夢と現実の狭間 | 長編物語ブログ

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 うんざりするほど長い物語です。
 でも不思議と中毒性があるかもしれません。
 
 
<チームイミタン>
イラスト担当:t2 文章担当:イミタン

恭介は机を独占している良太を見ていた。何やら良太は紙を二つ並べて考え込んでいたが恭介が見ていることに気づくと、
「あ、見ちゃだめだよ」
 と、口を尖らせて言った。
「良太君……いけないことしてない? それ隆君が書いた詞」
「うん……みんなのも目を通してきたんだけど、やっぱり隆君はすごいなぁ」
 良太は自分の詞と見比べて言った。
「勝手に持ってきたんだ……おれしらないよ」
「だってね、ゴミ箱に捨ててあったんだよ」
「それを拾ったの?」
 良太がうなずくと恭介は軽く頭を叩く。
「おれ、信頼関係は大事だと思う」
「僕だってそんなことわかってるけど……どうにか合体できないかなって」
「合体って?」
「この詞を元にしてアレンジしてみる。見て恭ちゃん、少し難しい表現の部分をさ、アニソンみたいに出来ないかなって」
「良太君の趣味に走ってるよそれ……」
「でも、小さい子供やお年寄りには受けると思うなぁ」
 恭介は少し思案して、
「うん……確かにそうかもしれないけど」
「でね、振り付けとかもつけたりして」
「振り付けって……」
 良太は腕を組んで考えている。何かいいアイデアが浮かびそうで出てこないのだ。
「僕、真紀さんも豊漁祭にでると思うんだよね」
「でも、山中さんは止めてる」
「フルハウスミニライブも、止めても無理だったし、真紀さんが豊漁祭にでるなら、隆君と二人でヴォーカルして、踊れるよね」
「おれ、間に合わないと思う。振り付けを練習する時間が足りない」
「だからさぁ、サビの部分だけとかあるでしょう」
「アニメのアイドルみたいに?」
「うん、問題は隆君が――」
「怒るよきっと。おれそう思う」
「だよねぇ」
 良太は声を大きくして笑った。
 テレビからは朝のワイドショーが流れている。良太も恭介もよく知っている人物の映像が流されている。
「飽きないよね、何度も何度も」
 テレビではSAYAが司会者の質問に答えている。テレビから流れる音だけを聞いていた恭介は真紀の質問に対する答えを聞いて、首を傾げた。
「良太君、真紀さんがこのとき言っていることって、隆君のことじゃない? おれすごく隆君のしゃべり方に似てると思う」
 良太はテレビ画面を見た。そしてふとあるアイデアが浮かんだ。
「これだ! 恭ちゃんありがとう!」
 それから良太は机に向かって詞をいっきに書き上げていった。恭介は良太の今までにない必死な顔に声をかけることもできなかった。

 椿は洗濯物を干し終わって一息ついた。ベランダからはなかえ川が見え、川面は太陽を照り返していた。
 時刻を確認する。
 一時間半バイトした所を、真紀が二時間でいいからといっても椿は、それを拒否し、きちんと働いた分でいいと断っていた。真紀の気持ちはありがたいが、甘えるわけにもいかない、常に自分一人でバイトやギターをこなしていた椿は、真紀の気まぐれで家政婦になったにしろ、家事を完璧にこなしていた。
 今もベットから半分落ちて隆の腕を握っている真紀を見て、椿は昨日何があったのか大体予測できていた。
 真紀が時折思い詰めた表情をしている回数が日に日に増えてきている。椿は自分に何か力になれることはないかと模索していた。
 バイトを辞めて、真紀の家政婦になっていければ、バンドが終わるのが早い日や、休みの日は膝を抱えて家の中にいなければならなかっただろう。今までギターとバイトに明け暮れていたので友達を作る暇もなかった。
 椿はベットに乗ったままの真紀の足を落として、隆の布団の中に入れた。真紀と隆は同じ布団の中に入った。
 椿は真紀を親友だと呼べるくらいになっていた。しかしこの夢のような生活もいつまでもは続かない。それはこの家に今いる三人はどこかでは気づいて、忘れようとしていることなのだった。
 今のうちに昼食の準備でもしようと、台所に向かおうとしたとき真紀が目を覚まして、
「椿ちゃんおはよう」
 と、寝ぼけ眼をこすって言った。
「昨日はよく眠れた?」
「うん」
「うそつき」
 椿はそう言って昼食の準備を始めた。

