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続き・・・
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宣言どおり触れ合うだけのソフトな口付けから始まったそれは、次第にディープなものになっていた。 わずかに開いた唇からぎこちなく差し出された舌を受け入れ、吸い、互いに絡めあう。息をすることさえ忘れて、戦場ヶ原の口腔を求める。彼女の存在を、欲す る。思考は飛び、意識が遠くなる程に甘美な時間によって構成される、まさしく濃厚なるキスだった。
「ん……はぁ」
僕たちはどちらからともなく唇を離し、至近距離で見つめあう。乱れた呼気を浴びながら、いつの間にか戦場ヶ原のほっそりとした体を強く抱きしめているこ とに気づいた。普段は理知の光に満ちている彼女の瞳は濡れて見え、ひどく美しい。もしかすると、僕も同じような目をしているのかもしれない。だが、そんな ことはどうでもよかった。内側からこみ上げてくる、焦燥感と似て非なる、言葉では表し難い衝動が彼我の距離をゼロにする。唇を重ねた僕たちは、音が鳴るの も構わず貪るようなキスを再開した。
どれくらい、そうしていたのか。息を継ぐべく顔を離したた次の瞬間、彼女の体が大きく傾いだ。
「あっ」
何かに蹴躓いてしまったらしく、倒れそうになった戦場ヶ原をあわてて抱きとめようとしたのだが、どういうつもりか彼女は口元で緩やかな弧を描くと、不意に足元のマットを引っ張ったのである。
「な」
文句を言う暇などなかった。僕はただ、彼女の体をかばうことだけを考えて床に転がっていた。
「痛た……」
軽く顔をしかめつつ、戦場ヶ原が腕の中に収まっていることに安堵する。どうにか間に合ったようだ。
「阿良々木くんは、いつでも王子様みたいに助けてくれるのね」
褒めているのだろう。しかし、素直に喜んでいいものかどうか、にわかに判断しかねる。彼女は特にどこかをぶつけたわけではなさそうだし、我ながらよく やったものだと思う。ただ、自ら穴に飛び込んだ上にこちらも巻き添えにするようなやり方は、どうなんだろう。いつの世でも、お姫様はわがままなものなのか もしれないが。単に、今の台詞を口にしたくてこの状況を作ったのかもしれないし。
まったく、再々こんなことが起きるなら気の休まる暇がないじゃないか。ひと言、注意はしておかないと。
「あのな、ガハラさん」
「ごめんなさい。わざとなの」
とんでもないことをしれっと言いやがった。
「でも、後悔はしてないわ。反省もしない」
しろよ。頼むから少しくらいは悪かったと思え。
「だって、さっきの阿良々木くんは、すごくすごく格好よかったから」
本日、何度目かわからない赤面タイムが到来した。想像してみてほしい。いつも無表情な彼女が、笑顔さえめったに見せない彼女が、頬を桜色に染めて照れくさそうにそんなことを言うのだ。震えるぞハート、萌え尽きる程にキュート、蕩れる、僕の魂!
「ガハラさん」
頭のいい戦場ヶ原のことだ。きっと、僕がどういう思考をたどりどんな反応をみせるのか、シミュレート済みなのだろう。実際、反則だ。わかっていて、相手の狙いどおりに動くしかない。惚れた弱み、である。
「……阿良々木くん」
僕は口元に浮かびかけた苦笑を笑顔で打ち消すと、
彼女を抱き寄せて美しいラインを描く額にそっと唇を押しつけるのだった。
「そういえば」
しばらくの間何をするでもなく(強いていえば互いの温もりを堪能していた)抱き合っていると、ふと思い出したように顔を上げた戦場ヶ原が潤んだ瞳で言っ た。天井からそちらへ視線をやると、まだ料理が途中だったのをすっかり忘れていたわ、とつぶやきつつも、腕の中から動きだそうとしない彼女に返すべき台詞 が見つからず、僕はああ、と曖昧な語を漏らす。こういう時、恋愛に慣れた人間なら気の利いた言葉で応えることができるのだろうが、あいにく、手持ちの経験 値は今まさに積み上げ中で、戦場ヶ原と付き合うまでの蓄積は一切ない。
