また久々となったドラマシリーズ。今回は今まさに中国の若者の間で話題沸騰のドラマ「裸婚時代」を見てみました。

北京で考えたこと
この苦悩の表情がストーリーを象徴してます。
俳優の文章(右)は八〇後ドラマには欠かせない存在。

「裸婚」とは?八〇後の異なる側面
 時代が変わり、結婚観も大きく変わる中国の若い世代、特に1980年代生まれ(「八〇後」と呼ばれます)は今まさに結婚し、家庭を築こうかという時に差し掛かっています。これまで、中国の(都市部の)若者で結婚と言えば、「家も車も持っていないとダメ」ということで、若い男、そしてその両親たちが結婚を前にとにかく家、マンションを購入するといったことが「不動産バブルの文化的原因」なんていわれることすらありました。その住宅購入から始まる悲劇を描いたドラマ「蜗居」に関してはこのドラマシリーズ第1回で書きました(「「蝸居」と中国不動産(バブル?)」)。

 こういった流れへのアンチテーゼとも言うべき現象が「裸婚」です。つまり、「家も、車も、貯金も、結婚式も、結婚指輪も無い」で結婚しちゃうことを、何もないので「裸婚」というのです。まあ「愛さえあればお金なんて!」ということなわけですが、でも世の中そうは甘くないよ・・・っていうのがこの裸婚時代を貫くテーマです。「消費する八〇後」など明るい中国経済の象徴のようにももてはやされる八〇後ですが、当然ながら成功者は大多数ではなく、大多数である苦労する若者はこういう風に奮闘している、そんな様子をリアルに描いています。

踊る八〇後から苦悩の八〇後へ…リアルになる中国ドラマ
 以前のブログエントリー「八〇後」を考える「奮闘」と「婚姻保衛戦」の恋愛・結婚模様」でも取り上げたドラマ「奮闘」も同じく八〇後を語るドラマとして大人気となりましたが、自分の周りの多くの八〇後から聞かれた感想は「面白かったけど、現実離れし過ぎ、うちらの世代の典型では全然ない」というもの。20代の駆け出しデザイナーが突然億万長者になっちゃうようなストーリー展開もあり、まあ確かにそりゃあそうかなあとも。

 それにひきかえ、この裸婚時代の主人公たちはかなり地に足のついた感じ。前半こそコメディータッチの楽しい恋愛・新婚時代を描いていますが、後半はまさに上に貼りました写真の男性主人公(「文章」という俳優さん、「奮闘」、「蜗居」にも出ていましたね)の苦悩の表情が象徴する辛いエピソードの連続です。 苦悩する八〇後、というタッチが多くの同世代の共感を得ているところは、現在「中国経済はバラ色なんでしょ?」という日本でのイメージとは相当離れるかもしれません。両親世代との葛藤の中での子育てや、結婚、出産という局面で中国人がどういう問題、手続きで苦労しているのかも細かく描いていて、現代中国社会の問題理解にもとても役立ちます。例えば、公立病院が混み過ぎていて出産できず、私立病院(「貴族病院」)では費用が莫大な費用がかかるため、それを工面するために…、などなど。

北京で考えたこと
新浪微博特設ページ、まさにネット世代でもある八〇後からのコメントが続々

渦巻く同世代八〇後の共感
 さっきまで夜ごはんを食べに行った日本ラーメン屋さんでも、近くの2つの席からこのドラマの話題をする中国人客(いかにも八〇後世代という様子)の声が聞こえました。一昨日には中国人同僚とも、主人公の女性(童佳倩)の結婚への要求が高過ぎるかどうか議論したりと、本当に多くの同世代がこのドラマを見ているようです。新浪微博でもこのドラマの特設ページを設けていますが、150万近くのコメントを集め、6月11日に江蘇TVで初放映されて1か月近く経つ今も、コメントは次々と。その多くはドラマに共感しつつも、「7割の女性はやっぱり裸婚は嫌」なんていう現実的なネット世論調査も載せられています。

 マクロで見れば発展著しい中国経済。でもミクロの視点で見れば高騰する物価に苦労し、成功する同世代と自らを比較して苦悩するそんな若者も多いという、良く考えてみれば当たり前のそんな現実を、このドラマは教えてくれます。リアルな八〇後理解には、とてもお勧めの面白いドラマでした。