ちびの兄二人は、私の実家に預かってもらっていたが、
透析二日目の夜は自宅に戻し、3人で寝た。
私は二人の話をよく聞いた。
実家でのこと、冬休みのこと、テレビのこと。
我が家は家族一緒にクリスマスを過ごせなかったが、
サンタクロースは来たらしいサンタ

私はちびがひとりぼっちで病院でがんばっていること、
痛い思いをしながら泣かないこと、
ママとしてできるだけそばにいてやりたいことを話した。

兄二人は真剣に聞き、ちびの状況を少し理解してくれたようだ。
「ちびが帰ってきたら、これあげるんだ。」とか
「このおもちゃ貸してあげるんだ。」とか
弟思いの一面を見せた。

私はその夜、久しぶりに日常に戻った気がした。
時間があれば襲ってくる不安も
ちびへの「ごめんね」も
忘れられた。

でもこの日常に、私たちの家に、ちびがいない。
その寂しさだけは忘れられなかった。

翌朝電車に乗って大きな駅まで行き、兄たちを親戚の家に預けるため新幹線に乗せた新幹線後ろ新幹線真ん中新幹線前
兄たちは、楽しみな様子を見せながら、
「ちびとママにおみやげ買ってくるね❗️」と旅立った。

これで二人に冬休みの思い出を作ってあげられる。
少しの安心を感じながら、私は足早にちびのところへ向かった。

いつもより30分ほど遅れて面会。
ちびは鼻にチューブをつけていた。
集中治療科の医師によれば、マイコプラズマ肺炎のせいで、左の肺がつぶれ、咳き込むと食べたものを吐いてしまうことが続いているそうだ。
モニターで全身管理しているので、呼吸が弱くなっていることに気づき、酸素を入れていると言う。
首の管のせいで自由に姿勢が変えられずつらそうだが、今日もこれから透析予定だそうだ。

ちびは相変わらず、私に笑顔で「大丈夫」と言う。
元気はありそうだが、顔に赤いブツブツができていて、今日は唇にも一つ確認できた。
むくみは少しよくなっていた。

間もなく透析準備で面会謝絶。
30分ほどでまた透析中のちびに面会できたが、
血が固まらないようにする薬を点滴で入れているが効かず、貧血もでているので回路を組み直すと説明された。
医師たちに深刻な様子がないし、私には何がなんだかわからないので、任せるまま。

回路を組み直している間に、入院してから便が出ていないからと浣腸をすることになった。
また初めての試練。
私も担当の看護師さんもゆっくり落ち着いてちびに説明をした。
便が出ないとどんなに大変か、そのために少しつらいけどがんばろうと。
ちびはポロリと涙を流し、理解したのか観念したのか応じてくれた。
薬を入れ、間もなく腹痛がちびを襲う。
すぐに出たが、今までにないほど泣いた。
痛い、痛いと泣いた。
私は抱き締めるしかできなかった。
「えらいよ、がんばったね。」と言うことしかできなかった。

再び透析が始まったのはもう午後1時だった。
激しく泣いたこともあり、さすがに疲れたのか、ちびはDVDを見ながら寝てしまった。

私もウトウトしたかもしれない。
透析が終わったとき、もう外は暗かった。

ちびに夕食を食べさせるが、やはり咳き込んで吐いてしまう。
それでも大好きなきゅうりが食べたくてがんばった。

その日の夜は、透析を始めてからちびが初めて起き上がり、一緒に遊んだ。
頭頂部の痛みを訴え冷やしながらだったが、折り紙やトランプをした。
お兄ちゃんたちが旅立ったことを伝えてあったからだろうか、消灯時間の9時までよく遊んだ。

今日はヒゲの担当医から、腎生検について話があった。
「年明け7日を予定しています。
メリットは診断をつけることと、重症度をみること。
外部に検査を依頼しましたが、他に腎臓病はみつかりませんでした。
むくみもとれ、おしっこも出てきたので、やはり溶連菌からの急性腎障害と考えられます。
それもかなり重症です。
このケースで透析までしたのはこの13年で3ケース目ですから。
腎生検、実施の方向でいいですよね。」
押されながら「はい」と返事をし、私はいくつか質問をした気がする。
どんな検査かなんて、自分でとっくに調べていたけど…
すぐにヒゲの担当医は書類を持ってきた。
検査の概要、方法、危険性などを説明された。
万が一について説明するのは医師の義務だろうが、ヒゲの担当医は自信に満ちている様子だった。
麻酔をかけるが、あくまでも検査であり、輸血したケースはここでは一度もないと。
ヒゲの担当医の読めないサインの下に、私もサインした。
間もなく麻酔科医がやってきて、問診と説明。
またサイン。

ヒゲの担当医は何度か言った。
「あくまで予定です。
サインしたからと言って必ずやらなきゃならない訳じゃない。
やめたかったらいつでも言ってください。」
私がよっぽど不安そうに見えたのだろうか。

その夜、9時過ぎに寝たちびを看護師さんにお願いして病院を出ると、家に帰る理由がわからなくなった。
帰ってもひとり。
きっとまた泣く。
近くのホテルを検索したが、クリスマス明けの年末近く、どこも高値で空きも少ない。
いつも通りの電車に乗り、
真っ暗な部屋に帰った。

ずっと頭を巡る思い。
ちびはつらい治療の甲斐があって
確実に回復している。
今日はやっと起き上がれた。
それなのに、また体に針を刺して痛い思いをさせるのか。

もうサインしてしまったけれど、
まだ悩んでいる。
誰にも相談できずに。
シンママは孤独なんだと
初めて気がついた。

右矢印続く