さりとて、それを言い訳にいつまでも今のままでいるつもりはなかった。僕自身のためにというよりも、彼女のために。大切な人を、もっと幸せにしたい。そうした人前では口が裂けても言えないような理由で、もっといい男になりたいと心から思う。
「ところで阿良々木君。気のせいか、あなたが潤んで見えるわ」
「いや、僕は潤んでないと思うぞ」
当然だった。化粧水で満たされたプールに浸かった覚えも、コラーゲンでコーティングされた記憶もない。ついでに言えば、いかにも売れていないであろう陳腐なCMでもそんな言い回しは聞いたことがない。
「そうかしら」
どこまでが本気なのか、戦場ヶ原は一般的に驚きを示す仕草である目を見開く動きをみせてから、さも意外そうにしげしげと僕の顔を覗き込んできた。
「だったら、私の目が湿気ているのね」
「間違っちゃいないんだろうけど、イヤな表現だな、それ」
「ふやけている、では語弊があると思うのだけれど」
「そんな表現、聞いたことないぞ」
よくよく考えてみると、人間がふやけているというのはあまり想像したくない代物だ。無敵の吸血鬼も流れる水には弱い。きっと、今の僕なら溺れたら簡単に 死んでしまうだろう。トラックに轢かれても絶命はしないくらい物理的ダメージには強いのと、それは別の話である。同じ理屈で、白木の杭で心臓を突かれたら 即死のはずだ。日本国で日常生活を送る限り、そこまで剣呑な事態にめぐり合う可能性は低いと思うけど。多分。
「大丈夫よ阿良々木君。私はあなたがふやふやでもふにゃふにゃでも、臭っていても愛する自信があるわ」
「嬉しいけど、臭うのはきついんじゃないか?」
あと、ふにゃふにゃってなんだよ。
「今の季節、椅子に縛り付けたまま三日も経てばかなり臭っているはずよ」
「そりゃ臭うだろうけど、いったいどんなシチュエーションだよ」
「躾、かしら。もちろん私のよ」
「縛られてるのは僕じゃないの!?」
楽しいやり取りだった。しかし、冗談が続いているからといって油断していれば、いきなり横合いから強襲してくるのが彼女の攻め口だ。
「ま、いずれにしても瞬きさえしていれば乾くことはないだろうな」
「そうでもないわよ」
「ドライアイ、ってことか?」
「違うわ。阿良々木君の……がすごいから、乾く暇なんてないのよ」
米菓の仲間入り宣言に加えて方向性は違うが立て続けにとんでもない台詞が飛び出し、思わず声を失う。直前に顔を背けたところをみると、もしかして聞こえ ないように言ったつもりなのだろうか。切り飛ばされた体の一部が即座に再生していた頃みたく一キロ先で落ちた針の音を拾うとか、化け物じみた聴力がなくて もこの距離ならば聞こえてしまう。たとえ、どんなに小さなささやきであっても、戦場ヶ原が発する音は特別だ。意識しなくても、体が可能な限り聞き取ろうと する。そうした自分を知覚する都度、流されて彼女のことを好きになったわけではないのだと、改めて確信する瞬間させられる。
そうしたことを考慮した上で音量を調節したのなら、完全にお手上げだ。べた惚れしている以上、初めから対抗策などないに等しいのかもしれないけれど。
「それとも、硫化アリルのせいかしら?」
にこりともせず、わずかに顎を引き気味に小首を傾げる戦場ヶ原の心中を読むことはできなかった。しかし、これは意地の悪い質問である。一応補足説明をし ておくと、硫化アリルとは玉ねぎに含まれている成分で、揮発性が高いため刃を入れると鼻孔を通じて粘膜を刺激する。つまり、瞳が潤んでいるのは玉ねぎを 切ったせいなのかとたずねていることになるわけだ。
「そんなことを言って、僕がどんな反応をみせるのか楽しんでいるのか?」
「ええ。悪気はあるわ」
「少しは悪びれろよ!」
突っ込むと、彼女はくつくつと笑いながら僕の胸板に置いた自分の腕を枕にした。
「知ってる? 阿良々木君。硫化アリルはビタミンB1の吸収を促進してくれるのよ」
「らしいな」
特に健康マニアというわけでもないが、聞いたことがある。あれは何の授業だったんだろう。化学の授業か、それとも保健体育か。
「疲労回復にも有効だわ。あとは、心筋梗塞にもいいそうよ。悪玉コレステロールを減らしてくれるの」
「ありがたい話だけれど、僕にそのけはないよ」
