以前のブログから少し時間が経ってしまいましたが、今日は難聴の方のTOEICリスニング試験の可能性について少し書かせて頂きます。

 

すべて経験による統計になりますが、これからTOEICリスニング試験を受験しようか、あるいはリーディング試験だけに絞ろうかと考えていらっしゃる方がいましたら、ぜひ参考程度に読んで頂ければと思います。(*当然のことですが、リスニング試験が免除だからと言って、リスニング試験の内容や必要なスキルを勉強しなくてもよい訳ではありません。リスニング試験にも、実際の社会生活において必要な英語表現や知識が盛り込まれているので問題集などを利用して学んでおきましょう。)

 

結論から申しますと、補聴器を付けたときの聞こえが、片耳だけでも40〜35デシベル程度あれば、リスニング試験にチャレンジしてみるのも1つの選択肢だと思います(補聴器を付けてデシベルの測定をしていない方も多く、筆者の予測で書いている部分もあるのでご了承下さい)。もちろん聞こえの程度は同じデシベルの方でも一人一人違いますし、リスニングの向き不向きも色々な要因によって変わってきます。

 

色々な要因とは、例えば:

 

●いつ聞こえなくなったのか?

●どのような教育を受けてきたのか?(ろう学校中心か?一般の学校中心か?)

●普段はどのようなコミュニケーション方法を中心に生活をしているのか?(手話中心?筆談中心?口話中心?聴覚活用をしている?)

●どんな補聴器を使っているのか?

●語学に対する得意不得意はあるか?音感はあるか?勘が良いか?(これは聴者も同じで音が聞こえるから英語が理解できるとは限りません。)

●リスニング試験受験の理由は?(何かの資格条件として受験が必須だから?音の感覚に慣れておきたい?)

 

 

以上のように様々な要素が大きく影響してきますので、上記の40〜35デシベルと言う数字は一概に何デシベル聞こえれば良いと言う答えではありません。

 

参考程度に、中程度の難聴(両耳で70〜60デシベルの聞こえ。補聴器をして30〜20デシベル程度の聞こえ)で、英語が得意で聴者と同じ状況ならリスニング試験で450点〜満点近いスコアをあげられる方のスコアが最高でおよそ350点(495点中)です。スタート時から1〜2年で100点アップしました。

 

聴者でも350点は大変なスコアですが、いかに英語力や得手不得手がスコアに影響してくるのかおわかりいただけると思います。

 

聞こえの程度がわからない方のために、いったんこちらで聞こえとデシベルの関係をご紹介します。

私自身も普段はデシベルよりも生徒さんと接したときの感覚で判断していることのほうが多いので、改めて一緒に確認させていただきます(特定非営利活動法人 東京都中途失聴・難聴者協会 様から画像を拝借しました):

 

画像はこちらのリンクより:https://www.tonancyo.org/kikoe/welfare.html

 

 

上記の画像でも確認していただける通り、日本では聴覚障害者の障害者認定はとてもハードルが高いものになっています(このサイトでも20−30デシベルは「正常聴力」とされていますが、実際には「軽度難聴」とするべきです)。ですので、TOEIC試験申込の際も、リスニング試験のための特別配慮(スピーカーの近くに座る、別室でCDにイヤホンをつないで受験するなどの配慮)をしてもらうためには、障害者手帳を持っていない軽度〜中程度の難聴の方々は(原則6ヶ月に一度)医師の診断書が必要になるなど、経済的な負担においてもかなり不利な状況が発生しています。補聴器には寿命もあるし聞こえ具合も加齢とともに年々変化するので、自分の耳に合ったより良い補聴器を買いたくても十分に補償が出ないことは言うまでもありません。(フォナックのワイヤレス補聴器rogerと相性が良くスコアが飛躍的に伸びた方もいますが、これは何十万円もするのでどうにか負担してもらえないか企業などにお願いしたいところです。)

 

 

それでは、今までに接してきた聴覚障害を持つ一部の生徒さんの聞こえとスコアの伸びについて見てみます(個人が特定されないように配慮しています。なお、デシベルに関しては一部不明な箇所がありましたので、その部分は筆者の予測で補っていますのでご了承下さい。数字はデシベル数を表します):

 

 

●Aさん高度難聴(聞こえ:右110/左80)(補聴器有り:両耳で60) *スコア:145点⇒180点(7ヶ月)

●Bさん中程度難聴(聞こえ:両耳で40)(補聴器有り:両耳で30〜20)*スコア:210点⇒260点(3ヶ月)

●Cさん高度難聴(聞こえ:不明)*スコア:105⇒105(1年)

●Dさん中程度難聴(聞こえ:両耳で70〜60)(補聴器有り:両耳で30〜20)*スコア:250点⇒350点(1〜2年)

●Eさん高度難聴(聞こえ:右90/左120以上)(補聴器有り:両耳で60)*スコア:145⇒190(6ヶ月)

●Fさん高度難聴(聞こえ:右70/左100)(補聴器有り:両耳で40〜35)*スコア:150⇒315(4ヶ月)

●Gさん中程度難聴(聞こえ:右90/左65〜70)(補聴器有り:右60/左35)*スコア:100⇒255(1年後)⇒290(2年後)⇒315(2年半後)

 

 

