町に伝わる恐ろしい「大蛇伝説」
今年の夏も記録的な豪雨が日本を襲っている。特に東北・北陸地方では短時間に大雨を引き起こす「線状降水帯」が発生。各地で河川の氾濫や土砂災害などによる甚大な被害が相次いだ。【写真】入っていたら要注意…!大雨・台風に弱い「水害地名」一覧 秋田県の西にある五城目町もそのひとつ。今年8月9日からの大雨で内川川と富津内川が氾濫し、浸水被害は186棟に及んだ。依然としてがれきや流木の撤去作業が続くこの地で、長年農家を営む80代の男性はこう話してくれた。
「今回の水害は、生きてきた中で一番被害が大きいと思います。
けれど、いつかこんな大洪水が起こるとは予感していました。
町の東、馬場目地域に『蛇喰』という土地があります。
私の父から聞いたのですが、そこには水害にまつわる恐ろしい言い伝えがあるのです」
男性が教えてくれた逸話はこうだ。
ずっと昔、その奥地に土石流によってできたせき止め湖があった。
そこに一匹の蛇が住み着き、日に日に大きくなっていった。大蛇となった蛇は湖の狭さに嫌気がさし、住処を八郎潟に移すことを決めたという。
そしてある日、大雨によって湖が溢れると、蛇は水の勢いと共に周囲の木々をなぎ倒しながら進み、町を飲み込むほどの大洪水を起こした。
人々はこれを「蛇に食われた」と話し、一帯を「蛇喰」と呼ぶようになったという――。
水とは無関係な単語にご用心
モンスーン気候帯に属する日本は、季節によりまとまった雨が降りやすい条件下にある国だ。加えて日本の河川は水源から河口までの距離が短く、それでいて標高差もあるため、勾配が急となっている。
そんな環境だからこそ、台風や大雨によって壊滅してしまう可能性がある「危ない場所」が全国各地に存在する。
株式会社総合防災ソリューション危機管理業務部主任研究員の三宅丈也氏が解説する。 「日本には約7万種類の地名があると言われています。その中には過去の自然災害や地形に由来するものがあり、そうした地名は、繰り返される災厄への戒め、警告であり、先人の教えと言えます。
台風や大雨などによる水害で危ない地名として素人目にも分かりやすいのは、『水』や『さんずい』のある漢字が付くものでしょう。
これらは、川の近くや低地、湿地帯を表しています。しかし、本当に警戒すべきは、水とは一見無関係な単語を使っている地名なのです」
「蛇喰」のように「蛇」という単語が入った地名は、過去、大きな水害が起こった土地が多い。昔から洪水や土砂崩れは大蛇の仕業だと考えられていたからだ。
東京・目黒区にもかつて「蛇崩」という地名が、現在の祐天寺・上目黒地域の一部に存在した