プロ野球の現役ドラフト制度は、2022年にスタートした新しい選手移籍システムだ。出場機会に恵まれない選手に「新たなチャンス」を与えることを目的に導入されたが、回数を重ねるごとに、その“希望と残酷さ”の両面が浮き彫りになってきている。2025年現在ですでに4回目を迎え、多くのドラマが生まれる一方で、厳しい現実も数字として明確に現れている。
最大の成功例として語られるのが、DeNAから中日へ移籍した細川成也だ。移籍後に才能が完全開花し、3年連続20本塁打以上を記録。環境が変わったことで打撃の意識が大きく変わり、今では中日の中軸を担う存在にまで成長した。もう一人の象徴的存在が、ソフトバンクから阪神へ移籍した大竹耕太郎。3年間で32勝を挙げ、ローテーションの柱としてチームに欠かせない存在となった。
さらに、日本ハムで躍進した水谷瞬、巨人で活躍した田中瑛斗など、移籍をきっかけに評価を大きく上げた選手も確かに存在する。現役ドラフトが「人生を変えるきっかけ」になった成功例は、間違いなく実在している。
しかし、その一方で数字が示す現実は非常に厳しい。これまでに指名された選手は合計37人。そのうち、すでに19人が戦力外となっており、実に“半数以上”が1軍定着を果たせずにプロ野球の第一線から姿を消している。特に第1回で指名された12人の中で、現在も主力として活躍しているのは、細川と大竹のわずか2人だけという事実は、この制度の過酷さを象徴している。
球団別に見ても、その差は鮮明だ。中日は現役ドラフトで獲得した選手が現時点で全員生存しており、12球団で唯一“生存率100%”を維持している。一方で、ソフトバンクは放出した選手が全員新天地で生き残るという、極めて珍しい結果を出している。逆に、阪神やオリックスのように、送り出した選手が全員戦力外になってしまった球団も存在し、明暗がはっきりと分かれている。
私の見解として、現役ドラフトはもはや「救済制度」ではなく、「最後の実力試験」に近い存在になっていると感じている。移籍というチャンスは全員に平等に与えられるが、そのチャンスを“成果”に変えられるのは、ほんの一握りだ。野球の技術だけでなく、新しい環境に順応する力、コーチや戦術への適応力、そして何より折れないメンタルがなければ、この制度を勝ち抜くことはできない。
環境が変われば人生が変わる。だが、環境の変化は誰にとってもプラスになるわけではない。ある選手にとっては再出発の舞台となり、別の選手にとってはキャリアの終着点となる――それが現役ドラフトという制度の本質だ。希望と絶望が同時に存在する、極めてプロフェッショナルな世界なのである。
今後も現役ドラフトから新たなスターが生まれる可能性は十分にある。しかし同時に、毎年“静かに消えていく選手たち”が増えていく現実から目を背けてはいけない。ファンとして、私たちは表の華やかさだけでなく、その裏にある厳しさにも向き合う必要があるのではないだろうか。