大規模な金融緩和、大量の流動性供給では
物価は上がらないことが明らかに

――大規模な金融緩和をすれば物価は上昇すると主張し、緩和策を続けてきたわけですが。

 

 結局、大規模な金融緩和、大量の流動性供給では物価は上がらないということが明らかになった。

物価上昇率をマイナスからプラスに転じさせるには、やはり企業の期待成長率が上がる、消費者の所得増加期待が増大するといった日本経済の先行きへの見通しが強くなることが必要だ。

 

――日銀が金融緩和を継続し、物価を上昇させるとコミットすれば期待インフレ率が上がるという経路にはならなかったわけですね。

 

 そうだ。

そして、今、金融政策がだめなら財政政策でという政策論議が起きている。

私は、金融政策にしても財政政策にしても、その効果と副作用を常に点検しなければいけないと考えている。

副作用が目立ってきたら政策を見直すということが重要だ。

 

――ここまで拡大してきた金融緩和を手じまう時は来るのでしょうか。

 

 効果があまりなかった政策については手じまうべきだと考えるが、政策の効果より副作用が上回るとか、振り返って判断が間違っていたという議論がなされていないので手じまうきっかけが生まれない。

本来は、そうした議論をすることが金融政策や日本銀行への信任につながると思っている。

 

――第三の矢である成長戦略の成果は上がったとお考えですか。

 

 数回にわたって成長戦略を策定してきたが、見るべき成果は今日までない。

申し訳ないが、総合的に判断してアベノミクスには辛口の評価をせざるを得ない。

 

――今後、ウイズコロナ、アフターコロナの世界での経済政策はこれまでと変わるのでしょうか。

 

 金融政策、財政政策双方を合わせて考えると、今後、景気が後退局面に入ったときに追加で講じることができる政策がなくなり、限界が見えつつある。

 

 短期的には、コロナ制圧のための治療方法の確立に向けた政策や現在の企業倒産、生活破綻を防ぐための政策はやらざるを得ない。

結果として、実質的には日銀が財政ファイナンスの主体となることも覚悟して対応するしかない。

 

 しかしそこから景気が立ち直っていく過程を、金融政策・財政政策で支えることは難しいと考えている。

民間企業がこれまでの内部留保重視の姿勢を転換して、リスクテイクを積極化し技術革新、デジタル化に向けた投資をしていくこと、さらには発想豊かな若手人材を発掘し抜擢していくことが求められる。

そこに日本経済再生のチャンスがあるとみているし、日本人はそれができると期待している。