せっかくハノイに帰ったので、一つくらいはベトナム農業のことを。ベトナムは言わずと知れた、かどうかはわかりませんが、お米の大産地です。古くからベトナムを知る方は1980年代にはハノイの近くでも飢餓に近い状態があった状態から、今の米輸出の状況を知ると驚くそうですが、総生産量は2000万トン以上(精米ベース)、現在では年間54-500万トン(同左)の輸出量で、近年でも常に世界第2,3位といった輸出国です(首位はタイ)。(現在の5カ年計画では輸出量は、国内での需要を満たしきった後の400万トンを目安にしています。)2・3毛作の普及、品種改良、肥料や農薬の普及もありますが、もっとも大きいのはドイモイ以降の農家のやる気の変化と言われるところは、中国の改革開放以降の農家と類似するところがあります。

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 帰省したハノイ周辺農家ではちょうど今頃上の写真のように、次の5月米に向けた田植えをしていましたが、2月20日付TuoiTre紙によると、最近(主に南と思われます)収穫されたところの冬春米はまた豊作だったそうで、これはまた良い知らせなのですが、これが単純には米作農家の収入増加につながらない様子を、インタビュー記事で報じています。インタビューを受けているのはVo Tong Xuan教授、元アンザン大学学長で、ベトナムでも著名な農学者です。

http://en.wikipedia.org/wiki/Vo_Tong_Xuan

 同氏によれば、今年はタイなど他国が天災等で不作な中、ベトナムのコメ生産は順調で、輸入需要も高いところ、情勢は明るいとしている。しかし、ベトナム食糧協会(VFA)が統一的に管理する輸出との絡みでは、それが即座に農家の収入増につながるかは不明との見解を示している。VFAは大小約100企業をメンバーとするコメの輸出の一括管理を行っている組織で、同参加の企業が輸出量の98%を占めている。更に2大総公司(国営、VINAFOOD1及び同2)が輸出契約の多くを占めている。ともかくも、VFAのコメ輸出に果たす役割は大変大きい。

(以上、及び以下輸出体制に関する記述は以下を参照しました)
http://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_syokuryo/h18/pdf/h18_asia_02.pdf

 輸出までの多くのステップを経る中で、多くの中間業者が利益を抑えてしまうことが課題とされています。全体のバリューチェーンの中で作業量の60%を農民が担い、中間業者は10%程度の作業にしかならないのにもかかわらず、利益の70%は業者が握る形が続いていると言う。政府は農民が少なくとも3割の利益を得るようにするよう目標にしているが、それでも農民の積極性を引き出すには足りるかどうかと言うのがXuan教授の見方。

 長い目で見れば生産者側の組織化が重要と言うのが教授の認識。また、生産過程とより結び付いたポストハーベスト、加工技術が必要ともしている。更には、そもそものコメ輸出における上述のような体制も、より透明性の高いものにしていかなければならないと主張しています。

 更にその下にはそのベトナム食糧協会主席へのインタビュー記事もあり、この冬春米から同協会が「コメ買取価格保険:Bao hiem gia lua」を始めたことを紹介しています。これは、業者による買取が一定以下(この冬春米の場合は4000ドン/キロ)以下になった場合には、同協会からし同を行いその保険価格で買い取るようにするというもの。これにより農民がコメを買い叩かれることがなくなり、コストを引いて約40%の利益を確保できるとしており、Hau Giang省をまずはパイロットとして始めるそうです。同主席は自信満々ですが、この買取価格保険制度、成功するのかは乞うご期待と言ったところでしょうか。