2013年のJリーグを沸かせた一人の人物として、更にはベトナムに住んでいるJリーグファンとしては特に注目していたレコンビン。2014年シーズンの去就が注目されていましたが、7日、ついにコンサドーレ札幌ウェブサイトでも正式発表がありました。「東南アジア発のJリーガー」はとりあえず短い出番となってしまいました。日本のサッカー界でそれなりの注目度を集めたレコンビン現象、契約延長を巡ってはどんなベトナムサッカーの背景があったのでしょうか?

 実はベトナムのメディアを追っていた自分としては第一報はベトナム現地メディア(その際のツイッターはこちら)。昨年12月28日午後過ぎから「正式にレコンビンはソンラム・ゲアンに残る」と速報。その後ベトナム各メディアが伝えていきました。その前々日、ベトナムのサッカー誌ウェブサイトではレコンビンへのインタビューが伝えられており、そこでは「札幌が提示した24万ドルは、ソンラム・ゲアン(ビン所属)クラブとの契約上でも、来年日本でのプレーを許す条件を満たしてる。後は自分の決断」と結論近しとのニュアンス、札幌行き決断とも取れそうなコメントをしていたので、自分もとてもビックリしました。その後、日本側は反応無しだなあと思っていたのですが、まあ年末年始でしたし、「小野伸二6月加入!」と合わせて発表することでサポーターを安心させたかったのかもしれません。

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人気がないベトナム国内サッカーですが、タインホアやゲアン、ハイフォンといった地方のチームの方が
熱心なサポーターが多い。Vリーグ観戦記はこちらのブログ記事をどうぞ。

 レコンビンが所属しているSongLamNgheAn(ソンラム・ゲアン)というチーム、国内リーグが人気がなく∨リーグの中では熱狂的なサポーターが多いクラブとして有名です。わかりやすく言えばベトナムの「浦和レッズ」でしょうか。ホームはもちろんのこと、アウェイにもサポーターが駆けつける熱心ぶりは他チームを凌駕しています。2013シーズン最終盤では優勝争いをしているチームが負けるよう、その相手チームを応援にわざわざ応援に来るサポーターもいた程でした。その意味ではベトナムリーグの他のチームよりもサポーターの「ゲアンに残ってくれ」という思いも強く、チームに対する圧力もかなりあるのでしょう。(っていうか「優勝争いをしている時に、いきなり日本に行くなよ」と思ったサポーターも多いはず。)

 しかも、ゲアン省はレコンビンの故郷でもあり、札幌に行く直前までの昨季も13得点で得点王と僅か1点差、途中移籍がなければまず得点王は間違いなしという大活躍でした。確かに「ベトナムの英雄」なんでしょうが、実はその昨季の活躍の前の一時期は、ベトナム代表メンバーにも呼ばれない、そして所属していたハノイFCはオーナーが経営上の問題で逮捕されるという中、何とチーム自体が消滅してしまうという悲劇にも見まわれ、「いよいよレコンビン時代も・・・」という時期もあった程です。ソンラム・ゲアンでの機会には彼自身も救われたと感じるところもあったでしょう。

 またソンラム・ゲアンのチーム事情としても、主力選手が次々と抜け、来年はどう戦っていくんだという体制が全くできていないと不安が渦巻いていました。ちょうど12月28日付けの地元サッカー新聞でも「いつもは良い外国人助っ人を連れてくるソンラム・ゲアンが、まだ新戦力を決められていないとニュースが年末にあったばかりです。並行してレコンビンのニュースが出ましたので、実際の最大の補強は、このレコンビン引き止め成功ということだったのでしょう。何と言ってももう開幕は今週土曜日ですからねえ。レコンビン残留の会見の中では「レコンビンを売ってしまうなら、オレはその場で辞める」と言っていたそうです。

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ソンラム・ゲアンの新戦力不足を伝える昨年12月28日BongDa紙記事。
「困ったなー」という顔をするHuuThang監督

 レコンビン自身が折に触れ口にする「家族と離れるのは辛い」という理由は確かに大きいものでしょう。よく伝えられている通り、彼の奥さんは(ベトナムでは)有名な歌手のThuyTienさん、日本に一緒に行く、とは簡単には行かないのです。ただその家庭の事情に加え、これら諸々のベトナム国内(サッカー)背景もあっての今回の決断となったのかと推測します。ネット上では賛否両論ですが、思ったより少ないレスからは「ベトナムに残ったのか・・・」という気が抜けたような感じも伝わってきます。やっぱり世界で活躍してほしいと思った人も少なくないはずです。

 ただ、彼のどのコメントからもにじみ出るのは「日本行きは本当に良いチャンスだと思う、ただ・・・」という一言。明らかに悩んだ末の決断であることは確かのようです。ここからすると、レコンビン自身の談にもあるように「今の契約期間が終わったらまた考える」というのはあるかもしれません。1月11日に開幕するベトナムプロサッカーリーグの∨リーグは、8月24日でリーグ戦が終了、そこでならソンラム・ゲアンもレコンビンをフリーにするんじゃないでしょうか。実がこれが隠れたコンサドーレとのゲアンの間の「落としどころ」だったのでは?そして、そこでコンサドーレは高い移籍金を払わずに、ゲアンにも2014シーズンへの貢献をしきった後に再度日本へチャレンジ、と行ってほしいなあというのが、ベトナムサッカー全体の将来を考え、またサッカーでも日越交流の本当に良い機会だと思っていた、筆者の偽らざる気持ちです。

【最後ひとりごと】
 落ち着いて書いてるつもりですが、かなり今回の展開は残念です。これだけ日本でも盛り上がったレコンビン現象だけに、うーん、それにしても残念。(っていうか、個人的には湘南ベルマーレとレコンビンの対決を平塚でも観たかったぁー!しょうがないからベトナムでレコンビン観るかな(苦笑))でも、確かに地元選手が残ってくれるのを喜ぶ気持ちもわかるなあ(我らがベルマレーもキャプテン永木が来季も残ってくれるのを聞いて喜んだものです)。複雑ですが、でもやっぱり日本でプレーして欲しかったなあ。