https://www.epochtimes.jp/p/2019/10/47983.html
左翼を論破する方法(前編)

日本の保守派には、頭の切れる論客らしい論客はあまりいない。
しかし、英語圏には左翼を次々論破することで知られる論客が何人かいる。
その代表格が、ジョーダン・ピーターソン(Jordan Peterson)とベン・シャピーロ(Ben Shapiro)である。
ジョーダン・ピーターソンは1962年生まれで、現在トロント大学の心理学の教授をしている。
臨床診療の経験も豊富で、過去にはハーバード大学で教鞭をとっていたこともある。
彼は、現代の左傾化した学問に対して、厳しい批判を繰り返していることで知られる。
中でも、ジェンダー代名詞(男性、女性形以外の代名詞)の使用を強制する条例を批判したことは有名である。
ラディカル・フェミニズムは、日本だけでなく北米でも猛威を振るっている(むしろ、日本は欧米を追従しているに過ぎない)。
それに対するピーターソンの分析は的確である。
フェミニズムは能力(competence)を尺度にした評価を全て権力(power)の問題にすり替える。
そして、能力が不足しているゆえに達せられないことを全て家父長制(patriarchy)による抑圧のせいにして騒ぎ立てることで、自らの無理な要求を通す。
フェミニズムは人間を個人として尊重しておらず、男性・女性という集団の一員としてしか見ない。
だから、個々人がどういう生き方をしたいかを無視して、結果の平等を押し付ける。
これがピーターソンの見立てである。現代のフェミニズム思想の核心をついている分析と言えよう。
おそらく、ピーターソンのことを知っている日本の読者はほとんどいないだろう。
しかし、彼がこれほど知られていない日本は、むしろ例外的な国である。2018年1月に出版された彼の著書“12 Rules for Life: An antidote to chaos”(人生の12のルール: 混乱を防ぐ方法)は、英語圏で300万部を超えるベストセラーになっている。
また、韓国語訳も既に出版されており、20万部を売り上げている。
この彼の著書は、題名から想像される通り、様々な人生訓を語る本だが、随所に左翼批判が織り交ぜられている。
以下に、その一部(翻訳)を紹介しよう。
「我々の社会は、自らを支える文化の解体が目的であることを自覚し公言している組織や教育者に対してなぜ公的資金を投じるのか、私には理解できない。」
「極左活動家が大学の授業を偽装して、政治活動のために国から資金援助を受けているのは明らかだが、もし極右活動家がこれと同じことをしたら、北米中の進歩主義者たちは何も聞こえなくなるぐらい大騒ぎするだろう。」
ピーターソンの論客としての能力が最も際立ったのは、上述の著書出版後、英国のチャンネル4に出演したときである。
司会のキャシー・ニューマンは左翼思想の持ち主で、番組の冒頭からピーターソンに敵意むき出しの質問を続けていた。
その流れで、ニューマンは「なぜ、あなたの自由な言論の権利は、トランスジェンダーが気分を害されない権利に勝るのか」と問い詰めた。
これに対し、ピーターソンは次のように切り返した。
「思考するためには相手の気分を害するリスクを冒さなければならないからだ。
あなただって真理の追求のために、今ここで私の気分を害するリスクを進んで冒しているだろう。
なぜ、あなたにその権利があるのか。
私はとても不快だったけれども。でも、それがあなたの仕事だし、あなたのやるべきことだ。
あなたは私の気分を害するリスクを冒して、言論の自由を行使している。
それで問題ない。
私に構わずどんどんやればいい。」
絶句して暫く口がきけない状態に陥ったニューマンに対し、
ピーターソンは「一本取ったね」と一言。
ニューマンも負けを認めざるを得なかった。
もう一人の論客はベン・シャピーロである。
彼は1984年生まれで、16歳でUCLAに入学、20歳でハーバード・ロースクールに入学した天才である。弁護士資格も有しているが、17歳からコラムニストとして活動しており、現在はデイリー・ワイヤーというインターネット・メディアを立ち上げ、自ら「ベン・シャピーロ・ショー」のホストを務めている。
敬虔なユダヤ教徒で、常にヤームルカ(皿状の帽子)を着用していることでも知られる。
彼のモットーは“Facts don't care about your feelings”(感情で事実は変えられない)である。
左翼運動は、自分の感情が全てで、気に入らない事実は捻じ曲げたり、意図的に無視したりする。
彼はそういう左翼の姿勢を厳しく批判する論客の一人である。
