私はずっと、シンデレラに憧れていた。
綺麗な心を持って、毎日を健気に過ごしていれば、いつかガラスの靴が手に入る。
そしたら王子様に出会って、私はお姫様になるの。
…そう、何の苦労もなく、汚れもないままにね。
勿論社会人にもなれば、王子様なんていないことくらい知っている。
でも、靴屋さんは何となく「特別」なの。新しいハイヒールを履いてみると、何となくシンデレラの気分が味わえる気がして。
営業周りで使い過ぎて、ヒールの壊れたパンプスの後継を試し履きしながら、そんなことを考える。
「他のデザインもお出ししましょうか?」
物思いに耽っていると、ふと聞こえた男性の声。
顔を上げると、同い年くらいの、イケメンの男性。しかも、好みのタイプ。でも、左手の薬指には指輪があった。
「いえ、これを頂きます。」
素知らぬ顔でそう答えると、その男性はまぶしい笑顔で会釈した。
やっぱり、王子様なんていない。
様々な苦労を経て、汚れてしまったシンデレラは、新しいパンプスのヒールを響かせて、また日常に繰り出していく。
舞踏会なんて待っていない。ガラスで出来た靴なんて、何の役にも立たない世界。
でも、そこにこそ「シンデレラ」の居場所がある。
灰をかぶっただけでお姫様になれるような、世間知らずのガキには、もう戻れないことくらい、よくわかっていた。
ガラスの靴
(役に立たないガラクタなんて必要ないの!)