『ねえ。選択することについて、キミはどう思う?』
微睡みの中で誰かが問いかける。
たぶん、夢なのだろう。
わずかに覚醒した意識が感じるのは、
高速道路を走る車の振動。
『いくつかの可能性の中からひとつの答えを選び出すこと、
もしきみがそんなふうに考えているなら、
その定義は決して間違ってはいないが
不完全で不正確で誤解を招きやすい
拙い考察だといわざるをえない。』
何度も何度も聞かされた言葉。それがいつだったのか、またこれが夢なのかさえ、
私にはわからない。
『況や、より良い選択が可能であるなどという傲慢な妄想を抱くのは
害悪であり邪悪でありむしろ最悪であるとすらいえる。
なぜなら人は
すべての選択肢とそれを選んだ未来の結末を知り得ることなど
不可能なのだから。』
そう。ささやかな科学の進歩が人に教えてくれたのは
確実な未来などどこにも存在しないというつまらない事実だけ。
まして、私なんかがどれほどの知恵を尽くそうと、
正しい未来の選択などできるはずもない。
ならばこのまま眠らせて欲しいと思う。
未来を選ばなければならないなら、私以外の誰かが選べばいい。
それが許されないというのなら、過ぎゆく時間に選択を任せ、この世界をただあるがままに。
『それ以前に、
人は選択しないことを選択する自由すら与えられていない。
存在しないと考える存在が自己矛盾であるように
この世界に存在するかぎりにおいて人は
選択せずに生きていくことは出来ない。
思考しないという思考がすなわち思考そのものであるのと同様
選択しないという選択もまた
選択肢のひとつでしかないのだから。』
車が荒っぽく進路を変えた。
高速道路を降りるのだ。
インターチェンジ。
分岐点。
『選択しないという未来を選んだ瞬間に
異なる選択によって生み出されたはずの数え切れないほどの未来は
消滅する。
選択を取り消して無かったことにしてやり直したとしても
その新たな選択によって生み出されたものは
新たな選択肢が紡ぐ新たな未来でしかない。
かつてきみが選べたはずの未来はもはやどこにも存在しない。
その未来で手にしたかもしれない大切なものも、出会えたかもしれない大切な人も
もはやない。』
存在しないもの。
胸を抉るのは失うことの恐怖か、
それとも後悔の疼痛か。
『そう、選択とは
ひとつの未来を選んでそれ以外の可能性を切り捨てることではない。
きみが選択することで
踏みにじり破壊し消滅させた
すべての世界と精神と生命の膨大な質量を背負うこと。
それがきみに与えられた唯一の選択肢。』
