ちょっと前につくったやつ。
最近はなし考えるんはやりおわってきた
「自由をみつけに」
ぼくは、大きな大きな、崖だった。
朝にはまぶしい太陽がぼくをてらし、
鳥たちの群れが、目の前をとんだ。
夜には、まあるい月と、おしゃべりする。
オオカミなんかが、ぼくの上にのっかって、
オオーン と、ひと声、いきものたちにごあいさつ。
なかなかのんびり、すごしていた。
ある日、わたり鳥がやってきて、ぼくに言った。
「きみは、今日も、明日もこれからも、ずーっと、ここにいるの?」
ぼくは、なんだかふしぎな気持ちになった。
この鳥は、あの山をこえた向こうを、知っている。
オオカミは、あのどうくつの中を、知っている。
太陽も月も、ぼくの知らないことを、たくさん、知っている。
なのにぼくは、なんにも、知らない。
そうか、ぼくは、自由じゃないんだ。
ぼくはここから、動けない。
ぼくは自由じゃない。
ぼくは、自由がほしい!
その日の夜、大雨がふった。
ピカッ! ガラガラガラ・・・ゴロロロロ・・・!!
ぼくに大きなカミナリが、落ちてきた。
ぼくは、くだけてしまった。
くだけてすこし小さくなったぼくを、
ある日、人間がノミでコンコンと、なにかのかたちにした。
ぼくは、「神様」というものに、なったらしい。
それからというもの、毎日たくさんの人間が、ぼくの前に行列をつくり、
いつもぼくの前には、お金や食べ物が、ならべられた。
ぼくはいま自由?これが、自由っていうもの?
いいや。ちっとも、自由じゃない。
ぼくはまだ、あの町のむこうを、知らない。
ああ、はやく、自由になりたいなあ。
それから何年かたった。
最近、毎日ぼくの前にならんでいた人間たちは、
ちがう方向に、行列をつくるようになった。
長い刃物や、「てっぽう」とよばれるものをかついでいる。
だれも笑っていないから、ぼくはなんだか、さびしかった。
ある日、あたりはごうごうと燃えていた。
人々はもう、行列なんてつくらず、逃げまどっている。
まあるい球がぼくに飛んできた。
ドギャーーーン!ガラガラガラ・・・
ぼくはまた、くだけてしまった。
小さくなったぼくは、海の底にしずんだ。
海の底は、しっとりと、青かった。
今まで海を知らなかったぼくは、毎日楽しかった。
いつも、力強くぼくをてらした太陽は、
海の底にいるぼくには、キラキラと、ゆれるように、そそいでくる。
いろんな貝や、魚がひと休みしにやってきたし、
うまくできなかったけど、こんぶにダンスも、教えてもらった。
しかし、しばらくたつと、ぼくは、もの足りなくなった。
力強い太陽に、会いたい。
やさしくぼくをつっつく風に、会いたい。
ぼくはまだ、自由じゃない!
ぼくはさけんだ。
「だれか!だれか!ぼくを陸まで、はこんでちょうだい!
ぼく、自由になりたいんだ!」
すると、海のみんなは、よしきた、と重たいぼくを、陸まではこんでくれた。
「みんな、ありがとう。」と言うと、
「いいさ。自由っていうやつ、みつけられたらいいね!」
そういってみんなは、海の中にもどっていった。
ぼくのまわりには、ぼくを助けてくれるものが、いつもいたんだ。
今までぼくが、さけばなかっただけだったんだ。
そんなことを考えながら、浜辺でのんびりしていた。
しばらくすると、人間がやってきて、ぼくをひろっていった。
この人は、「りょうし」というものらしい。
ぼくは、あみにくくりつけられて、海になげこまれた。
なんてこった。また、海の中に、もどってしまったのだ。
「あれ?自由をみつけにいった、石じゃないか。
どうだい?自由というやつは、みつかったかい?」
そのとき、ぼくは「りょうし」によってひっぱられた。
「うわーーー!!!」
海のみんなが、さけんでいる。
みんな、ぼくがつながれた、あみの中。
「つかまったーーー!!!」
なんてことだ!ぼくは、ぼくを助けてくれたみんなを、つかまえてしまった!
いつも自由に、海の中でくらしてたみんなの自由を、ぼくはうばってしまったんだ!
