ウレハ二章 ep25 家出 | 長編物語ブログ

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 うんざりするほど長い物語です。
 でも不思議と中毒性があるかもしれません。
 
 
<チームイミタン>
イラスト担当:t2 文章担当:イミタン

 ギターを持ってこなかったことに後悔した。
 背中に指を這わせるとそこにいつもあった重量感を思い出し、椿はこんなに軽いなんてとても信じられなかった。
 無論、山中椿はギターを手にしていないときだってある、だがそんなときは心が落ち着いていられるときだ。
 隆より随分先に目覚め着替えをしているときまでは、冷静だった、しかしふと鏡を見て歯磨きをしようとすると、どこからともなく逃げたいという衝動に駆られた。
 椿は知っていた意識はするものじゃないと。だから制服のまま財布を片手にアパートを飛び出してからというもの、隆と初めて出会った土手まで歩いた。
 いくら早朝であっても隆の家は市内の外れで徒歩で向かうと一時間はかかる。
 しかし椿は歩き疲れたことも気づかなかった。
 隆の妹である恵が土手の小道を友達と並走しているとき、椿は頭を下げ隠れて、数秒してから空腹と疲労が襲ってきた。
 椿はぼんやりと川面を見つめながらとても悪いことをしたと思った。
 しかし自分がいなくなってもだれも心配はしないだろうと、卑屈な考えで逃避した。
 椿が向こう岸を眺めると木立の間から小鳥が飛び立った。
 それは椿の目には輝いて見えた。どこにでもいけてそれを辛いとは感じない。あたしもそうなれればいいと思った。
 椿は立ち上がりスカートについた砂埃を払った。

 携帯電話の画面には美しい隆と可愛い椿が並んで映っていた。
 初めて見た隆の本格的な女装に、心をときめかせたのはいうまでもない。
 真紀は液晶画面に向かって軽く唇を寄せた。
 寂しくないといえば嘘になる。だが隆に自分は認められたということが何より嬉しかった。互いに辛く歪んだ部分はあるが、それがなんだというのだろう。
「恋に型なんてないのよ、だって真紀は椿ちゃんのことも好きだもの」
 真紀がそう言うと、小城舞は柔和な笑みを作った。
「真紀さん……本当に久しぶりに笑いましたね……私は」
 と、ここで声が途切れ涙があふれる舞、
「舞ちゃん真紀はね、やっと二人に信頼されたってことが嬉しい、だからどんなことがあってもこの子たちと戦いたい、今は答えはでないけれどね……世界は回っているから、置いて行かれちゃう、だから三人で手を繋ぎたいの、わたしおかしい、変?」
 真紀がそう言って、舞が力いっぱい抱きしめると、
「もうわたし泣かないよ、だってもったいないし涙がね、変わりに舞ちゃんが泣いてね」 舞は嗚咽を漏らし始めた。
「私は……真紀さんに恨まれて当然なのに……鞘としてのプロデュースは凸凹バンドを絡ませず、インターネットにアップロードした豊漁祭の動画をすぐ削除して……もし『凸凹』の曲がこれ以上有名になったら、シングル化を鞘名義で――」
 真紀はゆっくりと息を吐いた。
「気づいてたし、そうなるかもしれないってことは理解してた、だから真紀は現実は残酷だって椿ちゃんにも言ったよ、でももうやめてくれる? 真紀悲しくなるから」
「わかりました!」
 舞は涙を拭いながら言った。そして落ち着きを少し取り戻すと空咳をし、
「明日はコンサートです。よろしいですね?」
 と、続けた。すると真紀はにやりと笑って、男の顔になった。
「気合い入れていくぜぇ!」
 そう言った。