心地よい朝の空気を吸うとだらけきった気持ちは霧散し日課の中に溶け込んだ、爽快さがわき上がる。恭介は土手でジョギングをしてそのまま家の前までくると空に向かって背伸びをした。この朝の日課を他で当てて潰したりすることは今までジョギングをし始めて一度もなかった。恭介は知っているのだ。心の堕落を取り戻す行動があるのなら、それは安いものだと、精神論に精神論をぶつけてもそれはただの自虐行為に過ぎない。
まずは行動から自分の一番嫌いなことから、そしてそれを教えてくれた張本人を導くためにも、シャワーを浴び登校の準備が済むといつもより早く家を出た。
良太の祖父母に挨拶を交わし家へ上げてもらうと、案の定良太はまだベットの中にいた。「良太君起きないと」
「やだ、あんなクラスなら学校行かない方がいいよ」
「駄目だよ、おれたち三年だしバンドだってあるし」
「とにかく寝る、じゃあね恭ちゃんおやすみ」
「おやすみって……」
恭介は時計を見て少しだけ余裕があると思ったので部屋を見渡した。以前の良太の部屋を知っているだけに、ここが良太の部屋だとはとても信じられなかった。それほどオシャレな部屋へと変貌しているのだった。
「どうして恭ちゃんが迎えにくるの? これじゃあ前と逆だし……撲の立場がないよ」
良太は少しだけ身体を起こすとそう言った。
「だから今度はおれの番。チェックチェック、一回が百回に……」
恭介は口元に拳を当て、裏、表と掌を返した。
「ああもう! わかったから そのかわり恭ちゃん」
そこでにやりと良太は唇を釣り上げた。
「昼休みは一緒して、撲一人だし、みんな連れてきてよ」
「お、おれが誘うの?」
「そう、山中さんもだよ! 松尾君が言っちゃ駄目、恭ちゃんから誘ってね」
良太はそう言って起き上がった。
「無理だよ、おれできない」
「今の恭ちゃんなら大丈夫、着替えるから出てって」
「おれたち男同士だし」
「いいから!」
良太は恭介を部屋から追い出しだ。
恭介は椿の背中ばかり追いかけていたが、その挙動不審ともとれる態度に気づかない松尾ではなかった。早速ニヤニヤと恭介の肩に手を回して言った。
「ついに愛の告白か? 俺様も協力するぜ」
恭介は松尾の目の前に顔をヌッと迫らせた。
「松尾、そういうことを言うとゲームさせない」
「俺様はだなおまえらがうまくいくようにだな――」
「俺、良太君や松尾に言われなくとも考えてる。このままじゃ駄目だって」
「ほほぅ……で、その作戦を聞かせろよ」
恭介は眉を歪めた。
「わかったよ、でもな道は険しいぞ」
恭介は椿にべたべたと甘えている隆を見てゆっくりとうなずいた。それから少しだけ歩調を早め二人のすぐ後ろに控えた。
軽く深呼吸をして口を開いた。
「山中――今日は学食にみんなで集まろう」
椿は隆を押しのけるようにして振り返る。
「え? 別にいいけどどうしてなの?」
「ちゅ、昼食を前みたいにみんなで、俺達もう三年だし上級生に席も取られない」
「そうね、それがいいわ、恭介ありがとう」
恭介は後頭部をゆっくりとかいた。
「ちょっと隆! くっつかないで」
椿は逃げるように正門を抜け階段を走り上がっていった。
「やるじゃねぇか、恭介、椿の前では前のおまえに戻ってたが、今日は山中の顔を見て話せてたぞ」
松尾は恭介に軽く体当たりをして言った。
「恭ちゃんはやるときはやるんだよ。ああ、撲は昼まで憂鬱だよ松尾君クラス変わってよ「やなこった」
恭介は汗ばんだ掌を開いたり閉じたりして、いつまでも椿の背中を追いかけていた。以前は話しをすることはおろか、友人になれるなど思ってもみなかった。心の中ではどこかでこの恋は決して実ることはないと冷静な自分が訴えかけているが、そんなことはどうでもよかったのだ。やるだけやれるだけはやってみよう、それが自分を引っ張り上げてくれた良太のに報いるためにもなるし、いや、自分が気持ちを伝えたいからか……。(逃げるな)臆病な自分を変えるためにもなる。(ゆっくりでいい、少しずつ考えていこう)恭介はそう思った。