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長編物語ブログ

 うんざりするほど長い物語です。
 でも不思議と中毒性があるかもしれません。
 
 
<チームイミタン>
イラスト担当:t2 文章担当:イミタン

「もう少しだけお願い」
 渚はそう言って、宮脇・飛翔の腕を握った。
 汗ばんだ掌で飛翔の腕を掴むと、公園のベンチが浮き上がりそうになり、
 飛翔の細い腕は滑りそうだった。
 彼女は立ち上がり、飛翔の両肩に手を掛け、自らの身体に向かい合わせようとした。
「痛いから、渚やめてよ」
 そう声が届くと花柄のワンピースの上には、予期していた涙がポロポロと落ちた。
「どうしてそんなこと言う?」
 彼女の上ずった声は真向かいにいる、親子連れを無視した。
 母親は子供を抱きかかえると、歩き出した。
「だから宗教だっていってんじゃん」
 彼の少しだけ緩んだ力は、彼女の言葉によって力み、首から下げていた懐中時計は揺れた。
「渚にはわからないよ、もう離して、繰り返してるけど無視するから」
 飛翔の途切れ途切れにステップを踏むような優しい声は、
 普段と様相が変わって、
 まるでナイフのように渚の心を深く抉った。

 

 
 

 木立に囲まれた一角に古い洋館があった。
 外壁は薄いモスグリーン広々とした庭園を区切るように、鉄柵が設けてあった。
 男はレトロなスクーターから降りるとジョッキーヘルメットを取って、
 タンデムしている女性に言った。
「春さんここがそうかい?」
 後ろの女性はこくりとうなずいた。
「市長さんも住みにおけないねぇ、こんな隠微な愛人邸を建ててるなんて……税金じゃないよな?」
 男の言葉尻は高音になった。
「知らないもんパパに聞いてよね」
 女は頬を膨らませると乱暴にバイクから降りた。
 するとバイクは揺れ、
「こら危ないだろ」
 バイクを押さえるようにしてスタンドを立ち上げ降りた。
 洋館を眺める男。
 夕焼け色の空を背に男のハットは表情を隠した。
 男は帽子を手で軽く押さえ、深呼吸すると、クールアイビーの背広をびしっとして門を開けた。
「怖いんだからね」
 女はそう言って何も言わずに先を歩く男についていった。

 ある国に大会があって、時代において最先端な技術がそこにあった。
 しかし日本人の技術者集団が、その大会を潰してしまった。
「春さん知ってるかい? この名もない懐中時計の所以をね」
 男は手袋を取り出すとまるで赤子を愛撫するかのように、懐中時計を手にした。
 しかし春はどうにも男の説明に得心がもてなかった。
 それというのもどこからどうみても、ただの懐中時計であった。
「俺にはわかるんだ……ああそうかい、おまえはこんな気持ちでここにいたのか」
 男がそうして愛でてるいると、
「どうでもいいじゃんね……問題はだよ、時計ではなく?」
 そこで女は首を傾げ(?)
 この男を連れて来た意味を考えていたのだ。
 そもそも市長の愛人が何者かに殺されたことではなく――。
「わかってるさ、この場所から人が消えたんだろ」
「そう、そうれよ……何かわかる?」
 男は時計を優しく懐にしまうと、
「そうだな……この時計がオメガバイタルっていう名前がついてる。この世でたった一つのもの、誰も気づかずに時代の流れに価値を忘れられた」
 男がそう言って腕組し黙考に入り込むと、
「すめらぎの経営状態は知ってるいるけれど、元の位置においといてね、それは犯罪」
 春がそう言うと、
 男は慌てて表情を崩した。
「やぁ悪かったね、こう胸に入れていると語りかけてくるんだ」
 そう言いながら今度は、ハットを脱ぐ振りをして、男はすぐ後ろにある本棚に手を、
「いい加減になさい!」
 春は天然のかかった男の頭を叩いた。
「わかってるさ」
「何もわかってない……子供達がどんどん消えてるのよ……」
 男は視線を斜め右下に移した。
 多少、今男たちがいるこの書斎は埃を被って、物達が乾いているように思えた。
 男はもう一度懐中時計を手にした。
 そこで気づいた。
「春さんこの懐中時計は、最近までここにあったんだ、しかもこれをもってる階級を俺はよーく知ってる、俺みたいに仕事にプライドを持ってない奴らからしたら、カモだよ」
 春は、埃まみれな椅子を手で払っていた。
「手が汚れちゃった」
 男の話しは右から左であった。
 しかし男は続ける。
 春は、ため息ついて腰掛けて、男と向かい合った。
「春さん信じてくれ」
「もう信用できない」
「俺と古い物達に誓って」
 春は頬を膨らませた。
「続けなさい」
 男は一瞬だけ憮然としたが、心得ていた。
 彼女は雇用主だと。
「つまりは言い方は悪いが、社会の底辺で暮らしてる子が一人いるってことだ、それだけでも絞れるんじゃないか? この界隈には住めないのはあんたが一番知ってるはずだ」
 女は男の顔をじっと見つめた。
「そうね、行方不明事件と殺人事件をくっつけたのは私だしね。一つの共通点にアンティークな物がある」
 春はそういって、乱暴に立ち上がると、男が首に下げようとしていた懐中時計を奪い取った。 男は刹那的に発狂しそうな表情を作る。
「あのさ春さん一つ誓ってくれ、その時計俺といるときだけでいい、絶対に肌身離さず持っていてくれ」
 男はそう言って踵を返した。
「ああまた怖いんだよ、おいてかないでよね」
「もうここには用はないだろ?」
 男はハットを押さえて振り返ると言った。
(時々古い物達は俺に語りかけてくるんだ。今は待っていてくれ。)

 彼がいたときは

 歯磨きを余計にした

 出かける前は

 いくつかある鏡の前に立って

 写り方が違うことに腹を立てた

 私はカットパフォーマーのようになって

 鏡の前の自分をいくつも記憶した


 それが今では

 スマートフォンが化石のように

 卓上に転がって

 ドレッサーにある化粧水は倒れたまま


 彼がいたときは

 眠れない夜は少なくとも

 悶々と過ごした

 ことんと眠れた日は

 どこかに彼を感じることができた


 それが今では

 睡眠は仕事のせいで

 悩みはおおまかに

 人間関係になった


 淋しくなくても

 一日の長さは変わらないことに気づいた

 辛くなくても嫌なことは起きることに気づいた


 彼から苦し紛れにlineが届くと

 冷静に今自分に気があるんだな

 なんて感じ取る余裕ができた

 やっぱり私から別れを切り出したのは事実だった

 忘れようとしてたのにね


 彼がいたときは

 私の部屋は華やかだった

 不必要なものでも可愛いだとかにこだわれた

 彼がいたときは

 彼がいたときは


 それが今では部屋はシンプルになった

 私は快適さを追及してる


 生きてるって時間がある

 彼は私の時間を奪っていったのかな

 今思えばそんな気さえする

 これだから恋ってやつはやっかいだ

 

 彼がいたときは