「じゃあ、脳梗塞?」
「どうあっても僕を病気にしたいのか」
それも、かなり致命的な。
「冗談はそれくらいにしておいて、阿良々木君には長生きして欲しいと思っているのは本当」
声のトーンは穏やかで落ち着いたものだった。
「これは、私の一方的な我がままなのだけれど。阿良々木君は私が死ぬよりも、一秒でいいから長く生きていて頂戴」
「うん。そのつもりだよ」
とはいえ、生死に関しては僕の意思が介在する余地はないのかもしれない。運命を操ることはできないという意味ではなく、この体が、死ねない体の可能性が あるからだ。その時になってみなければわからないが、歳すらもきちんと取れないとしたら、一体どうなってしまうのか。見当もつかなかった。
もちろん、こんな話は今するべきじゃないと、わかっている。ただし、いつかはきちんと話さなければいけない。大好きな人だからこそ、大切だからこそ、た だ馴れ合うだけの関係でありたくない。これは、僕の我がままだ。話し合いは自分一人で達成できない。要するに、戦場ヶ原にも重みを求めることになる。
これくらいの願いを聞き入れるのは、むしろ当然とも言える。そして、先に死なないという約束なら、果たされないで終わることはあるまい。
「あなたの最期を見届けるのも悪くはないと思うのよ。でも、阿良々木君の腕の中で息を引き取ることができる、その魅力の前では天秤が後者に大きく傾いてしまうわ」
「光栄だな。そんな風に思ってもらえて」
そういえば初めてのデートで戦場ヶ原は言っていた。男のことばかり考えるつまらない女になってしまった、と。彼女は一人で過ごしている間、ずっとそんな ことばかり思い回しているとしたら、やっべえ。すごく萌える。メロメロとか、使われなくなって久しい単語すら口にしかねない程、高揚してしまう。
「ありきたりな言葉になってしまうけれど、私の人生は、止まってしまっていた時間は、あなたによって再び時を刻み始めたの。つまり、最期を看取ってもらうことで、私の人生は阿良々木君に始まり阿良々木君に終わるのよ。これ以上の独占があって?」
それは拘束し、がんじがらめにして動けなくするよりも、あるいは強固な占有だった。こんな告白を受ければ、百人中九十九人が引いてしまうに違いない。でも、残りの一人である僕にとっては身もだえしたくなるような台詞だ。
「阿良々木君も面倒な女に捕まってしまったわね」
「そんなことはないさ」
なるほど、彼女はどこにでもいるようなタイプの人間じゃない。たずねられたら十中八九、むしろ全員が異口同音にマイノリティーと断ずるはずだ。しかし、かわいいところも、アブノーマルなところも、全部ひっくるめて、僕は戦場ヶ原ひたぎという少女が好きなのだ。
欲を言えば、毒だけはいくらか加減してもらいたいものだけれど。それがあってこその彼女という気もする。僕も、随分と頭が病んでいるのかもしれない。
「一応言っておくけれど、拒絶していたら阿良々木君は明日の朝日を拝めなかったところよ」
「穏やかじゃないな」
これって、冗談と思っていいんだよね。もし本気だったら、部屋の隅でガタガタ震えながら、命乞いをする心の準備をする必要がある。そんな事態になって、助けて、という言葉が受け入れられるとはとても思えないが。
「安心して。いざとなれば、苦しませて殺してあげる」
「それを聞いてどう安心しろと言うんだお前は!」
愛憎は紙一重とか言うけれど、憎しみという段階を簡単に飛び越えてしまう辺りが怖ろしい。愛殺。読みだけでは当てはまる漢字を想像しにくい新語だった。
「それにしても、阿良々木くんっていい体をしているわよね」
「なんだよいきなり」
あまりにもめまぐるしい話題の転換に戸惑いの声を上げると、戦場ヶ原はつと艶めいた微笑を浮かべた。
「食べてしまいたいと思うことがあるわ」
これは、どんな返事をしたものか。男女の関係を指すのか。それとも、産卵時のカマキリみたいに文字どおり食われてしまうのか。
「もちろん私は食事の話をしているのだけれど、阿良々木君は別の何かを想像したのかしら」
「落ち着け戦場ヶ原。僕の肉はおいしくない!」
