ボクは散歩が好きだ。
一人でどこまででも歩いていける。

一番好きなのは、電車に乗って知らない町まで行き、知らない町をあてもなく歩くことだ。迷うこともあるけど、そんな時は必ずそのまま歩き続ける。そうすればほぼ間違いなくどこかしらの知っている町にたどり着く。そんな劇的な「出会い」も好きだ。だからあえて迷うように歩くこともある。

今日僕は、自宅のある高円寺から中央線で八王子、そこから乗り換えて横浜線で相模原に向かっている。以前この町は見知らぬ町だった。2年前に僕はこの地を訪れた。大好きな散歩をするために。そして今日はその時出会った大切な思い出と再会するためにここに来たのだ。

2年前、その日は朝のうち曇っていて天気予報も昼には雨が降ると言っていた。しかし僕は根拠もなく今日は晴れると信じ込んでいた。珍しく朝の目覚めが良かった事と、僕が根本的に根拠のない自信によく取り憑かれる性格を持っているためだろう。わかってはいるのだが、そう思うのは勝手。
「今日は晴れだ!」

電車に乗るために自宅を出、快速ではなく鈍行の列車に乗る。休日のためか、高尾山に行くのであろう登山客が目に付く。
みんな腰から頭の上までのびた大きなリュックを持っている。あの中には登山道具とか、ちょっとした食料とか入っているのだろうが、登山についてあまり興味はないため、中身についてもそんなに興味はなかった。最近みたテレビ番組で登山の愛好者の山を登る際の必需品の一つとして、あめ玉というのがあった。脳の回転を保ち、リラックスして歩けるため、高山病にいい云々というような理由だったと思う。僕は「きっとあのリュックの中にもあめ玉は入っているんだろうな」と思うと、それきり登山客には興味を失った。
途中の駅で快速に乗り継ぎ、八王子に到着した。この町も以前散歩したことがある。そんなに歩いてはいないが、少し大きめの川があって、川沿いの舗装もされていない道を延々と歩いた記憶がある。
横浜線に乗り換えるが、ここが始発駅のため、電車が発車するまで5分ほど時間がかかる。暇つぶしに携帯をいじり始める若者(僕だってじゅうぶん若いのだが)、手持ちぶさたに耐えられずスポーツ新聞を買うおじさん(5分くらい辛抱すればいいのに!)、とめどなく会話する二人の女子大学生(見た目で勝手に判断しました)。
僕はヒマになると勝手に人間観察をする癖がある。冷静に考えるとちょっと暗い人のような気もするのだが、これがとても面白くてやめられないのだ。そしてその中の一人を主人公に、自分で勝手に物語を作ってしまう。

いちばん角の席でいびきをかいて寝ている油で顔のテカテカした、そんなにつくりは悪くないおじさんは、昨日家に帰らず、八王子の会社で徹夜の作業をしていたのだ。初めて任された大きな取引、ところが昨日の晩、やっとの思いで取り交わした契約書の中に下手をすれば大損害を被るかも知れないミスを発見してしまったのだ。明日の日付で契約書を取り交わしているため、その日のうちに先方に渡してしまった契約書を取り返し、新しく作り直した契約書と交換すること、また訂正事項についての説明と陳謝をする必要があった。しかしあいにく先方がつかまらずしかも終電を逃し、今、不安とほんの少しの期待(先方が今回のミスに寛大でありますように)を抱えて家路についているのだろう。

くだらない妄想である。

いつのまにか電車は動き始めていた。物語の中に入っていたために、全く気がつかなかったし、今どこまで来たのかすらわからない。前の席のとめどなく会話する女子大生もさらにとめどなく会話を続けている。彼女たちもたぶん僕と同じく電車が発車したことに気づかなかったろうな、と思っていると、電車のドアが空いた。
「相模原」
とめどなく会話し続ける彼女たちが、とめどなく会話をしながらドアに向かう。
僕もなんとなくそこで降りることにした。
意外と小さなきっかけは尊重する方なのだ。(声はかけないって。)

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