岩前篤さんと言えば、この業界では知らない人がいたら
勉強不足が過ぎるだろって思うほどの有名人です。

近畿大学建築学部の学部長で
住宅の断熱性・気密性について研究をされてる人なのですが
断熱性能が人の健康に及ぼす影響などについての
資料などが、いろんな本に引用されてるので
前々から名前はよくお見かけしてたので一度生で話を聞いてみたい思ってたら

この度、大阪でセミナーをされるという事だったので
早速、お話を聞きに行きました。

岩前先生曰く、そもそも、大前提として
日本の家の断熱性のは、先進国で比較すると
あまりにも水準が低すぎると言う。

低温による健康障害は世界の常識なのですが
日本人は、質素倹約を旨として我慢してしまう上
寒さに耐える事で、
体が強くなると思ってる人が多くいるとの事でした。
一年中冷暖房が完備された部屋にいると
人の体はドンドン弱くなっていくと信じ切ってる人がいけど、
実際は室温が19度以下になるにつれて、
病気の発生率が増えていくという、データがあるので、
毎日寒い部屋にいても、決して健康にはなりません。

また、一年間の住宅内事故のデータを集計すると
夏に亡くなる人より、冬に亡くなる人が圧倒的に多く
住宅内事故で亡くなる人の数は交通事故の2.6倍もあるとの事。

日本だけでなく世界的に見てもそうですが
寒い地域より、比較的暖かい地域の人ほど、
冬に亡くなる率は高くなってるのだそうです。

それは、寒い地域ではしっかり寒さの備えをしてるけど
中途半端に暖かい地域では、
寒さに対する備えが甘い上に、
寒さが人を強くすると強く信じてるという悪循環がある


また、低温による健康被害は世界の常識なので
欧米では、法律で寒い家を作ってはいけない
という規制がある国や、
法で定められた断熱性のを有さない家には
改築命令が出る国まである
なのに先進国の日本だけが不思議と
住環境についての法令が甘すぎる。

何故か先進国の中で日本だけ
がむしゃらに寒さに耐え忍ぼうとする国民性がある。
でも、実際耐え忍びたいと意識的に思ってる訳でなく
建築のレベルが低くて、
そうせざる負えなかったという事実もある。

ココ近年断熱に対する意識が高まり、
窓関連でも世界水準程度のサッシもやっと開発されて
ちょっと勉強すれば、さほどお金をかけなくても、
寒さに備えることの出来る家が作れるようになってきました。

良い家を作ろうとすると、
そこには必ず初期コストとの対立関係が生まれます
現実的に良いモノは高いのですが
そもそも、高い安いの判断が短絡的ではないかと思う。
初期コストに固着しすぎず、トータルの経済性で見ると、
必ずしも安い家が総合的に安い訳ではない事に気が付く。

トータルの経済性とは光熱費、
メンテナンス費、医療費なども含めて考える必要があり
断熱性能が低いと、光熱費が高くなり
光熱費が高いので、暖房を出来るだけ我慢するようになると
低温障害により病気になって医療費がかかる
時には、仕事を休んだりする場合もあるので、
そもそもの収入が減る

では何故、安さをウリにするのか?というと
今までは、そういう高気密高断熱の住宅ってのが
高級過ぎたという事もありますが
それは置いといて考えても、
安い家が一番売りやすいからだと思うのです。
売りやすいと言うか、お客さんにわかりやすい

工事費などの初期コストが安ければ
お客様の為になると言うが
実は、それはお客様の為ではなく、
競合他社に負けにくいという建築会社の勝手な都合で
難しくて面倒くさい説明をしなくても家が売れるなら
そうしましょうよという流れがあるのではないか?

イメージとして
断熱性や、換気性能の話にお客さんが興味を示し
理解するのは難しいという先入観があるが
いろんな工務店の人と話してて感じるのは
お客さんに説明できるほど、
勉強してる営業マンって圧倒的に少ない。

断熱性能やそれに対する健康被害を
わかりやすく説明するのは難しく
その上、理解されない恐れもあるなら
対面キッチンや家事導線、頭のよくなる子供部屋などの
プランニングや、安い家には共感しやすいので
良い家よりも、売れる家に逃げてしまう建築会社が多くある。

家事導線や、暮らしに対するお客様の要望も大事ですし
コストも出来る限りやすい方が、お客さんの為にもなると思うが
大前提として安全、安心ってものの
土台の上での話でないと意味がない。

私自身、前々から思ってましたが
お客さんの求めるものを、求めるようにだけ作るのは、
プロとして無責任であると思うのです。
実際家事導線や、収納計画などの話を
お客さんとすると盛り上がりやすいけど
それだけでは、絶対に良い家にはならない。
近頃、この岩前先生が言うような、
健康的な家つくりについてお客さんと話をすると、
とても共感されることが多い

以前相見積で、連続して勝てなかった時があって
価格だけで判断されるなら、
価格で勝負しようかと思ったことがありましたが、
会社都合で、自社の売り上げの為に
お客さんの健康を犠牲にしても良い訳がないと思い辞めました。

ただの不勉強で、
性能の低い家を作ってる会社ならまだしも
健康被害があると知ってて、しかも努力すれば、
手の届く範囲で健康に良い家が作れる状態で、
ローコスト住宅をつくるのは、
もはや、不誠実というレベルの問題でもない。

プロとして、健康的にも経済的にもメリットのある提案をし
20年後、30年後、
頼んでよかったと思われるような家を作らなければならない。
と、最後のディスカッションで岩前先生が話をされてましたが
私もそう思います。
新築が出来て引渡しした後喜ばれるのは当たり前で
実際住んでみて10年20年経ってから、
頼んでよかったと思われる家を作っていけるように
今後ももっと頑張っていきたいと思いました。

アイム山陰 渡辺