 部屋の中は汚れつつあった。
 スナック菓子は袋からはみ出し、勢いよくペットボトルを床に置くのでジュースが溢れている。
 テレビの前にはゲーム機の本体が並び、松尾純一の握るコントローラーは油でべっとりとなっている。
「やったぜ、また勝った。おれ様うまくなっただろ。恭介、見たか! おれ様の技」
「良太君、二つが一つにの部分、気持ち下げ気味で歌ってみて」
 良太は口ずさむようにメロディを歌った。
「いいとおもうそれでおれ」
「おまえら俺様とゲームしよう」
「松尾君って最近、恭ちゃんの家に勝手に上がってくるようになったよね。もううるさい、ゲームの音小さくして」
「ゲームのセーブデータ上書きされてたおれの」
「えー災難」
「でも、おれ最近ゲームやらないから、好きだけど」
「僕もね、やる暇がないんだよね。アニメも大作以外見られないし」
「良太君とフリーモールで服を見て、ゲーセン行くほうが多くなったと思うおれ」
 松尾はコントローラーを投げて立ち上がる。
「おまえら、俺様が豊漁祭の裏でどれだけ工作してるかしってんのか!」
「またまた……」
「クラスの奴らや知り合いに、カラオケ大会に見に来るようにいってんだぞ」
「ほんとに?」
 良太が松尾にそう聞くと松尾は唇を釣り上げて、
「勿論、おまえらのクラスの奴らにもいいふらしてるぞ」
 松尾が誇らしげにそう言うと、恭介は松尾の前にぬっと顔を出す。
 松尾は顔を少ししかめて、
「いいじゃねぇか、その方が張り合いあるだろ。カラオケ大会なんて、老人ばかりだからってみねぇやつ多いんだよ、だから俺様が――」 
 恭介はぬっと顔を松尾に近づける。
「恭ちゃん怖いよ」
 良太は笑いながら言った。松尾を負けじと睨み返す。
「できた!」
 良太はシャーペンを止めて言った。そして二人を見ると慌てて引き離した。松尾の顔は呼吸をしていないので鬼のような恐ろしい顔つきになっていた。
「死ぬかと思ったぜ」
「二人に共通してるのって、変なところで意地をはる所だよね」
「良太君見てもいい?」
 良太は頭を下げた。
 恭介は良太の書き上げた詞を食い入るように見つめた。
「いいね、これなら山中さんたちも認めてくれると思う」
 と、恭介が言っていると、松尾が折りたたんでいるほうの紙を広げて中を見た。
「なにこれ、恭介の詞だろ、やっべー、センスねぇ、超おもしれぇ、なんだこの……おれうれしい、おれたのしいって……」
 恭介は松尾が持っている紙を奪い取ろうとする。それから二人はどたばたと暴れ出した。

 良太は緊張していた。しんと静まる室内にはバンドメンバーが椿を中心に輪になるように集まっていた。果たして素人の良太が書いた詞が三人に通用するかわからない。できあがった直後にあった自信は泡のように消えてしまっていた。
「いいわ、合格! これくらいのほうがいい。良太もそう思って書いたんでしょ」
「はい!」
 椿はそれから隆に詞を渡し、隆は真紀に渡し、恭介が最後に読む。
「まさかおれの詞が改悪されてるなんてな」
 隆がそう言ったので良太は肩を落とした。
「まぁでも、いいんじゃね? そんな細かいことを俺は気にせん」
「ありがとうございます」
「良かったね良太君」
 と、話しが収まっていくうちに、もう一つの話題を切り出そうか迷う、しかし良太はこれで呆れられたりすれば、それはそれでいいこと、自分の考えを伝えることのほうが大事だと思って口を開いた。
「それであの……この曲振り付けがあるんです」
「何ぃ?」
 案の定隆はいい顔をしなかった。良太は拳を握る。
「真紀さんもどうせ、でることになりますよね」
 真紀はにやりと笑って。
「みんながどう止めても無駄、真紀は変装してでるよ」
 隆と椿は深い吐息をついた。
「それで、二人で歌ってもらって、振り付けをするんです。今から全部憶えるたり考えるのは無理だし……サビの部分だけでも」
 と、良太は言葉を切る。
「アリエネェ、振り付けなんてできるか!」
 隆がそう言うが椿は口に手を当て思案している。
「わたしは振り付け賛成。そのほうが盛り上がるし」
「おまえは黙れ」
「それでですね、SAYAさんの逃げる映像を見ておもいついたんですけど……」
「続けなさい良太」
「はい、あの……SAYAさんのあのときの台詞は隆君のことですよね」
「すごーいよくわかったね良太君」
「やっぱり、だったら話しは早いです」
 そうして良太は身振り手振りで振り付けと、その意味を伝えた。
 唇に手を当て考えていた椿は黒目を上げて、
「なるほどね、確かにこれは、ロックだ! ってやるバンドも大事だけど、そんなの誰も聞かないわ、なぜならカラオケ大会だから、わたしたち大事なことを忘れていたわね。良太の案をリーダーとして採用します」
 良太の顔はぱっと花が咲いたように華やいだ。
「まじかよ……俺もやんの?」
 隆は仏頂面になった。
「別にいいじゃない、曲の間中踊ってるわけじゃないわ」
「アリエネェよ」
「良太君、ほんとにありがとう……真紀」
 真紀は急にスタジオ出ていく。
「何だあいつ?」
 隆がそう言うと椿は、
「様子みてくるわ」
 と、言って後を追いかけた。

