「日本あるいは日本人は世界から孤立する性質があるから、自国の国防力を養いつつ、可能な限り協調路線を維持すべきだ。」…エマニュエル・トッドの分析は非常に説得力があって傾聴に値する。しかし、その見解に違和感があるのは、中国について、「外見と異なり経済的に脆弱で中国指導部は経済のアウトオブコントロール状態に実は狼狽している。日本はその心中を察して手を差し伸べるべき」と考えている事だ。確かに中国の国内経済は粉飾されているので、蓋を開けてみれば破綻寸前、ということも十分に考えられる。ところが東アジアの歴史を鑑みれば即座に理解されるように、中国・朝鮮の国々には個人的な仁義はともかく、国家間において恩義という概念は存在しない。欧米諸国とはこの点で大いに異なる。今までもそうであったように、彼らに援助をしたところで必ずしもそれが国家間の関係改善に直結するものではないというのが実情である。
そこで本論:問題となるのは、中国が主導する「一帯一路」政策だ。それは一見ユーラシア大陸を平和的紐帯で繋ぐ体を装う。が、その正体は、中国と周辺諸国間の現代版「朝貢関係」を構築することにある。私が「朝貢関係」と例えたのは、その目的が友好的新世界秩序建設にあるのではなく、連続性ある歴史が断絶した中国が現体制のいわゆる正統性(legitimacy)を確立するにあるのであって、世界中を巻き込んで茶番を演じる、飽くまでも国内向けの政策と思えるからである(北朝鮮はその意図を知ってか知らずか、一帯一路国際会議開幕日にあたかも「こんなもの所詮茶番劇でしょ」と言わんばかりに弾道ミサイルを打ち上げた)。とすれば、その性格が、他国の犠牲によって自国の安定を図る独善的なものになるのは必然である。実は、この発想は、中国がここに来て突如として始めたものではなく、遥か唐の時代から実行してきた使い古しの戦略だ(菅原道真は慧眼によってその理不尽に気づき、遣唐使の中止を献策したのだろう)。そして、かつての植民地主義時代に中国大陸が西洋列強に支配された、それと同様のやり口で今retaliate(報復?)しようとしているのではないかという疑念も生じる。加えて厄介なのは、中国人の企図する戦略はタイムスパンがなにしろ長い点だ。それとは対照的に日本も含めて一般に各国首脳は現政権下での手っ取り早い成果を求める。中国の提示する目の前の好条件に飛び付き、安易にこの「一帯一路」政策に賛同するならば、将来にわたって大きな禍根を残すことになるだろう。それが証拠に「債務削減の見返りに国土の一部の99年間占有(如何にも大英帝国の植民地支配を想起させるではないか)」を弱小国に突き付けるなど、秘された野望の一端はスリランカやカンボジアですでに露呈している。