いしいしんじ/ある一日(2012/2014)

 

 

 

-----

 

 

いつもブログにあげている読書感想文は、

まずおおまかな話の筋を書いてから自身の感想を述べるという

かたちにしているのですが、

今回は、もうなんというか どうあらすじを書いていいか分からず

というより 言ってしまえば

 

 

妊娠十ヶ月目の園子と、夫である慎二(著者)のふたりが

出産をむかえるまで、むかえる瞬間、を描いた話

 

 

でありますので 語弊があるかもしれませんが、上述したとおり

これにつきます。

最初から結末が提示されている状態で

読者は話を読み進めていくことになるのです。

 

 

けれど早々に「これは何の話だっけ?」と

わたしは本をひっくりかえしました。

スプーンとピザをいっしょに出された、みたいなおどろき

どうやってたべればいいの!スプーンいるの?って。

 

 

しかし、いしいしんじの本なのです。

魅力の一つである不意をつく構成、

「京都に住む妊婦と夫が出産を迎えるはなし」というひとつの枠だけで

話が進むはずがないのです。

休むまもなく次々と 別の世界へいったりきたり。

 

うなぎ、猫の毛玉、ヴァイオリン弾き、お地蔵さん、なべ。。

 

 

園子が子を胎内に宿していたからこそ感じた風味

思い出す過去、見える景色のそれぞれが

それらの世界を構築しているからなのか

その端々はうっすらと 透明な糸で繋がっていて

めちゃくちゃなようで そうではない。

 

どれも不思議で美しく、

けれどほんのり漂う空恐ろしさ。

 

 

落ちてはいくつもに弾け きらきら光る一言一句に

やっぱりすごいなぁ、いしいしんじ。すきだなぁ、いしいしんじ。

と、再認識した一冊でした。

 

 

 

「園子のからだはサッシ戸のガラスをふわりとくぐりぬける。(略)

そうして慎二の目の前まで、足を床につけずに滑空してくると、

園子はまるまると膨れた腹に両手を添え、

「なんだか、おなか痛くなってきたんだけど、ひょっとして、そうかな」

秘密の鍵を手にした少年の声で言った。」

新潮文庫 いしいしんじ/ある一日(2014) p.58-59より一部抜粋

 

 

 

 

-