出れない森☆彡

夕闇が迫る中、
私は途方に暮れていた。
「…ここはどこ?」
行き交う車も疎らな幹線道路の脇道に停めた軽ワゴンに私は乗っていた。
ハンドルを握る手が少し、湿っていた。
私は湿った手のひらをズボンでこすり、呟いた。
「家へ帰らなきゃ。」
車の中をざっと見回したけれど、地図なんて無かった。
車の外を見ても、人が住んでる気配がないトタン吹きの粗末な倉庫があるだけで、辺りは車の往来以外はひっそりとしていた。
せめてコンビニがあればなぁ、と幹線道路のほうを見ると、
山に向かって高速の入り口があるらしい。
高速に乗れば家の方向が今どこにいるのかがわかるんじゃないかと、
私は車のエンジンをかけた。
キュ、キュ、キュ、…
若い頃乗り慣れた軽ワゴンの音。
ウィンカーを出して高速入り口の青い看板を目指した。
しばらく車を走らせると、道はだんだん山あいを進んでいく。
人家はさらに疎らになり、人影は更に見かけない。
「ここかな?」
高速の入り口は大きなトンネルの横の坂を登るよう示されていた。
左にウィンカーを出して坂を登る。
道路を照らす灯りがオレンジ色に鈍く光る。
ずいぶん遠いな…
不思議なことに、道はどんどん狭くなってゆく。
そういえば対向車無いよなぁ、一方通行?
坂はどんどん険しくなり、軽ワゴンのアクセルを強く踏んでいた。
道路脇の雑草が道路にはみ出し、夜空も木々に覆われていて星空すら見えない。街灯もいつの間にかオレンジからうすぼやけた白いのに変わっている。
タイヤが小石を踏む音が、だんだん大きくなる。
「…もしかして迷った?」
そう思った瞬間、道路がアスファルトではなくなった。
ガラ、ガラ、ガラ、…
慌て車を停めた。
前方は、
漆黒の闇。
Uターンしなきゃ!
と思ってあたりを見回すと、
片側が崖になっていて道もいつの間にか車幅とさほど変わらない。
私は少しパニックになり、車から外に出た。
森の匂いが、ギュッと鼻に多いかぶさる。
車の前を少し歩いて私は
ぁ、と声をあげた。
車が進もうとしたその先には、
道路なんて無かった。
階段状の崖が広がり、
その先の木々の枝の間からは下界の灯りが
夜空の星のように
都会の夜空くらいの瞬きがあるだけで、
私の周りには人が踏み入れた気配なんて
どこにも見受けられなかった。
どうやってここから
脱けられるだろう?
空を仰ぐと
木の葉がまるで
両手で目隠しをしているようだった。
車のキーを握り締めたその指だけが、
今の私の存在を証明しているかのようで、
額を流れる汗を拭うことができないでいる自分に
本当にただただ、
驚くばかりであった…
あの疎らな光の中に、
自分の家が
帰るべき家が本当にあるのか
自信が無かった…