先日発表された中国の3月期CPI(消費者物価指数)も前年同月比で5.4%増、特に食品は11.7%増と、3月の増加分の65%程を食品のインフレが貢献しているという結果、物価上昇を引っ張る形となってしまっています。その食料品の中心となる穀物価格を巡る動き、中国の「財経」誌4月4日号の記事から、その最新事情(特にトウモロコシ)とより大きな背景を見てみましょう。ここでは止まらない食糧価格上昇と、中国政府のマクロ・ミクロ経済コントロール能力(の弱体化)、それを中国の食糧備蓄体制の変化と課題という点から見ているところが興味深いです。(以下、財経誌記事前後篇の前篇要約です。)

Lots of corn in China
軒先でトウモロコシを乾燥させる姿は多くの中国農村で見られる景色


 昨年11月にトウモロコシが市場に出回りだして以来、その価格は上昇し続けている。中華食糧ネットワークデータセンターの資料によれば、2010年10月7日の全国におけるトウモロコシの買取価格平均は1854元/トン、それが3月17日には2014元/トンとなっている。価格上昇により栽培意欲は上がり、吉林、遼寧、そして気候的には両省より向かない黒龍江省でも播種面積7300万ムーから7780万ムーにと増えている。

 それでも価格が上昇するのは消費サイドからの理由による。その中でもエタノールや澱粉への加工(中文:「玉米深加工」)業者が価格上昇の大きな原因と指摘されている。2010年のトウモロコシ総生産量は1.6億トン、その内飼料用が1.05憶トン、「深加工」用が5000万トン。トウモロコシの8割は飼料用とはいえ、その増加量としては500万トンとそれ程ではない。一方、「深加工」は2008年の3500万トンから5000万トンへと増加している。企業は原料となるトウモロコシを争って確保しており、その分政府の食糧備蓄用買付が十分にできなくなるという問題が起きている。以前は華南の企業が主に買っていたが、南へ輸送する際の国家の補助が今年からなくなって、買付も主に北の企業によってなされている。

北京で考えたこと
中国に限らないが、トウモロコシのかなりの部分は彼らの食料へ・・・。


 これ程旺盛な「深加工」企業の攻勢は、これまでの政府による育成政策がきっかけとなっている。当初、過剰な食糧備蓄の消化のために燃料用エタノール精算が奨励され、2001年以後、国は50億元を投じて4つのエタノール燃料工場を建設した。その後も1000元/tのエタノール燃料への補助金や税制優遇策などが開始され、2010年には500万トンの原料トウモロコシを必要とするまでになった。2007年からはその過剰な消費を抑制する各種の行政指導も出されているが、そういった生産・過剰投資抑制への呼び掛けの一方、加工企業は地方税収への貢献大、利害関係からも調整は進んでいない。

 陳錫文・中共中央農村工作領導小組副組長、弁公室主任も「深加工は多少は当然必要だ。しかし、食糧事情がひっ迫する中、これ以上深加工を増やしてはいけない。地方政府は中央の政策に従い、増加を抑えなければ!」と主張する。政府も国家備蓄を増やす計画(中文:「補空」)を行おうとするが、民間資本の素早い動き(トウモロコシ買占め)の前にスピードが足りず、結局は買付ができていない。以前は政府の備蓄放出(による価格の安定化=引き下げ)を恐れてそれほど大胆には行われなかった民間による買占め、価格のつり上げも、今はより大胆に行われている。彼らも備蓄が少なくなってきていることを見透かしているのだ。

 従来の食糧備蓄制度は中央政府、省、市、県のそれぞれによる管理となっているが、赤字の増加、備蓄情報の隠ぺい、市場が変動した際に調整ができていないなど、食糧価格コントロールの機能が失われてきている。当時の朱鎔基総理は中央による垂直型の管理体制を確立した。しかし、2010年から華糧集団、中紡集団、中糧集団の国営企業が政策的買付備蓄業務に参入して、かつての買付主体の単一状態から多元化がなされてきた。従来の中儲糧(正式名称「中国儲備糧食管理総公司」))と共にこの4社が2010年夏に小麦の価格を吊り上げたという問題が表面化し、同時期にそれぞれの会社が政府買付業者から、より経営マインドを持った「食糧企業」へと転化していくにつれて、従来の役割であった食糧生産・価格コントロールの力は失われていった。(要約以上)

【考えたこと】
 この記事を読んで考えされられるのは、現在の物価高をコントロール手段が、旧来の中国的社会主義計画経済体制では多かったのが、今では普通の市場主義経済国家に近づくにつれ、持てるカードが減ってきているのかなという点です。自由化していない品目もまだ多くあるものの、政府がこれほど気を使っている食糧生産、価格でも政府のマクロ、そしてミクロ・コントロールの力もこれだけ弱くなっているという財経誌の指摘はとても興味深いです。コントロールする仕組みはあるものの、それが市場経済化に沿って効果を失い始めているのかもしれません。

 一方、インフレは常に社会不安も引き起こしかねない中国政府の最重要関心事の一つ。金融政策はもちろんですが、いざとなれば、先日も紹介した流通における補助などによる価格抑制再策などのような、経済活動に直接介入するようなかなり思い切ったことをやることも考えられます。インフレ云々と言っているうちは経済問題ですが、それを抑制する手段も含めた制度に踏み込んだ議論になれば、より改革に積極的な派閥と、保守的な派閥の駆け引きにもなりかねないため、このような食糧備蓄体制なんかも政治的な議論になっても不思議ではありません、ちょっと飛躍しますが。

 「エタノール生産企業へ行政指導は行っている」という公式見解と地方での企業・地方政府の実体経済の動きの違いは、「強面で強力な中央政府」という一見した姿とは違う、面従腹背の地方政府とせめぎ合う、複雑な中央・地方関係を表しています。特に来年に中央政治リーダーが共産党大会と共に交替するのを前に、今年は地方政府リーダーが交替を迎える時期で、地方ではより業績(往々にしてGDP)確保重視の政策が行われそうです。そんな中で、経済過熱を抑えたい中央政府と、目先の経済成長を確保したい地方政府の目に見えない争いは激しくなりそうです。

(ちなみにですが、良く見るとこの中儲糧のHPが財経誌の記事をほぼ丸ごとコピーして(引用はしてませんが、ダメだなあ)載せています。これはどういう意味なのでしょうか、「オレら備蓄企業の苦労を知ってくれ!」というアピールなのでしょうか・・・!?)