英競売大手クリスティーズ(Christie's)は29日、仏ファッション界の巨匠、故イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)氏と長年のパートナー、ピエール・ベルジェ(Pierre Berge)氏が50年以上の時をかけて収集したアート・コレクションの競売を3月に行う。クリスティーズ側は専門家らが「世紀のオークション」と呼ぶ今回の競売に、大きな期待を込めている。
オークションは2月23日から3日間かけて行われ、落札総額は5億ユーロ(約575億円)に上るとみる者もいる。
「世界中の誰でも、美術に興味がある人間ならば、このオークションに興味を持たないはずがない」と、クリスティーズ・パリ支店のフランソワ・ドリクルス(Francois de Ricqles)副社長は29日、AFPに語った。
今回出品されるコレクションには、キュビズム時代のパブロ・ピカソ(Pablo Picasso)の絵画や初公開となるコンスタンティン・ブランクーシ(Constantin Brancusi)の彫刻、アイリーン・グレイ(Eileen Gray)のデザイン家具などのほか、古代の彫像や16世紀の銀製品、中国・清朝の離宮から盗まれたとされる銅像など多彩な美術品が含まれる。
クリスティーズ・ヨーロッパのユッシ・ピルカネン(Jussi Pylkanen)社長は、ロンドンで29日に行った発表会見で「どれも最高の品ばかりで、美術館に所蔵できる価値を持つ物もある」と語った。出品数も膨大で、パリ支店のドリクルス副社長は「オークション史上でも記念碑的だ」と表現した。
■目録1800ページ、巨匠作品が並ぶ世紀のオークション
サンローラン氏の公私に渡る長年のパートナーであるベルジェ氏は、サンローラン氏が6月に71歳で死去した後、733点に及ぶ収集品の出品を決意した。国立ギャラリーを擁するパリのグラン・パレ(Grand Palais )で行われる今回のオークションでは、3人の競売人がシフト体制でオークションを取り仕切り、5巻1800ページ・重量10キロにおよぶ目録、電話回線100回線、バイヤー席900席が用意される。
出品される作品には、アンリ・ド・トゥールーズ・ロートレック(Henri de Toulouse-Lautrec)、アンリ・マチス(Henri Matisse)、フェルナン・レジェ(Fernand Leger)の名作や、映画監督オットー・プレミンジャー(Otto Preminge)が所有していたこともあるピエト・モンドリアン(Piet Mondrian)の作品などが並ぶ。
レジェが自らの作品と交換した19世紀初頭作のブランクーシの彫像は、落札予想価格1500万~2000万ユーロ(約17億~23億円)で今回初めて公に登場する。同じくマルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)のダダ期の作品も、クリスティーズ初登場となる。アイルランド人建築家兼デザイナー、グレイが手がけた茶の革製の肘掛けいす「ドラゴンズ」は、200~300万ユーロ(約2億3000万~3億4500万での落札が予想される。
クリスティーズでは世界的な経済危機の中、今回は前年9月の査定と比べ、キュビズム期のピカソなど一部では評価額を下げたが、多くの作品では前回同様の評価額をつけている。
また、清朝時代の離宮・円明園(Yuanmingyuan)に設置されていたといわれる2匹の動物のブロンズ頭像は、第2次アヘン戦争(Opium War)で混乱していた1860年に盗まれたものだとして、中国人の弁護士グループがオークション差し止めの訴えを起こしている。しかし、クリスティーズ側は「差し止めの要求は受けていない」として、この合計1000万ユーロ(約11億円)の銅像を予定通り出品する。