現時点での記録は以上となりますが、共通点はどの方も全くの英語初心者ではないことです。英検に換算すると、最低でも英検準2級程度の英語力、上は準1級程度の英語力の方々です。

 

これからTOEIC受験を考えているけれど、まだTOEIC受験のスタートライン(英検3級合格が最低ライン、準2級合格が理想です)に達していない方は、中学英語の見直しから始めることをおすすめします。中学校で習う英語はとても重要で、英文の基礎となる5文型や時制など、書いたり話したりコミュニケーションをとる際の必要最低限のルールが組み込まれているからです。ですので、5文型や時制が曖昧な方は、慌てずにまずは基礎を固めてからTOEICを受験されることをおススメします。基礎が固まれば応用も利きますし、語学が得意な方にはきちんとこの応用力が備わっています。

 

最近では半月で200点アップした方(学生)と3ヶ月で300点アップした方(社会人)がいますが、お一人は難聴の方でリスニング試験を諦めていました。元々の英語力も高かったですし、聞こえの様子からリスニング受験をおすすめしましたが、以下に私が難聴の方にリスニング試験を薦める基準についてまとめておきます:

 

●英語力(英検準2級合格程度が目安です)

●聞こえの程度と、補聴器を付けた時の聞こえが60〜40デシベル程度以上

●日本語の聞き取りと発話の明瞭さ(自分の発話は毎日聞くので結構大切なポイントです)

●会話しているときの反応

●難聴になった時期

●口話、聴覚利用の頻度

●補聴器の種類と相性

●ご本人の希望

●耳への負担がないこと

 

リスニング試験をあきらめていたけれど、私から薦めさせていただいた方の共通点は、主に英語の音に慣れていないだけの理由であきらめていた場合です。自分が英語の音に慣れているかどうかは、ご自身では判断がつきにくいところですが、私の場合は上記にも書きましたが日本語の聞き取りと発話の明瞭さで判断していることが多いです。母語である日本語に聴覚活用ができるのなら、英語にもできるだろうと言う判断基準です。

 

 

以上、難聴者のTOEICリスニング試験の可能性について書いてみましたが、少しでも参考になれば幸いです。

 

 

今日は触れませんでしたが、高度以上の難聴の方で、リスニング試験の受験は無理でも、聴覚活用や口話の活用で英会話レッスンを受講されている方はたくさんいます。CDのような機械音は聞こえませんが、面と向かった人間とのやり取りなら音の振動や強弱、リズムなどが少しでも伝わるし、そこに表情や身振りなど、コミュニケーションに必要な要素が付いてくるからです(コミュニケーションにおいて言語が果たす役割はたった2割程度のみとも言われています)。

 

英語を勉強したい理由は人それぞれだと思いますが、どんな方法にせよ、一人一人の教育の機会は守られるべきです。先日、ある協会から受験者が聞こえないにも関わらずリスニングのlip reading(読唇)を半ば強要され、こちらがリスニング免除か手話活用の可能性などを提案したにも関わらず、ほぼ責任放棄された形で話し合いは終了しました。(幸い、他社が提案を引き継いで請け負ってくれました。)大きな協会でコネも力もあるのに、どうしてもっと矢面に立って根本的な問題の解決にあたってくれないのか不思議でなりません。実際、小さい他社さんではできていることなのに。きっと視線の先が受験者の教育や未来の可能性ではなく、目先のマニュアルでいっぱいいっぱいなのでしょう。

 

 

聴覚障害に関してはまだまだ素人で専門的な話をすることはできませんが、聞こえる聞こえないに関わらず、英語を勉強したくても受け入れてくれるスクールがない方々には、できる限り教育の機会だけは逃してほしくないです。そう言う思いから、初心者(「初級者」とは意味が違います。今までにあまり英語に触れたことがなく英語に慣れていない方のこと)に特化した英会話スクールを続けています。

 

 

最後に私事ですが、3年前に習い始めた日本手話はいまだに初級者レベルです。英語に例えると、おそらく中学2年生レベル。とは言え、いよいよコース名だけは「中級」に進学することになりましたので、名前負けしないように引き続き細々とではありますが精進します。手話で英語を教えられるようになるにはまだまだ遠い道のり。老後の夢ですので長い目で見守っていてください⇒「手話、20年計画!」(と言う理由からもおわかりと思いますが、聴覚障害者の方のレッスンは現在は主に口話と筆談、そしてほんの少しだけ手話や指文字を使いながら行っています。)

 

 

関連サイト:

特定非営利活動法人 東京都中途失聴・難聴者協会

関連ブログ:

「短期間でTOEICスコアを上げた方の共通点」

聴覚障害者のTOEICテスト受験方法について

中程度の難聴の方のリスニング(聴者の方にも参考になる部分がありますよ!)

聴覚障がい者の方の英検2次試験受験方法

聴覚障がい者の方の英検2次試験音読のポイント

 

 

 

◆ ILSランゲージスクールでは、英語初中級者の学習者を対象に英会話、英検、TOEIC(R)対策のためのプライベートレッスンまたはお友達との少人数レッスンを提供しています。ゼロからゆっくり学びたい方から資格試験対策が必要な方まで、ムダのないコースをカスタマイズさせていただきます。詳細はスクールホームページよりお気軽にお問い合わせ下さい。聴覚障がい者の方もご相談下さい。