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Fighting Scots from Japan

College of Woosterという小さなリベラルアーツカレッジでの生活。
Colleges that Change LivesやUS NEWSのランキングにも入り、国内ではちょっと有名。
日本でも有名にしたくて日々の生活を書いてます(・ω・)
海外大学や海外生活に興味がある人。みてみてください

U.S. Newsで例年、学部研究において特に優れた環境であると言われているThe College of Wooster。四年生は専攻に関わらず全員、Independent Study(以下I.S.)と呼ばれる大学院レベルの研究を教授と一対一で行います。しかし現在二年生の筆者は、高校生の頃からI.S.がどんなものなのか具体的にイメージできませんでした。というわけで今回は、I.S.やウースターでの四年間について、卒業目前の先輩にインタビューしました!

今回インタビューした林 正悟先輩

海外経験:なし

Woosterを選んだ理由:留学センターの紹介

専攻:心理学

出身:広島

 

目次

・I.S.は大学院で研究するための練習

・起業志望から教育心理の道へ

・セサミストリートと共感力が学力を上げる?

・徐々に目標を見つけた大学生活

・日本を変えるために、教育を変える

・I.S.を通して課題解決の力を育てるウースター

I.S.は大学院で研究するための練習

まず、正悟さんから見てIndependent Study (I.S.)って何ですか?

 

うーん、大学院に行くためのベストな練習かな。英語でさ、学部は”undergraduate”、大学院は”graduate” schoolじゃん。

 

そうですね。

 

 学部は”under”って言うくらいだから、大学院に行くための準備の段階なのよ。だから卒論として取り組むI.S.は、学生が大学院に行った時に、疑問に思ったことをきちんと研究するための練習みたいなもの。その練習のために、博士号を持った教授陣が手取り足取りやってくれるから、いきなり放り投げられないのが良いところだね。

 

実際にどんな手順で進んでいくんですか?

 

まずI.S.のために取らなきゃいけない授業が三年生であって。そこで仮説を立てたり、仮説を証明する論文を探したり、実験をする前段階までを学ぶかな。

 

三年生からもうI.S.の準備を始めるんですね、さすがウースター。

 

それで四年生になってから、こういう研究したいなって案を担当の教授に何個か伝えて、その中から大学に在籍しながらでも研究できそうなものを見極めて、やっとI.S.開始だね。

 

起業志望から教育心理の道へ

他の授業とも並行しながらの研究ですもんね。ちなみに、心理学を専攻しようと決めたのはどうしてですか?

 

俺はまさに、I.S.を基準に専攻を選んだな。順番に話すと、入学した頃はとにかく起業をしたかったから、まず経営学の授業をとってみたんだよね。でも、これは俺がやりたい学問じゃないなと思って。

 

なるほど。

 

起業するにしても自分が本当に興味のあることで起業するから、経営学を専攻にするのはちょっと違うのかもなって。じゃあ何に興味があるんだろうって色々な教科を取っていたら、だんだん自由に授業が選べるリベラルアーツというシステム自体に興味が湧いてきて。

 

今までの、受験のためにこれを勉強しなさいって縛られていた日本の環境から、自由に学ぶものを選べる環境に入ったから、すごいギャップがあったんだよね。

 

それで、その日本の偏った教育をどうやったら変えられるだろうって思った時に、教育心理を見つけた。それで心理学の授業も全体的に面白かったから、とりあえず心理学専攻にしてみようと。そう思ったのが二年生の前学期で、ちゃんと専攻に決めたのは、締め切り直前の二年の終わりだったかな。

セサミストリートと共感力が学力を上げる?

ではその心理学、その中でも教育心理の分野で、実際にどんなI.S.をしたのかを教えてください。

 

まず今の研究を選んだきっかけは、四年生が始まる直前の夏休みに、セサミストリート効果について知ったこと。

 

あの、エルモとかクッキーモンスターとかのセサミストリート?

 

そう。それは、三から五歳でセサミストリートを見ていた子供の成績が、高校生になっても見ていなかった子の成績より高くなる現象のことなんだけど。動画を見るだけで、どうしてそんなこと起きるんだろうって疑問に思って。

 

じゃあ、そのセサミストリート効果を証明する研究をしたんですか?

 

いや、セサミストリート効果自体は証明されている。でもセサミストリートが、なんで子供の成績を上げるかはわかっていなくて。

 

で実は、人の感情を理解するいわゆる共感能力が、高校の成績に関わっているっていう論文もたくさんあるんだよ。だから、喜怒哀楽を含むストーリーが多いセサミストリートは、子供の共感性を高めるんじゃないかと思って。

 

わかった!えっと、共感力が、成績を上げる。セサミストリートが、成績を上げる。この二つの情報から、セサミストリートが共感力をあげるから、成績を上げているっていうのを証明しようとしたんですね?