ベン・シャピーロは米国全土で講演活動もしているが、日本と同じように米国でも保守系論客の講演を左翼活動家が妨害することが常態化している。
そのため、講演が中止になる、あるいは厳戒体制下での講演になることも少なくない。
2018年10月、厳しい警備の中、南カリフォルニア大学で行われた彼の講演内容は興味深い。
彼は権利を“negative right”(否定の権利)と“positive right”(肯定の権利)に分類する。
そして、前者は政府に干渉されず自由に生きる権利、後者は他人を自分のために奉仕させる権利と定義する。米国憲法が保障している権利は前者、左翼が求めるものは後者であると彼は整理する。
彼は、講演の大半の時間を質疑応答に充てる。
質問の順番は反対意見を優先させる。そこで、多くの左翼がこれまでシャピーロに論戦を挑んでいるが、彼はそれをことごとく論破してみせている。
“Ben Shapiro destroys snowflake” (ベン・シャピーロが雑魚を粉砕)で動画検索をすると、そのシーンが多数見つかるので、英語ができる人は是非観てほしい。
そうした論客ぶりから、彼は米国保守層の若者に絶大な人気を誇っており、2019年1月にBetOnlineが発表した2020年の大統領戦勝者のオッズにおいて、共和党の中ではトランプ大統領、ペンス副大統領に次ぐ3番手につけた。
2024年の大統領選の有力候補になる可能性もある。
彼はこれまで何冊かの本を書いているが、そのうちの一つに
“How to Debate Leftists and Destroy Them: 11 Rules for Winning the Argument”
(左翼を論破する方法: 議論に勝つ11のルール)がある。
Kindleで出版された22ページの短い本であるが、そこで書かれていることは日本の左翼と議論するときにも参考になるものが多い。
次回は、その本に書かれた左翼を論破するための具体的方法を紹介したいと思う。
https://www.epochtimes.jp/p/2019/10/48356.html
左翼を論破する方法(後編)

今回は、前回の<左翼を論破する方法(前編)>で予告した通り、
ベン・シャピーロの著書
“How to Debate Leftists and Destroy Them: 11 Rules for Winning the Argument”
(左翼を論破する方法: 議論に勝つ11のルール)
に書かれた内容を抜粋して紹介することにする。
最初に、この本に書かれた11のルールをリストアップしよう。
#1 戦争の気持ちで向かっていけ
#2 先制攻撃を仕掛けよ
#3 相手にレッテルを貼れ
#4 自分に有利なように議題設定せよ
#5 議論の矛盾点を指摘せよ
#6 質問に答えるように強要せよ
#7 はぐらかされないようせよ
#8 時には自分の味方も切り捨てよ
#9 知らないことは素直に認めよ
#10 無意味な勝利に浸らせてやれ
#11 見た目を大事にせよ
過激な項目が並ぶが、彼はこのルールを使う前提条件を設けている。
まず、議論を始める前に、そもそも左翼と議論をする必要があるのかを考えろとシャピーロは言う。
議論をすべき場合として、彼は次の3つを挙げる。
1つ目は、それが義務の場合。
2つ目は、相手が議論の通じるまともな左翼の場合。
3つ目は、観客がいる場合である。
世の中には何を言われても絶対意見を変えない人間がいる。
本来、そういう人とは議論するのは時間の無駄である。
しかし、観客がいる場合は、その相手を公衆の面前で打ち負かすことに意味があるとシャピーロは言う。
上に挙げた11のルールは、3つ目の観客がいる議論における戦術という位置づけである。
ルールの#1から#4は、いずれも左翼の真似をせよという助言である。
良識的な人は、これらの助言に従うことを大いに躊躇するだろう。
しかし、シャピーロは戦わねばならないという。
その根拠に、2012年にバラク・オバマとミット・ロムニーの間で戦われた大統領選挙を挙げる。
当時、オバマの政策はうまくいっておらず、一方のロムニーは魅力的な候補者だったので、普通に戦えばロムニーが勝てたとシャピーロは言う。
にもかかわらず、なぜ負けたのか。
ロムニーは、オバマはいい人だが政治家として能力に欠けると主張した。
一方、オバマ側はロムニーの人格攻撃を徹底的に行った。
そして、その多くは根拠のない言いがかりだった。
そもそも、人格を客観的に比較すれば、ロムニーの方がオバマよりも優れていたとシャピーロは言う。
それは、上述した両者の選挙の戦い方にも見てとれる。
逆にそれが仇になったというわけである。
選挙においては、人々は政策にはそれほど興味はない。
