スナイパーを夜に撒き散らしてさ」

「間違ってソラまで切っちゃうから夜もヒリヒリ痛そう。
なのに、誰も気が付かないんだから。
明日になったら、どこを探しても
こんな迷子の時間はもう見つからないわ」

そんなの、困る。
今夜はすごく大事な時間なんだ。
東京タワーのおかげで
せっかくローズさんとデートできたのに。
来週になったら、もしかして僕とローズさん、
お似合いの恋人同士になるかもしれないんだよ。
 
ウチューのトチュー ~  池田モノリス-電気ナイフの夜-2
 
 
「ピンク・フロイドじゃね、
シド・バレットの心が壊れちゃったから
代わりにデヴィッド・ギルモアが参加するみたいよ」

ブルブル!ってタワーが時々震えている。
ノッポのくせに、やっぱり弱虫なんだと思う。
震えるたびにパラパラ。
飛行船が少しずつ砕けて落っこちていく。

「新しいアルバムの<神秘>ってすごく長い曲で、
全然歌が始まらなくて、やっと最後になって
ギルモアだかウォーターズだかが、叫んで終わっちゃうし」

ローズさんは、タワーを眺めながら勝手に
イギリスのロックのことをしゃべり続けてる。
だけど僕は、海の向こうのバンドより新橋の学校のこと、
そして隣で足をバタバタさせているローズさんのことが
心配でしょうがない。

「ねぇ、ローズさん。
このまま、デザイン学校がなくなったらさぁ…
あの3階の教室とか、大きな白板とかも
一緒に消えちゃうんだよね」

「え、何?…あ、学校」

ローズさんは、
「シー・エミリー・プレイ」のシドみたいな
どこに行っちゃうのか分からない目でつぶやく。

「もしかしたら、どこか別の…
きっと観たこともない夜の真ん中で
今日の続きの時間が始まるかもしれないわ」
 
 
 
 
 
 
 
 
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