 

そう。

 

なるほど。(ふう、なんとか理解できた。)

担当の教授に、「あなたは、この分野でプロフェッショナルになってください。学生の誰よりも、もちろん私よりも詳しくなってください。」と言われたそう。あくまでも自力で進まなきゃいけないのがI.S.の魅力とのこと。

 

テーマが決まったら、次は実験の計画ですか。

 

そうだね、要するに俺は、セサミストリートみたいな教育系のメディアを見ている子供ほど、共感能力が高くなるっていう仮説を立てたの。手順としては、まずそのテーマに関する論文を徹底的に集めて、徹底的に読んだかな。そうして、仮説は必ず成り立つ!って示せるくらいの材料が集まってから、実験方法を考え始めました。

 

なるほど、大学近くの幼稚園で実験したんでしたっけ?

 

そうそう。子供をね、セサミストリートを見るグループと、セサミストリートだけどABCの歌みたいな感情と関係ない話を見るグループと、あと何も見ないグループで分けて。ビデオを見終わった後に、普段一緒にいる先生に膝を机に打つふりをしてもらったの。「痛い!」って言ったときに、子供の表情(Affective Empathy)と発言(Cognitive Empathy)、どういう行動を取るか(Prosocial Behavior)の三つを測った。

 

面白そう、結果はどうなったんですか?

 

うーん、実験自体は結局サンプル不足で、重要なデータは取れなかったんだけど。でも、実験と同時期にした親へのアンケートでは面白い結果が出ましたね。教育系のテレビを見ている子供ほど、人助けをたくさんするっていう。

 

教育系のテレビが子供に良い影響を与えるっていう、普通の結果じゃないですか?

 

何で面白いかっていうと、その子供たちは、共感力に関しては他の子供と一緒だったの。つまり、その子達は共感的になるわけではないのに、人のために行動するってことがわかって。

 

ここからは俺の仮説なんだけど、普段からその教育系コンテンツを見ている子っていうのは多分、親から離れて一人でタブレットと向き合っているわけよ。そうすると親と過ごす時間が薄くなるんだよね。それに心理学の愛着形成の観点を合わせると、親との時間が過ごせない、精神的に不安定な子供が、親から褒めてもらうために人助けをしているんじゃないかっていう結論になった。

 

実験が、仮説とは違うものを証明したってことですか?

 

そうだね。仮説とは違うところに結論が落ちたけど、教育系コンテンツを見る時は、親と一緒に見て、見た後はその内容について話し合いましょうっていうアドバイスが正しいっていうエビデンスにはなった。それはまだ世界でもあまり研究されていなかったから、そこに関しては自分の研究に価値があったなと思っています。

徐々に目標を見つけた大学生活

 

なるほど。では一年をかけたI.S.が終わったわけですが、それも含めて、大学生活でのターニングポイントはどこでしたか。

 

うーん、なんか瞬間的に劇的に変わるっていうよりは、徐々になんだよなぁ。でもやっぱり、目標ができた時だろうな。

 

じゃあ、専攻を決めたとき?

 

専攻を決めた時は多分、そこまで教育でやっていこうという覚悟はなかったから違うな。専攻を決めた後の夏休みに文部科学省で1ヶ月間インターンして。まぁこれは、誰かが変えなきゃいけない問題だなぁという風に切実に思って。それでまた論文を読んでっていう風に…経験を重ねるうちに、いつの間にか覚悟が固まったって感じかな。

 

なるほどね。

 

覚悟が決まってからは、がむしゃらに何でも手を出していたときとは違って、目標を達成するために学問をどう使うか考えながら、身になる学びができるようになったね。

 

まぁ確かに、ゲームでもレベルは一つずつ上がりますからね。明確なターニングポイントがある方が珍しいのかもしれないです。

「ない」って答えでもいいって言っても、必死にターニングポイントを探している。 

日本を変えるために、教育を変える

ちなみに、大学卒業後はどうされるんですか?

 

大学卒業後は、地元の広島に日本で初めて全寮制の小学生向けインターナショナルスクールができるので、そこの設立に携わっています。

 

卒業後も、目標を達成するべく教育関連に進むんですね。具体的に、教育業界をこうしたいっていう理想像についてきいてもいいですか?