「食わず嫌いはいけないわ」
「人間を食う方が悪いだろ!」
でも待てよ。八九寺は美味かったとか言ってたな。案外、いけるのか。いや、いかんだろう。
「ちなみに食事というのは阿良々木君をバラバラにする話じゃないわ。普通の、ご飯よ」
「はは、わかってるさ。わかっているとも」
頭ではわかっている。そのつもりだけど、さっきから冷たい汗がじわりと背を濡らしている。まさか、僕自身が弱肉強食の食物連鎖ピラミッドで下位層に組み込まれるとは想像もしなかった。まあ、どれだけ警戒したところで彼女が本気になれば、僕は食べられちゃうんだろうけど。
「ねえ阿良々木君。いい体をした阿良々木君。あなたはいったい何を思い描いたの?」
わざわざ言い直す意味がわからない。これは、新手の羞恥プレイだろうか。僕だって年頃の高校生だ。そういう話が嫌いなわけじゃない。でも、お付き合いをしている彼女と、そんな話をするのはあまりにも生々しく思えてしまう。
いずれにしても、無言を貫くことは許してくれそうにない。どうにかして、回避しなければ。
「色々と、な」
「色々、ね。たとえば?」
「そうだな。好きな人のこととか」
「へえ。好きな人、ね」
戦場ヶ原が口元を弓にしているのが、怖かった。これなら無表情でいてくれる方がマシというものだ。ええい、ちくしょう。
「ガハラさんのこと」
「……」
あ、照れた。それはこちらも同じなんだけど。これは、正直恥ずかしすぎる。わき目を振らず逃げ出したい気分だ。
「あー、っと」
しばらく続いた沈黙を破ったのは僕の方だった。
「まあ、この体についてマジレスをしておくと、妹たちと再々バトルをしてきたからじゃないか」
「自然とそうなった、というわけね」
つ、と彼女は指先で僕の鎖骨をなぞりながら、ほんのりと目元を桜色に染めたまま相槌を打つ。
「ああ。知ってのとおりうちの妹たちはパワフルだからな」
「ファイヤーシスターズ、ね」
栂の木二中のファイヤーシスターズ。バカで最高な、自慢の妹たち、火憐と月火につけられた二つ名である。そして、あいつらとやり合えば勝手に鍛えられるというものだった。
「そろそろ、料理を再開するわ」
「ああ。よろしく」
台所で転がったまま、一時間以上になるだろうか。申し分のないバカップル振りに、つい苦笑してしまう。
と、その時だった。両腕を床に突いた態勢で、戦場ヶ原はこちらの瞳をじっと見つめてくる。
「その前に一ついいかしら」
「なんだ?」
今度はいったい何だろう。のんびりと構えていた僕は、次の台詞に衝撃のあまり眼球が飛び出しかねない勢いで目を見開いた。
「阿良々木君があんなことをするから、すっかり濡れてしまったのだけれど、それについて何か意見があれば聞かせてもらいたいわね」
「な……」
いきなり何を言い出すんだよこの女。NGワードじゃないの? ギリギリというか、もうライン割っちゃってるよ。
「何もないのかしら」
「何も、っていうか、いや、それは」
「じゃあ、解答」
戦場ヶ原はにこりともせず告げると、突然顔を寄せてきた。料理をするんじゃなかったのか? まさか、さっきの僕が食材ネタを引っ張っているのか。動揺する僕の頬を、ぬめる何かが這う。
「ほら、濡れているでしょう」
「……は?」
「だから、阿良々木君のほっぺたが」
彼女が悪戯っぽく笑うのを見て、頬を舐められたのだとようやく理解する。
「もう少し、待っていて頂戴。さっきのところを復習していてくれてもいいわ」
「……ああ、そうだな」
これは、戦場ヶ原にとっての照れ隠しなのか。それとも、ただからかわれているだけなのか。
恋の機微に疎い僕には、判別がつかなかった。
お付き合いをしている彼女の手作り料理を頂く幸せな時間は、唐突に終わりを告げた。
「あーん」
そんな一声と共に箸先へ掬うように乗せた白米を、戦場ヶ原が差し出してきたのだ。なるほど、ラブラブな恋人同士の雰囲気を味わいたくてやっているのだと すれば、これほど嬉しいことはない。だが、一度ならず何度もこのネタで遊ばれた身としては手放しに喜べなかった。おそらくここで嬉しそうに口を開けようも のなら、頬か額か鼻の頭(さすがに眼球はないと思う)か、本来運ばれるべき場所以外のどこかに押しつけられる可能性が高いからだ。要するに、受け入れ態勢 を整えるのは、自らからかいの種をまいているも同然なのである。簡単に応じることができるのはよほどのMか、疑いの心を持たない者か、どちらかだろう。
