作者:グレアム・スウィフト
出版社:新潮クレストブック

内容(「BOOK」データベースより)
妻が引き起こした嬰児誘拐事件によって退職を迫られている歴史教師が、生徒たちに、生まれ故郷フェンズについて語りはじめる。イングランド東部のこの沼沢地に刻まれた人と水との闘いの歴史、父方・母方の祖先のこと、少女だった妻との見境ない恋、その思いがけない波紋…。地霊にみちた水郷を舞台に、人間の精神の地下風景を圧倒的筆力で描き出す、ブッカー賞受賞作家の最高傑作。

君たちにお話が必要なのとちょうど同じくらい、大人のたちにはお話を聞かせる子供たちが、すなわち自分たちのため込んだおとぎ話の受け皿が必要なのだ。

それはちょうど、かつでヴェルサイユの庭で「いないいないばあ」と、姿を隠してはまた表すなど、子供っぽい悪戯の数々に興じていたマリー・アントワネットが、フランス革命のさなかにヴァレンヌでつかまり馬車で護送され、パリに着いたときにはもう、その髪が羊の毛のように真っ白くなっていた。その時彼女が「いま、ここ」をばかりではなく、自身が「歴史」に飲み込まれたということも意識していたと考えて恐らく構わない。

歴史の考え方の一つに、傲慢説とでも呼べるものがある。この見解によれば、無事にすむ成功はないのであり、損失を伴わない偉業はないのである。ナポレオンがヨーロッパの地図をずたずたにして廻ったら、報いを受けずには済まされない。

彼はこんな風に早口でべらべらと喋り続け、もっと昔へ、もっと昔へと過去に向かって走り続けているのだから。なぜなら、前に道がないときに唯一進むべき道は...。

我々が未来に期待することは、じつにしばしば、何か我々が失ったと想像している過去、その投影に過ぎないのだよ。

人は歴史を語る。
自らの歴史、家族の歴史、国の歴史。もし...だったらと誰もが思う。
過去を物語化しないと、現実と折り合いをつけられないと書かれているが、そうなのかも知れない。