 

俺は昔から、幕末の志士とか、歴史小説とかを読むのが好きで。そういう人たちに憧れているから、日本を良くしたいっていう思いが根底にあるんだよね。そう考えた時に、国を作るのは人で、人を作るのは教育だから。

 

今までは大量生産の時代だったから、ある方向に向かって人の足並みを揃える教育が正解だったんだよ。でもAIの台頭によって、時代は変わり始めている。それに、AIにはない人間ならではの価値を育てる教育っていうのは、俺がこんな教育があったらいいなと思っていた教育の形なんだよね。

 

時代の流れとしても、正悟さんが描いていた理想の教育が、求められていると。

 

そうですね。笑

具体的にいうと、主体的な学びが得られる教育が今の理想かな。俺はね、学びっていうのは、「経験」と「新しい知識」が合わさった時に生まれるものだと思っていて。でもそのベースとなる人生の「経験」が、日本の教育業界には圧倒的に欠如しているんだよ。

 

例えば、恋愛も十分いい経験だと思うんだよ。いかにその人の感情に訴えるかが、経験の濃さになるから。でも、日本の小中高で得られる経験って似通っているから、一人ひとりに小さな差異しか生まれない。

 

まぁ確かに、普通に過ごしていれば、勉強か部活か、恋愛くらいしかやることないですね。

 

だから、こういう選択肢全部できるよっていうのを子供達に大量に与えてあげて、これかな?あれかな?って、決めたり辞めたりする経験をさせることで、一人ひとりが本当に好きなものを見つけられるようにできればいいなと思ってる。そうやって好きなものをもっと深く知りたいって思って初めて、学ぶ意欲が出てくるはずだから。

 

「子供たちが好きなものを学べる教育」って、いつも言っているのはそういうことなんですね。

 

まぁでも、俺は時代ごとにそれぞれベストな教育があると思っているから、明日にはまた違った理想の教育を目指しているかもしれない。

I.S.を通して課題解決の力を育てるウースター

最後に、何か高校生に言い残したことがあれば。

 

あ、I.S.についてもっと話したい。

 

ぜひ。笑

 

俺は入学前にも一応I.S.の存在は知ってたけど、でもそれを理由にウースターを選んだってほどでもなくて。でも今考えると、I.S.があるからこそウースターに入れて良かったなってすごい思う。逆に、I.S.がない大学にいくってことが信じられない。

 

おー、そこまで。

 

これは友人の受け売りなんだけど。何か目指したいものができたときに必要なのは、詳しい道順が書いてある地図と、どの方向に進むべきかを導くコンパスなんだよね。

 

ほう?

 

ウースターの一・二年で身につけるのは、ひたすら論文や本を読んで、情報を整理する能力。そしてI.S.を通して、情報を探し出しかつ繋げることで、つながりの中から問題点を見つける能力を身につける。そしてこの鍛えられた能力っていうのは、地図とコンパスとして世の中でもそのまま使えるんだよ。

 

例えば、俺が教育を変えたいって思ったとする。そのためにはまず、教育についての最新情報を世の中から見つけ出して、教育自体を理解しなきゃいけない。これが、地図を作る作業。

 

地図が手に入ったら、次は方向を知るためのコンパス?

 

そう。情報を繋げることで、日本の教育のどこが問題なのかっていう要素を分析して、問題解決への方向性を指し示すコンパスを手に入れる。

 

おー完璧。

 

ただ、この過程で一番大事なのにウースターでも教えてくれないことがあって。それが、自分が何に興味や情熱を持っているかってこと。

 

???

 

さっき言ったみたいに、何かを学ぶってことは、「経験」と「新しい知識」を結びつけて、過去の経験を整理することだから。過去の経験が十分にあれば、自分はこういうことに興味があったんだって気付いて専攻を選ぶこともできるけれど、過去の経験自体は増やせない。

 

確かに、教科書を読んでいて「なるほど!」って経験と照らし合わせてスッキリすることはあっても、恋愛みたいに感情が揺さぶられることはあまりないですね。

 

だから、その経験を増やすことの方が、整理することより大事だと思う。大学の前で貯めることが理想だけど、そうじゃないなら、大学のカリキュラム外で自ら経験のストックを増やさないと。

 

リベラルアーツ大学に来れば、自然と人生の目標が見つかるわけではないというのは、私も身をもって実感したので。高校生・大学生関係なく、新しい経験をしろってことですね。

 

まぁとにかく、俺は、結論としてリベラルアーツカレッジに行くならウースターがベストだと思う。そんなことには、高校生の時には気がつけなかったけど。 

 

というわけで、完全にウースターの宣伝で締めていただいた今回のインタビュー。第二弾は神経生物学専攻の先輩にインタビューしました!

 

第二弾:アメリカの大学内で知らない人はいない?生徒会から遺伝子学の実験までこなす先輩の、チャンスの掴み方