前作で、既存のアイドルポップのイメージからの脱却をはじめたSMAPですが、今回でもその路線は健在。当時流行りだったサウンドやこれまでにない曲調の曲も増え、挑戦する事にたゆまない意志が耳に新鮮な、SMAP、五枚目のフルアルバムです。
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1 ギョーカイ地獄いちどはおいで
2 失くしたり見つけたりのEvery Day
3 $10 <MOD Mix>
4 少し辛い永遠
5 スポーツしよう
6 涙もろいWoman
7 いつだって愛し過ぎてしまう
8 最後の冬の日
9 君が何かを企んでいても
10 ひとりぼっちのHappy Birthday
11 君色思い <Remix version>
12 エピローグ
個人的にフルでまるまる聴きたくなるアルバムの一枚に入るこの作品ですが、前作に見られたメンバーソロ曲の廃止、テーマインストではなく、エピローグインストの収録など、飽きない仕様がそのせいではありません。
全体的にしっとりとした曲の多い一枚で、感傷的な雰囲気が漂っているから好きなのです。
一曲目の「ギョーカイ地獄いちどはおいで」はアルバムのはじまりをきるにふさわしい、ポジティブナンバー。タイトルからもわかるとおり、なかなかユニークです。マスコミ関係者が多く使うギョーカイ用語を連発しながら、やがて自分もそのギョーカイ人になってしまう姿を明るく歌います。
二曲目「失くしたり見つけたりのEvery Day」のディスコサウンドばりばりのサウンドと併せて、リリース時の世を反映しているところが聴きどころ。
個人的にこのアルバムがエンジンをかけさせてくれるのは、六曲目の「涙もろいWoman」から。森と稲垣の甘く切ない歌声が彩るこの曲は、年の差のある恋愛の終幕に浸る男を描いた名曲。
キーボードとアルペジオが印象的なボサノバ調のミュージックが、苦い気持ちを呼び起こします。
「夏よりも半年、年をとって」「泣くことで振り子の位置をもとに戻す」といった、秀逸なフレーズが多く耳をなで、小説的世界をも思わせてくれる一曲です。
「いつだって愛し過ぎてしまう」では遠距離恋愛が描かれます。すかした世界観でありながら、その中を生きる男の飾り気のない気持ちがサビで展開される様は、多く言葉を選ばない素直な気持ちが表出されてて、とてもやるせない。
会えな事そのものと、気持ちは近いと言えど、決して勝つ事の出来ない物理的距離感が抱かせる、離れているからこそ、の苦悶は人恋さみしい秋冬の情景を思わせます。
「君が何かを企んでいても」のマイペースな世界観もいい。昔の人を思ってるのかも?という恋人への疑惑を感じても、自分なりに好きになるという前向きでしたたかな言葉は、恋に対してポジティブにさせてくれるよう。
「ひとりぼっちのHappy Birthday」では独特な弦楽器のサウンドで失恋を歌ってくれます。
恋愛において大切な日--それがたとえ、別れを告げられた日でも--の思い出たちと、自分一人だけが、「その気になっていた」事の情けなさを交えながらドラマは進む。
これが結構、共感できるんだけど、切なくて。でもほがらかな曲調がそれを少しだけ和らげる。
静かに降る雪のように、ゆっくり行こう、というような失恋ソングです。
ラストナンバー「エピローグ」が一曲目の前奏と同じなのも面白い。違うのは、一曲目が前奏後、華やかにはじまったのに対し、ここではゆったりフェードアウトしていくところ。
あぁ、終わったなぁ...と名残を感じさせながら幕を閉じる様は、上品な演出です。
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前作と比べると、いい意味で青さが抜け、楽曲にも、アイドルらしいポップさはなくなった印象の一枚。
いい意味で、アイドル的イメージの払拭、悪く言えば、よくあるジェイPOPにおさまってる感じなんだけど、当時を思えば、その変化ってすごいのだろうなぁと思うばかり。
ここまでのSMAPのアルバムの中で、もっとも落ち着き、もっとも変化のみられる一枚で、その変化がなんとも贅沢な助走--名盤、007への--であると感じられるのは、進化がありありと聴いてとれる期待感ゆえ。
冬の静かな街角を歩く時、今も昔も、ここの曲達は僕と共にしてくれます。