 源二とマスターとユキエはスタジオの奥にパイプ椅子を広げて座っている。
「マイクテス――」
「源さん、まだ、練習もほとんどしてないし、荒いと思うけど」
 源二は下向きな顔を上げて手を跳ねるようにした。
「はよせぇ!」
 ユキエは笑顔で良太を見ている。
「あんちゃんがんばりんさい」
 マスターも恭介を心配そうに見ている。
 椿が振り返り頭を下げると、恭介はドラムスティックを合わせてカウントを始めた。
 隆と真紀は中央でサビの部分で向かい合うようにして顔だけを、源二たちのほうへむけ振り付けをしている。
 バンド初期の面影すらないほど、演奏は一人一人成長し、それがバンドとしてまとまりになり始めていた。
 源二は素直にそう認めた。真紀の歌声に関しても満点とはいかなくとも及第点にはたっしている。
 源二は無精髭を触りながら考えた。あの気の抜けたような真紀の顔つきが今は生気がみなぎるように輝いている。これが芸能人でいうオーラというものか、源二はそう感じた。 何か大きなことが起きる予兆、源二はこのスタジオの空気感にそれを感じていた。
 演奏が終わると真紀は怯えたように、言った。
「どうでしたか?」
 源二は黙っている。ユキエが源二の袖を引っ張るとゆっくりと目を開ける。
「悪くない」
 一言そう言った。
 真紀は唇を噛みしめて、
「ありがとうございます」
「まだまだ、豊漁祭のあとにね。あんちゃんたちようがんばったね」
 ユキエがそう言うと、良太は瞳を潤ませている。
 マスターは恭介と目を合わせ目礼した。
「一応形は整ったわね。本番まで時間もないし、個人練習はしばらく休みで、こっちを主に練習していくわよ、いいわねみんな?」
 椿が振り返ってそう言うと、各自快活な返事が返ってきた。 

 バンドの練習も終わり、夕食と入浴を済ませると椿が食器を洗い終わるのを見計らって真紀は、
「椿ちゃん、わたしと散歩しない?」
 と、言った。
「でも大丈夫?」
「こんな時間だし、これがあるしね」
 真紀はウィッグを揺らしながら言った。
「いいわよ別に、ちょっと待ってて」
 椿はそう言うと手を洗ってからタオルで拭う、コートを来て鞄を持って、ギターを背負った。
「ああ、そうだ。真紀が送ってあげる」
 二人は外に出る。遊歩道を歩いて噴水公園を越えて歩道から少し歩くと公衆電話があったので真紀はそちらに向かう。
「ねぇ真紀?」
「電話するの、マネージャーさんに、少し待っててね」
 真紀が中に入って受話器を上げたので仕方なく椿は待った。
 深呼吸をして真紀は暗記しているダイヤルを押していった。電話はすぐにつながった。
「もしもし舞ちゃん?」
「真紀さん!」
 叫ぶような声が受話器口から聞こえてきた。
 真紀は久しぶりの声に口元をゆるめた。
「舞ちゃん、そんな叫ばなくたって、聞こえてるよ」
「それどころじゃありません!」
「あのね、わたしもうすぐ帰るから、SAYAとして心の準備も歌手としての覚悟もできたと思ってる」
「もうすぐっていつですか、それじゃ遅いんです。真紀さんよく聞いてください! ばれてしまったんですよ。マスコミに」
「え? もう一度お願い」
「だから、SAYAと少年、隆君と言いましたよね。あの子と映っている写真が来週掲載されてしまいます」
「ウソ……」
「ウソではありません。こちらでも確認しました。今は事務所の力で押さえていますが、それもいつまでか……わかりません。真紀さん、住んでいる所に鉄製の階段ありませんか?」
 真紀は心臓が一瞬止まったような気がした。
「今からでも遅くはありません。すぐに記者会見を行って、先手を――」
 真紀は受話器を置いた。
 そしてくずおれる。
 椿は様子がおかしいことに気づいて公衆電話の中に入る。
「真紀! 何かあったの」
「椿ちゃんどうしよう、わたしどうしたらいい? 隆君といるところスクープされちゃった……」
 椿は真紀の腕を掴み抱え上げるようにして、それから優しく抱きしめた。
「大丈夫だから、真紀あたしはここにいる。どんなことがあっても助けてあげるから、あたし、あなたのこと、親友だと思ってるんだからね」
 真紀は大粒の涙を流した。
「ありがとう」
 結局椿は落ち着くまでその場所を動かず、辺りを警戒しながらフルハウスへと戻った。
 道すがら、ついにこのときがきてしまった。それも最悪な形で。そう思い、隆にはとりあえず内緒にするようにと言って、今日は家に帰らずフルハウスに泊まることにした。
 長い夜になりそうだった。椿はそう感じた。