とはいえ、結局応じるしかないことはわかっている。戦場ヶ原ひたぎに生半可な交渉は通じないし、
いくら無視したところでアクションを起こすことを強要されるだけだ。そして、いつもの平坦な無表情で微動だにせずこちらを見つめてくる、この行為だけでもすでに相当なプレッシャーだった。断るという選択肢を採った瞬間、向けられた箸の先端が凶器に変わる恐れすらある。
こういう時、ふと考えてしまう。付き合っている男女の関係とは、このようなものなのか、と。
「もしかして、箸ではなく口移しで食べさせて欲しかったのかしら。それならそうと、早く言ってくれれば私の手が疲れずに済むのだけれど」
戦場ヶ原ひたぎの真骨頂、堀を飛び越えていきなり本丸に乗り込んでくる口撃だ。
「それとも、力ずくで食べさせてもらう方がお好みかしら」
「いや、自発的に口を開く方が僕の好みだ」
神原なら嬉々として口を閉じるかもしれないけど。
「そう? じゃあ、あーん」
僕は覚悟を決めた。彼氏が彼女の言葉を信じられなくてどうする。戦場ヶ原だって鬼じゃない。今回はきっと大丈夫だ。そう思いたい。そうだといいなあ。
「あ、あーん」
口を開けた。すると、即座に注文が入る。
「もっと開いてもらえるかしら。入りきらないわ」
どれだけ食わせるつもりなんだ。箸に乗せたそれは、フェイクなのか。
「いいわ、阿良々木君。そのまま、開いていて頂戴。欲を言えば、もっと」
更に大きく口腔をさらしつつ、これはどういう種類の拷問なんだろう。限界まで口を開けさせられて、唯々諾々と従う。それは絶対服従を誓わされている図でしかない。ま、惚れた相手の言うことなら大抵、無条件に聞ける気はするが。
その時だった。
「あ……ん」
艶かしい声が聞こえてきて、僕は思わず突っ込みを入れる。
「なあ、ガハラさん。どうしてそこで色っぽい声を出すんだ」
「常日頃、桃色の妄想を繰り広げているであろう阿良々木君への、サービスのつもりだったのだけれど。どうやらお気に召さなかったようね」
ふふ、と小さく唇を持ち上げて笑う彼女はとてもかわいらしい。これも、戦場ヶ原にとっては照れ隠しなんだろうか。ただ、遊ばれているだけにしか思えないけれど。
「いや、召すも召さないの前に、僕がいつもそんなことを考えていると思われるのは心外だ」
「意外ね」
「しみじみと言うなよ」
「だって、そういうことしか考えていないのだとばかり思っていたもの」
「それは尊厳への侵害だ!」
こんなやり取りを挟みつつも、最終的にはきちんと『あーん』をしてもらったことを一応追記しておく。そしてこの後、僕たちの間に起きた出来事は忘れられない思い出となった。
あとがき
本作品が、皆さまの笑顔に繋がりましたら、光栄です。一日も早い復興を、安寧の訪れを、心よりお祈り申し上げます。
ノベル作家でご登録頂いております「鈴原仁」先生より、
震災応援ノベルが届きましたのでアップさせて頂きます!
文字数により前半、後半と分けております。
Pray for JAPAN!
一日でも早い復興と、この小説がささやかながらも皆さまの笑顔に繋がる一助となりますことを心より祈っています。
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タイトル
『ひたぎプレイ』
あらすじ
おかずと聞いて思い浮かべるものは今夜の献立か、あるいは好物か。しかし、その単語に神原駿河や戦場ヶ原ひたぎというエッセンスを加えた途端、それは食卓に並ぶものではなくなるのだ。
「おかず。それは阿良々木先輩が日夜有り余る性のほとばしりを発散するための…」
「黙れ!」
神原の性情は更なる深化を遂げ、戦場ヶ原の美しき棘は鋭さを増して…。
暦とひたぎのプラトニックな関係に、ついに終止符が…!?
本編
おかずとは、幾種類かの物を食べるという意味の言葉だ。飯の菜