うみ☆彡

車で海に行ったの。
一人になりたかったから。
丘を越えたら、海。
ちょっと急な、坂を下る。
小さなお土産やさんの駐車場に車を停めて、
パタン…
扉を閉めて動きが止まった。
3秒くらい、車の鍵穴を見つめてから顔を上げて海を見た。
いい天気。
海も碧くて空との境が青と碧の違いが…
きれい。
お土産やさんの自販機で
ジュースを買う。
別に喉が乾いてるわけじゃないんだけど。
お土産やさんのおばさんと、目が合ってしまったから…
坂を下りると
申し訳程度の堤防みたいなのがあって、
木でできた階段は心元なげに
ギシギシ揺れた。
堤防を超えると
思ったよりも人がたくさんいた。
親子連れが。
粗末な海の家は
お客さんでいっぱい。して目の前の海岸は
小さな子供が波と戯れている。
一人になりたかった私は
ただ天気を恨んだけれど
引き潮に取り残された磯を覗いてそんな気分を
払いのけたかった。
「満潮になったら沈んでしまうんだな」と
小さな蟹をつついてみたけれど
子供たちが親を呼ぶ嬌声に驚いてフナムシさえも
どこかに隠れている…
海辺はどこへ行っても賑やかで
一人にはとてもなれそうもないなと
ペットボトルを開けて
喉を潤した…生ぬるい液体が喉を通り過ぎる。
「戻ろう」
なんか違うな
ここは。
岬の方に行こうかな。
そう思いながら砂浜をあとにした。
「お父さぁん、○○ちゃんお腹がすいたぁ」
仲睦まじい親子が通りすぎ、私は歩を速めた。
駐車場に停めた車に着いた頃には、
じっとりとした汗をかいてしまっていた。
車に乗り込んですぐ、
エンジンをかけた。
ブル…ンンッ…………
エンジンをかけたのと同時に、
ラジオもついた。
ラジオ…
いつもと違う。
『……………海岸から離れて』
地震直後によく聞く抑揚の無い、アナウンサーの声が響く。
『…○時○分、○○地方にて、大きな地震が観測されま…』
ザーーーーーーッ
放送が途切れた。
電波のせい?
でも。
聞こえた地名はそう遠くない。
窓の外の眼下には
ただただ青い海が穏やかに波打つのが見えた。
海底がくっきりと。
と、
水平線に。
何か灰色のモノが…
『…海岸線に近い方は、ただちに離れてクダサイッ!』
ザーーーーーーッ
私は急いでハンドルを握った。
お土産やさんのオバサンが訝しげにこちらを見ていたけれど視界の端にそれは消えた。
アクセルを踏む。
坂道をのぼる。
踏んでも踏んでも加速しない!
そんな風に感じた
その時。
ちょうど坂をのぼりきる直前に、
道端を歩いていた人が
電柱に掴まっていた。
車は大きな石につまづいたみたいに揺れた…
バゥン…………………
タイヤが空転して
車は道端に放り投げられた。
ブレーキを踏む。
ガクンガクンしながら、
車は止まった。
ハンドルにしがみついた私は
バックミラーを見てしまった。
海がすぐそこまで来ていた。
波が坂の上まで押し寄せて。
お土産やさんは
近くにあった電柱の先しか見えなかった。
ついさっき、
通り過ぎた家族連れの声が
夢のように
跡形もなく消えていた。
一人になれた…
海を見て
そう思った。