(月子)
――ねぇ、どこにいるかわからない、神様。
誰か、すべてを理解して許すことができる存在がこの世の中にあるというなら。
どうか、浅葱を助けてください。
この台詞が頭から離れない。
どうしようもなく、心を揺さぶった。
(上巻あらすじより)
大学受験間近の高校三年生が行方不明になった。家出か事件か。世間が騒ぐ中、木村浅葱(あさぎ)だけはその真相を知っていた。「『i』はとてもうまくやった。さあ、次は、俺の番ーー」。姿の見えない『i』に会うために、ゲームを始める浅葱。孤独の闇に支配された子どもたちが招く事件は、さらなる悲劇を呼んでいく。
この小説は、どうしようもない。
マイナスの意味ではなく
感嘆に値するほど、人の感情の動きを掴んで離さない。
人とは読者であり、そして小説の中で動く人物のことである。
一見すると無責任で、残酷で、到底許す事のできない事件の数々。
だがその実、まったくもって人間らしい葛藤を感じた。
作品の内容に触れる事はさけるが。
ストーリーがすばらしいという事もそうだが、特に目を引くのはその構成。
冒頭ではまだ明らかにされていない事実が多く、後半に進むにつれ明かにされていくのだが。
その流れはすごい、の一言だった。息をのむほどに。繰り返しその一文を読んでしまうほどに。
話の中にちりばめられた伏線も、事実が明らかになってその意味を汲み取れるわけだが、読み返しても違和感がない。そこがまたすごい。
そして何より、登場人物ごとの視点で書かれる話の進み方。それぞれの過去や人柄から生まれる想いや考え方に共感を覚え、驚くほど感情移入して物語にのめり込んでしまう。これが、辻村深月さんの最大の魅力なのだろう。
そして読み終わったあとの、何とも言えない空白の時間。何を思わずとも、それまで本の中に登場していた人物たちの事を思い返し、そこで起こった事を反芻し、そして震える心に静けさが訪れるのを、ただ待っている。
その瞬間が、自分に取ってほかには変えられないもので、読んでよかったと思う瞬間で、それでも、この感動は時間とともに薄れていってしまうんだろうなという感傷に浸るもので、何とも表現しにくいのだが、とにかく、著者に感謝をしている。
この作品は上下巻で構成されている。
今までの作品は、比較的長い。しかし、そんな事は感じさせない。むしろ、この長さだからこそ、ここまで小説の中に飛び込むように入っていけるのだと思う。この本だけがおすすめできる本なのではなく、この著者の作品がおすすめなのだと私は思う。
そしてきっと、今自分が尊敬する著者の方々の中で、トップの入れ替えが行われている。言うまでもなく、そのトップは辻村深月さんだ。
それほど、自分にとって辻村深月さんの書く本は影響を与えてくれた。