彼らの関心は専ら候補者の人格に向けられる。
だから、政策論争より人格攻撃の方が票に直結する。左翼陣営はそれを理解しているからこそ、あらゆる人格攻撃を仕掛けてくる。
相手がどんな汚い手でも使ってくる以上、同じぐらい汚い手を使わないと勝てないというのがシャピーロの見解だ。
保守派には、真面目にやっていれば報われると考える正直で単純な人が少なくない。
しかし、現実はそれほど甘くない。
だから、戦略的に動く必要がある。米国でも大学は左翼教員の巣窟となっているが、シャピーロは学生時代、答案用紙の氏名欄に学籍番号だけを記入して個人を特定されないようにし、共産主義者好みの答案を書くようにしていたそうだ。
シャピーロがこの本を書いたのは2014年だが、2年後の大統領選では共和党のドナルド・トランプが当選した。
シャピーロは、トランプには是々非々の姿勢だが、左翼(民主党)が執拗な人格攻撃を仕掛けてくる以上、ロムニーのような良識的な保守派ではなく、トランプのようにそれに対抗できる口汚さのある人間でなければ大統領選に勝てない時代になったと後に分析している。
ルール#6「質問に答えるように強要せよ」と#7「はぐらかされないようせよ」は、左翼特有の戦術に嵌らないようにするための助言である。
左翼は議論の勝敗だけに関心があるので、負けそうになると何とかはぐらかして負けがはっきりしないようにする。
それに惑わされずに、証拠を提示しながら相手を追い詰めるべきだとシャピーロは語る。
ルール#8「時には自分の味方も切り捨てよ」の意図は分りにくいかもしれない。
左翼は、保守派の中で攻撃しやすい人を攻撃してくる。
弱いところを狙うのは戦いの常套手段である。
そのとき、保守派は義理堅い人が多いので、味方を擁護しようとする。それで足元をすくわれるのが保守派の弱点である。
だから、たとえ味方であっても、その人に瑕疵がある場合は切り捨てて、自分が討論に勝つことに集中せよというのがシャピーロの助言である。
ルール#10「無意味な勝利に浸らせてやれ」も解説が必要だろう。
これは、上のルール#6~#8と密接に関連する。
左翼は負けるのが嫌いである。だから、本人は勝った気になっているが、観客にはそう見えない状態を作ればよい。
観客の前での討論は、観客がどう思ったかで本当の勝敗は決まる。
たとえば、共和党は酷いと攻撃されれば、民主党も共和党もどちらも酷いと認めればよい。
それであなたが失うものはない。
逆に相手が共和党だけが悪いと言い続けると、観客にはその人の主張が極論に見えてくる。
ルール#11「見た目を大事にせよ」は、保守派の最大の弱点を指摘したものである。
上でも述べた通り、人々は政策には興味がない
興味の対象は人格であり、さらには見た目である。
それが如実に表れたのが、ケネディーとニクソンの間で戦われた1960年の大統領選、さらにオバマとマケインの間で戦われた2008年の大統領選だとシャピーロは指摘する。
左翼は見た目が大事であることを重々承知しているので、あらゆる手段を駆使して見た目の好印象を演出する。
オバマが大統領選の演説でテレプロンプター(原稿を映し出す演出の補助器具)を使ったのはその代表例である。
一方、保守派は議論の中身で勝負しようとして、敗戦を重ねる。
日本の保守派は、しばしば左翼のことを「お花畑」と揶揄する。
たしかに、自分が武器を放棄すれば相手は攻めてこないという左翼浮動層の信仰は幻想にすぎない。
それと同様に、正しい政策を論理的に語れば人々に理解してもらえるという保守派の信仰も幻想である。
逆に、左翼中核層はそれが幻想であることを昔から知っていた。
それゆえに、左翼は人間の認知バイアスを利用したプロパガンダで、数々の世論戦に勝利を収めることができたのである。
最近は、社会心理学という学問分野が発達し、人間の判断の非合理性が科学的に実証されてきている。
しかし、こうした社会心理学の学術的成果には、左翼がこれまで経験的に知っていて長年利用してきた知見の再発見に過ぎないものも多い。
社会心理学を何十年も先取りしていた左翼中核層の知性の高さは驚嘆に値する。
だから、私は彼らを侮ってはいけないと繰り返し言うのである。
執筆者:掛谷英紀
筑波大学システム情報系准教授。1993年東京大学理学部生物化学科卒業。1998年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。博士(工学)。通信総合研究所(現・情報通信研究機構)研究員を経て、現職。専門はメディア工学。特定非営利活動法人言論責任保証協会代表理事。著書に『学問とは何か』(大学教育出版)、『学者のウソ』(ソフトバンク新書)、『「先見力」の授業』(かんき出版)など。