その夜、ぼくは泣きつづけた。
こんなに悲しいのは、初めてだった。
月はぼくを、やさしく、なぐさめてくれた。
「きみ、そんなに泣かないで。人間だって、生きるためにしていること。しかたのないことだよ。これ以上、きみ自身もきずつかないために、どうしたらいいか、考えよう?」
「うん。」
ぼくは、つながれているあみから、逃げたかった。
自分で動けないぼくは、どうしたらいいか、わかっていた。
とりたちにさけんだ。
「鳥さん!鳥さん!ぼくを、このあみから、逃がしてちょうだい!」
ねていた鳥たちは目をさまし、やれやれ、と、ぼくのまわりに飛んできて、
ぼくをつないでいるあみを、くちばしでちぎってくれた。
ぼくは、あみから逃れた。
「鳥さん、ありがとう。」
そのとき、おおきく船がゆれ、ゴロゴロと転がったぼくは、船から落ちてしまった。
落っこちたぼくは、地面にぶつかって、また、われてしまった。
夜が明けると、またすこし小さくなったぼくを、人間がひろっていった。
ぼくは、大きなつぼの上にのせられた。
「ぬかずけ」というものをつくっているらしい。
毎日、おばあさんがやってきて、ぼくがのっているつぼの中を、せっせとこねまわした。
ぼくは、つぼの中のやさいたちに、話しかけた。
「きみたちは、そんなせまい中にずっととじこめられて、いやじゃないの?そんなところじゃ、空も飛べないし、海も泳げない。太陽や月もみえない。何にもみえないでしょう?何にも知れないでしょう?自由じゃ、ないでしょう?」
「自由って、なに?それはおいしいの?ぼくたちは、ここでおいしくなるんだよ。そしてみんなに、おいしいおいしい、って、食べてもらうんだ。それって最高に、しあわせだよ。畑にいるときも楽しかったけど、ここにいるのも、ちっとも、いやじゃない。」
そうか、このやさいたちにとって大事なのは、空を飛べることじゃないし、海を泳げることでもない。太陽や月をみれることでもなくて、いろんなことを知ることでもない。
おいしくなって、みんなに喜んでもらうために、今日も明日も、このやさいたちは、ここですごすんだ。
ぼくは今まで、自分の自由のことばかり、考えてきた。
ぼくが楽しかったら、それがすべてだった。
ぼくはぼくだけど、みんなのぼくでもあるんだ。
自由って、なんだろう?
自由って、ぼくが幸せで、ぼくが楽しいものだと思ってた。
いろんなものをみて、いろんなことを知る。それはすごくかっこよくて、
自由なんだって、思ってた。
ぼくはいろんなものになって、いろんなことを知ったけど、
自由が何なのか、わからなくなる一方だ。
なんだかむずかしい。しばらくここで、すごしてみよう。
ぼくはつぼの上で、のんびりしていた。
ある日、いつもつぼの中をかきまわしていたおばあさんは、来なかった。
かわりに、若い女の人が来るようになった。
おばあさんは、どうしたんだろう?
おばあさんは、自由になったんだろうか?
そう思っていると、ぼくをもち上げた女の人は、手をすべらして、ぼくは床に落とされた。
ぼくは、また、われてしまった。
小石ほどの大きさになってしまったぼくは、
強い風がふくと、コロコロと、転がった。
強い雨がふると、ささるように痛かった。
崖だったころ、ぼくが、風に転がされるなんて、思ってもなかったし、
雨がこんなに痛いものだなんて、知らなかった。
見下ろしていたはずの草や木や花を、いつの間にか、見上げるようになっていた。草はこんなに強くて、木はこんなに大きくて、花はこんなに鮮やかだったなんて。
人間にふまれた。
けられることもあった。
投げられて、誰かをきずつけてしまったこともあった。
金魚が泳いでいる「すいそう」という中にいれられたこともある。
そこは海に似てたけど、海にしては、とてもせまかった。
金魚に、「ここじゃ自由に泳げないでしょう?海でいっぱい、泳ぎまわりたいだろうね」って言ったら、「わたしは、生まれてからずっとここにいるから、ここが泳ぎやすいわ。わたしは別に、ここで十分よ?」って、言ってた。
ここじゃいやだ、ここはちがう、と言ってきたぼくは、「ぜいたく」だったんだろうか?
それから何年も何年もたち、ぼくは、ますます小さくなった。
こんなに小さくなったぼくを、もう誰も、ひろってはいかなかった。
ぼくは、いま自由?
いくら「何か」になったって、自由って何なのか、わからなかった。
ぼくはいま、「何か」のぼくじゃないけれど、
「何か」のなかの、ぼくなんだろうか。
これが、自由っていうもの?
それともやっぱり、気づいてないだけで、「何か」のぼくなのかもしれない。
自由なものって、あるんだろうか?
自由なひとって、いるんだろうか?
自由って、なんなのだろうか?
ぼくは小さくなった。小さく、小さくなって、
ぼくは、大地になった。