さて久しく怠けていたブログですが、ベトナムの社会経済情勢という切り口で再開していきます。今回は本格的に書いてみましょう(軽いサッカーネタは引き続きこちらまで・・・)。
 
 8月7日に行われたホーチミン市共産党委員会臨時中央執行委員会の会議で発表された、ベトナムにおける行政制度に革命を与えるか!?というホーチミン市の新しい「都市型行政」のあり方です。8月8日TuoiTre紙の記事を読み砕きながら解説していきます。

 Le Thanh Hai共産党書記は、この取組が2006、07年頃から議論されてきているものとし、新しい「都市型行政」のあり方が「ベトナム共産党の民主集中制は維持しつつも、行政各機関のトップの責任を明確にしていく」ものと説明しています。

 具体的には以下の図(上記新聞記事より拝借、とりあえず越語のままでスイマセン!)にも示します通り、ホーチミン市の中を、市直轄中心部(既に都市化したエリア、現在の同市中心部ですね)はキープしつつ、現在都市化が進んでいるエリアは「東西南北」4つの「市の中の(ミニ)市」に区分けし、より自立した行政経営をしていくというもの。ホーチミン市直属の13区のトップは区人民委員会主席(もしくは区長)、4つの新しいミニ市のトップは主席もしくは「市長」と呼ばれ、ホーチミン市副委員長と同じ序列になります。

 
ハノイで考えたこと-CCHC HCM 75%


 4つのミニ市はあくまでホーチミン市人民委員会に属するが、より高い自主権限を持ち、それ以下の坊(都市における最も小さい行政単位)は従来と異なり「ミニ市政府の出先機関」と位置づけられるとのことです。また将来は設置予定なものの、2016年に改めて国会、市人民評議会議員が選出されるまでは、臨時措置としてミニ市の人民評議会は設置しないこととしています。

 ホーチミン市国会議員団副代表でもあるTranDuLich氏のTuoiTre紙での解説によるとポイントは4つ。
1.市全体の8割が都市化しつつある同市の現状を踏まえ、既存の都市部13区を中心とした「都市連合(直訳は都市チェーン)」的行政を目指す。
2.行政構造がこれまでの3層構造(市/省-郡-坊/社)から、都市部においては2層構造になり、より自立した行政運営を行う。
3.それぞれの行政レベルで同じ事業を行ったりする重複、無駄をなくすため、役割分担、役割の委任を明確にし、双方が共に行う事業は最小限とする。
4.専門部局(注:中央省庁の各部局の出先的役割も果たしている)の役割を明確にし、市人民委員会の会議や事務を減らし、国家行政管理の専門機関とする。

 本日(11日)TuoiTre紙にもある通り、今後は市の人民評議会、祖国戦線、そして市民への公聴会も開かれていき、新しい行政のあり方について広い支持を求めていくとのことです。

【考えたこと】
 従来からベトナムの行政における問題点として従来の「(国も含めた)4層構造:国-市/省-郡-坊/社」が合理的かということは議論となっていました。郡の存在意義とは何なのか、人口1万人程度の最小単位(坊/社)が適当なのかなど、行政効率を考える上で、特に変化の早い都市化に対応できる行政のあり方として議論がありました。それへの1つの答え(候補)が今回のホーチミン市のトライアルなのでしょう。「都市型行政」(直訳では「都市政権」になります)のあり方とは如何にあるべきか?「区長、市長」などという呼称も含めて、相当海外の事例も参考にしていることは間違いないと思います(日本の事例も入っていると良いのですが・・・)。

 プラス、もう一つの見逃せない点としては、上記TranDuLich氏が指摘したポイントの4つ目、各専門部局の職務範囲のあり方です。従来、これら部局(ベトナム語では「Sở」)は地方政府(人民委員会)にも、中央省庁にも属する「二重の従属」が問題となり、どちらを向いて仕事をしていくべきなのかが課題、そして問題となっていました。今回上記指摘を見るとその役割は「国家管理=中央省庁出先的役割」へ注力されていくことになり、地方政府から与えられる仕事とは少し距離を置く方向であると解説されています。地方政府の行政能力がそれほど高くない中、この点は波乱の予感という気がしてなりません。

 いずれにせよ、形式的には中央政府への提案とされていますが、LeThanhHai党書記自身が共産党政治局員であることから、ベトナム共産党の上層部は了承をしてのことなのでしょう。10日の市人民評議会では既に「市民にどういう利があるのかクリアでない」など議論が始まっていますが、改革の行方は注目されます。